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こどもの親権・監護権について

2007年12月20日 | 風船
われわれ、裁判官ネットワークへのご意見、ご感想を拝見していますと、離婚に際しての子供の親権・監護権を巡っての、当事者からの不満の声が最近とみに多いように思います。特に,離婚紛争の渦中にある父親から,どうして子供の親権者になるのに,父親と母親とで「格差」があり,原則として母親になってしまうのか,という不平・不満であり,子供に対して従来から愛情を持って接してきて,妻(子供にとっての母)以上に面倒もみ、子供もなついてくれるのに、離婚となると,引き離されてしまう結果になるのは納得がいかないという訴えが目立ちます。

現在の家事事件のなかで、最も、裁判官(家事審判官)や家庭裁判所調査官を悩ましているのが、この子供の監護を巡る問題です。具体的な事件についてお話しはできませんので、以下、一般論になりますが、述べたいと思います。

一般論をいいますと、ごく常識的のことになりますが、親権者をどちらにするかは、父親と母親がどれだけ子供に愛情をもっているのか、これまでの結婚生活において、子供に対してどのような養育態度であったか、今後、子供を養育していくについて、生活環境、経済的能力等はどうか、親が昼間働いている間の、監護補助者となるその両親(子供からみて祖父母)の監護能力はどうか、さらには、こども自身の希望はどうか、といったことを総合的にみて判断します。昔から、親権者の選択について、母親優先の原則といわれていましたが、最近の少子化の趨勢のもと、子育てをしたいという父親が増え、またその両親すなわち祖父母もまだ元気で「孫」を育てたいという希望も強く、「子供が小さいからお母さんに」という、単純な論理では解決しにくくなっています。離婚紛争にかかわる調停委員会でも、そうしたことを十分承知のうえで、双方の言い分をきいたうえ、話し合い解決をめざし、時に調停委員会としての意見をいうこともあると思いますが、私の考えでは、原則としては、意見を押しつけるのは妥当ではなく、当事者が自分の判断で選択すべき問題だとおもっています。したがって、そこで双方がどうしても親権者は自分がなりたいと主張すれば、離婚訴訟で決めるしかありません。

 あくまで、一般論ですが、母親が監護者として不適当な事情が認められない場合、父親が親権者の点だけで裁判をするのはどうかと考えて、諦めることも少なくないため、結果的に母親が親権者になるケースが多くなるように思います。その場合、母親が、父親に対して子供との「面接交渉」をこころよく認めれば、父親も不承不承であれ納得するのですが、それが認められない場合に、対立が深刻化し、話し合いでの解決が困難となります。

 こうした場合、裁判所(調停委員会あるいは離婚訴訟の担当裁判官)としては、、面接交渉に消極的な母親(親権者が父親が相当な場合には父親)に、「夫(妻)」としては問題があったかもしれないが、「父親(母親)」としてはそれほど問題がないから面接交渉を認めてはどうかと、説得するのですが、感情的対立もあって、それを認めない当事者がまだまだおられます。面接交渉の問題は、とことん争われますと、「審判」でしか解決できないのですが、その強制執行をどうするかという点で隘路があり、今、家庭裁判所の裁判官や調査官が最も頭を悩まし、心を痛めている問題といってよいでしょう。当事者の方からみると、裁判所のやり方にご不満が残るかもしれませんが、裁判官及び調査官は、具体的事件において、子供の福祉を第一に考え、妥当な結論になるよう努力していることを理解していただきたいと思います。

翻って、日本の民法が原則としてきた、離婚の場合の「単独親権」について、このままにしていいのか、という疑問が、最近提起され、それに関する書物もでています。早晩、真面目に取り組むべき問題といえるでしょう。      (風船)

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