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このルールは,約束や義務などを負わないルールという意味だと思います。法曹界で,争点整理手続の活性化・口頭主義をめぐって,最近目にすることがあります。私は,この言葉自体を広げたいと思うことが多い今日この頃です。

近年,民事訴訟における争点整理手続の期間が長くなっているという実情があるようです。また,争点整理手続が準備書面の陳述と期日の指定のみで終わり,かつての「3分間弁論」を彷彿させる「3分間弁論準備」という揶揄もあるようです。裁判官も弁護士も口頭で議論して,争点及び証拠を整理する機能が弱っているのではないかということです。その結果,争点整理手続の期間が長くなっているというだけでなく,裁判官と弁護士との共通認識が薄れ,弁護士が予想していなかった論点で結論が出されるという場合があるのではないかとの批判も耳にします。

争点整理手続の期間が長くなっているという実情とその対策については,2年ごとに最高裁判所が作成する「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」で詳しく報告されています。是非ご覧ください。http://www.courts.go.jp/vcms_lf/hokoku_07_gaiyou.pdf

この中で,裁判所と当事者との間で主要な争点や重要な証拠についての認識を共有するための対策として,「裁判所においては,単に当事者の主張反論を促して対比するだけでなく,釈明権の行使や暫定的心証開示を適切に行い,口頭の議論を活性化させることが重要」であり,「代理人には,争点整理は裁判所が主導的に行うものとして受動的な姿勢で臨むのではなく,争点の解明に主体的に関わり,共通基盤の形成を裁判所と協働して行うという発想をより強く持ち,当事者本人からの事情聴取などの事前準備を十分に行うことはもちろん,主張書面の作成においても実質的な争点を意識した記載を心掛けるなどすること」が望まれるとされています。

もっともなことなのですが,裁判所や代理人が積極的に口頭の議論を活性化させる阻害要因があるように思います。その一つに,口頭での議論をメモして,口頭での議論自体を次の準備書面に記載して,批判することがあります。これをされると,口頭での議論はできなくなるおそれが大きくなります。何人かの弁護士の方から,この点に関する苦い思い出話を聞きました(「そのようなことを相手方からされ,二度と口頭議論はしたくないと思うようになり,実際にしなくなりました。」)。実は裁判官も同じ思いを抱く人が多いのではないでしょうか。口頭での議論は,暫定的心証開示に代表されるように,暫定的,仮定的なものを当然含みます。変更は当然予定されるものです。また,一見「拙い」と思われる質問や疑問も,それに対する回答,反論,再反論等を繰り返していくことで,実は主張や証拠の理解を深め,「拙くなかった」と思われることが,実際に口頭議論をしてみると多々経験するところです。当然共通認識も深まります。しかし,暫定的,仮定的なものや,一見「拙い」と思われる質問や疑問自体を批判されると,確実なことしか言えなくなるのではないでしょうか。いや,「確実なこと」「自信のあること」しか言うべきではないというご意見もあるでしょうが,弁論兼和解という経験も経て,弁論準備手続を原則非公開とし,ラウンドテーブル法廷を設置し,活発に議論することを予定した弁論準備手続は,日本人のメンタリティーにも配慮したものであり,その立法趣旨・制度設計からして,名誉棄損的な言動は論外としても,「確実なこと」「自信のあること」だけを予定していたわけではないと思います。そして,暫定的,仮定的なものや,一見「拙い」と思われる質問や疑問をた許容することが,「ノン・コミットメントルール」であり,口頭の議論は,その場限りのものであって,その過程での細々とした言動を批判するのではなく,議論の結果を踏まえて,(批判ではなく)自己の主張立証を深めていくことが,運用において大切だと思われます。

ある弁護士は,「ノン・コミットメントルール」を裁判所で是非徹底していただきたいと言われました。裁判所だけでなく,法曹全体で是非共通認識にできればと思いますが,皆さん,いかがでしょうか。 また,こ のルールの徹底のためには,言葉自体を「人口に膾炙」させる必要があるように思います。民事訴訟における「流行語」にしたいですね。



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