さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

ミトコンドリアの逆襲

2010-03-07 02:42:46 | その他
 全身性炎症反応症候群(SIRS)は病原体の感染や外傷によって引き起こされる炎症、心拍数の増加、呼吸障害、多臓器不全を伴う症状で、集中治療における主な死因の一つである。特に病原体に起因するSIRSは敗血症と呼ばれるが、これは病原体の侵入に対する人間側の免疫反応が過剰になって起きるとされている。同じ症状が外傷だけでも起こることは以前から知られていたが、一体なぜそのような病原体が存在し無い場合でも免疫の暴走が起きるのか研究者の間では謎だった。

 Harvard Medical SchoolのHauser らの最近の研究によると、免疫を暴走させている犯人は、我々自身のミトコンドリアらしい。ミトコンドリアは我々の細胞の中にある細胞小器官の一種で、酸素を使って有機物からエネルギーを取り出すという重要な役割を持っている。ミトコンドリア自体はもともとは自立した原核生物だったのだが、遠い昔に真核生物の細胞の中に取り込まれて共生化したと考えられている。我々の中にいるミトコンドリアは完全に器官と化しているのでもはや単独で生きていける能力を持ってはいないが、自立的に生きていた時代の名残としてか最小限のゲノムをまだ保持している。ミトコンドリアは細胞の内側に存在しているので、普段は免疫系の細胞と接触することはない。しかし、外傷などを受けて細胞が損傷すると、壊れた細胞膜から大量のミトコンドリアが流出する。研究によればこの流出したミトコンドリアがバクテリアの感染を受けていると免疫系に誤認させ、SIRSを引き起こすらしい。

<参考>
Circulating mitochondrial DAMPs cause inflammatory responses to injury
Nature 464, 104-107 (4 March 2010) | doi:10.1038/nature08780

How the cell's powerhouses turn deadly (Nature@News)

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