一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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『モダニズム変奏曲―東アジアの近現代音楽史』を読む。

2006-03-04 03:16:41 | Book Review
実は、今回「~を読む。」という看板に偽りありであります。
というのも、本文四百数十ページ、年表・索引等巻末資料百数十ページという大部の本書。とてもでもないけれど、完全に目を通すわけにいかなかった。

ですから申し訳ありませんが、概略のご紹介を(誤りは遠慮なくご指摘を)。

従来、この手の東アジア(本書では、日本、中国、韓国の3部構成)の音楽を扱った本ですと、古代の青銅器の楽器から始まって近代以前まで、つまり伝統音楽が主で、付けたりとして近代音楽の記述がちょっとある位でした。

それを「固有音楽時代」「国際音楽時代」「民族音楽時代」(この区分自体が新鮮)までの記述は概略に留め、「世界(西洋)音楽時代」をメインに置いたところが、まず特徴の1つ。

第2の特徴は、第1と関係するのですが、各国の近代化の様相を広く捉えていること。
「各国・各地域の音楽史を読み比べることで、それぞれの国や地域における近代化の道筋の違い、その間に繰り返されてきた試行錯誤の跡、また相互の関係などを、考えていただくことになると思う。」(本書「はじめに」)
結局は、西洋音楽の導入も、西洋文化と固有文化との軋轢の中でなされてきた、ということです。ですから、固有文化のありようによって、導入のされ方(近代化の過程や機序)も異なる。
「近代化」の道筋が1本だけではない、というのは当たり前のことですね(どうも、最近のこの国での論調を見ていると、日本の近代化の過程だけが、唯一のもののように主張するものが多くって)。

第3の特徴は、
「現代に入ってからはむしろ、主要な作曲家や主要作品を紹介することに重きを置くように心がけた」

という記述方法であるため、東アジアの現代音楽資料集として役立つこと。
この辺り、サーチ・エンジンでも弱いジャンルではないでしょうか(中国語や韓国語が分る人は別かもしれませんが)。

以上のように、比較文化史的な読み物としても、資料としても、役に立つことは間違いないところ(「世界最初の東アジア近現代音楽史」!)。
ぜひお買い求めを、と言いたいところですが、何分にもお値段が……。
ということで、お近くの図書館にリクエストをしましょう。使える本ですので、館蔵書として無駄にはなりません。

最後に1つだけ注文を。
改訂版の際には、欧文での中国人名索引を付けていただきたい。
というのも、現在流通している中国人作曲家のCDは、欧文表記がほとんどだからです。

譚盾や陳其鋼辺りの有名どころならば、Tan Dun や Qigang Chen で分りますが、現在、小生が聴いている Ge Gan-ru となるともうさっぱり。手がかりすらありません(ご存知の方はご教示を乞う)。

発行元である朔北社の担当の方に、ぜひお願いしたい。

石田一志
『モダニズム変奏曲―東アジアの近現代音楽史』
朔北社
定価:本体4,800円(税別)
ISBN4860850238