ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2017.4.5 最大限の効果を享受するために

2017-04-05 20:52:31 | 日記
 以前に比べて治療薬の進歩が目覚しいとはいえ、肺がんで亡くなった方は、私が存じ上げる方だけでも決して少なくない。職場の先輩のご主人はいくつかの抗がん剤治療の効果なく、別の先輩の妹さんは数々の分子標的治療薬が奏功し自宅で普通の生活をされた後、耐性がついて旅立たれたと聞いた。また、若い頃とてもお世話になったドクターは、発売されて間もないイレッサの副作用で他界されている。

 いずれも私よりもがん告知は遅く、見つかった時には手術適用外ステージ4だったという。同じステージ4でも10年近くこうして何とか普通の生活を続けている私だが、部位によっては、予後が長い乳がんとは全く違う経過を辿るのだということを改めて思う。

 そんな中、読売新聞オンライン「深読みチャンネル」で、なるほどなと考えさせられた記事があった。長文ではあるが、以下、どう再発がんという手ごわい病と向き合っていくのが最終的に賢いといえるのか、良い勉強になると考えるので転載させて頂く。

※   ※   ※(転載開始)

がん新薬の「実力」 効果を最大限高める方法とは
読売新聞調査研究本部主任研究員 田中秀一(2017年04月01日 05時20分)

 (前略)
注目される「免疫チェックポイント阻害薬」
 小野薬品工業(大阪市)が開発したオプジーボ(成分名・ニボルマブ)は、がんを攻撃する免疫の力を強める薬で、2014年に皮膚がんの一種である悪性黒色腫の抗がん剤として承認、保険適用された。その後、肺や腎臓のがんでも使用が認められた。肺がんには、米製薬大手メルクが開発した同じ種類の新薬「キイトルーダ」(成分名・ペムブロリズマブ)も昨年12月に承認された。他の製薬会社も同様の薬を開発中だ。
 「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるオプジーボが注目されるのは、今までの抗がん剤とは全く異なる作用を持つからだ。
 免疫とは、細菌やウイルスなどの異物を攻撃して排除する体の仕組みを言う。免疫細胞は、がんも異物とみなして攻撃する。しかし、がんは、免疫細胞の表面にたんぱく質を取り付かせることで、免疫細胞による攻撃にブレーキをかける能力を持っている。体には免疫力が備わっているのに、がん細胞が増殖を繰り返してしまうのは、免疫細胞の能力を損なうためだ。
 免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫にストップをかけるブレーキを解除して、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬だ。ちなみに免疫チェックポイントとは、攻撃にブレーキをかける免疫細胞上の分子を指す。がんの撃退に待ったをかける分子の動きを阻み、体の免疫力を活用してがんを攻撃させる薬――が、免疫チェックポイント阻害薬なのだ。
 今までの治療薬が、がん細胞を直接攻撃するものだったのに対し、この薬は人体が本来持っている免疫の力を活用する点に特色がある。
 多くのがん専門医は「オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬が、がん治療を大きく変える」と期待している。患者数の多い肺がんを例にとって、がん治療薬の歴史を振り返りながら見てみよう。
苦難の歴史たどった肺がん治療薬
 実のところ肺がんに効く薬は、かつてはほとんどなかった。一部の抗がん剤(化学療法剤という)が有効であることが分かったのは、1990年代になってからだ。しかし、それでも延命効果は1~2か月にとどまった。苦しい副作用に耐えながら治療を受けても、余命はわずかに延びるに過ぎなかった。
 専門医の間でも、「こうした治療にどれくらい意味があるのか?」という懐疑的な意見があった。がん治療に疑問を投げかけた近藤誠医師の著書「患者よ、がんと闘うな」(96年刊)がベストセラーになったのは、まさにそうした時代だった。
 この状況に変化をもたらしたのが、英アストラゼネカ社が開発し、2002年に日本国内で承認された肺がん治療薬「イレッサ」(成分名・ゲフィチニブ)だった。
 イレッサは、がん細胞に特有な分子構造をターゲットにして開発された薬で、「分子標的薬」と呼ばれる。がんをピンポイントで狙い撃ちできることから、治療の効果が高く、副作用の少ない「夢の新薬」と、鳴り物入りの登場だった。
 だが、イレッサをめぐっては、これを服用した患者が重い肺炎の副作用で死亡する例が相次ぎ、大きな社会問題となった。飲み薬だったことから、抗がん剤治療の経験のない医師や歯科医までが処方するなど、安易に使われたことが背景にあった。
 さらにイレッサは、海外の臨床試験で「延命効果が認められなかった」とする研究結果が04年に公表された。このため、ヨーロッパや米国での承認申請が取り下げられるなど、一時は厳しい評価にさらされた。
 その後、イレッサは、上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれる特定の遺伝子変異がある患者に限定して使用すると、効果が高いことが判明した。10年に公表された、EGFR遺伝子に変異のある患者を対象にした国内の臨床試験によると、従来の治療で1年余りだった患者の生存期間(中央値)が、イレッサを使用した患者は2年余りとなった。生存期間が約2倍に延びた格好だ。
 この結果、日本ではイレッサは再び広く使われるようになった。「どのような患者に使えば効果があるか?」について、事前に調べられるようになったことにより、一時は社会問題になった薬が復活したわけだ。同様の分子標的薬は、その後も次々に承認されている。
 イレッサなどの分子標的薬は、服用した薬の力でがんの分子構造を直接狙い撃ちにする「外からの剣」だ。これに対し、次世代の薬とされるオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬は、体に備わった免疫力を高めてがんを攻撃する「内からの剣」と言えるだろう。
 がん研究会有明病院の西尾誠人・呼吸器内科部長は「イレッサは、肺がん治療の第1のパラダイムシフト(概念や価値観の転換)になった。オプジーボは第2のパラダイムシフトになる」と期待する。
「夢の新薬」にはほど遠い?
 それでは、オプジーボの実際の効果はどれほどのものだろうか?
 肺がんのうち、腺がんと呼ばれる種類の患者を対象にした臨床試験では、患者の生存期間(中央値)は、従来の治療を受けた場合に9.4か月だったのに対し、オプジーボは12.2か月だった。延命効果は認められたが、余命が延びた期間は3か月足らずに過ぎなかった。
 治療対象になった患者が異なり、単純な比較はできないものの、薬としての「実力」では、約2倍の延命効果をもたらしたイレッサに及ばない。しかも、オプジーボが効く患者の割合は、肺がん患者全体の2割程度にとどまる。また、ここで言う「薬が効く」というのは、一時的にがんが小さくなることを指し、「がんが治る」ことを意味しない。
 このため、「オプジーボは『夢の新薬』というにはほど遠い」(勝俣範之・日本医科大学武蔵小杉病院教授)のが実情だ。いくらかの延命効果がもたらされたとはいえ、薬でがんを治せる状況になったわけではない。
 そのうえ、オプジーボは価格がべらぼうに高いことが問題になった。
 日本国内での薬剤費は発売当初、1人当たり年間約3500万円と、英国の5倍、米国の2.5倍に上る設定だった。患者数が少ない皮膚がん対象の薬として、世界に先駆けて承認された経緯があり、高額な薬価が認められたのだ。だが、あまりに高価であることが批判されたため、政府が2年に1度の薬価改定を待たず、今年2月から急きょ半額(約1700万円)に引き下げたことは大きなニュースになった。
 半額に引き下げられたとはいえ、オプジーボの薬剤費はイレッサ(年間薬剤費約240万円)の約7倍だ。効果からすると、まだ法外な値段と言えるのではないか。今年2月に発売されたキイトルーダも1年間の薬剤費は約1400万円で、オプジーボと同じような水準だ。
 副作用にも注意が必要だ。免疫は、過剰に働くと正常細胞も攻撃する。このため、オプジーボの投与を続けると、間質性肺炎、重症筋無力症、大腸炎など自己免疫疾患に似た副作用が現れる場合がある。
 オプジーボには、もう一つ大きな問題がある。それは、どのような患者に薬が効くか、事前に判定する方法がないことだ。
 分子標的薬であるイレッサは、事前に効果がありそうな患者を選び出すことによって有効性を高め、治療薬としての位置づけを確立した。オプジーボと同じ免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダは、がん細胞の表面にある特定の分子(PD-L1)に変異がある場合に使用すると、延命効果があることが示されている。オプジーボも、研究者たちが効果予測の判定方法を懸命に探しているが、いまだに研究途上だ。
なおも大きい「オプジーボ」への期待
 それでも、オプジーボなど免疫チェックポイント阻害薬に期待する声は高い。それは、薬の寿命と密接な関係がある。
 従来の抗がん剤は、使っているうちに効かなくなる場合が多い。これは、イレッサなど分子標的薬も例外ではない。
 薬はがん細胞と結合することによって効果を表す。だが、がんには、抗がん剤の攻撃をかわす巧妙な仕組みが備わっている。イレッサなどの分子標的薬を使い続けると、がん細胞の表面に薬が結合できなくなるような変化が起きて耐性化し、薬が効かなくなるのだ。イレッサの場合、耐性ができて薬が効かなくなるまでの期間は、約1年と言われている。
 これに対して、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、効き目が長続きする傾向がある。一部の患者では治療が終了してからも、がんの進行が見られないことがあるという。がんを攻撃する免疫という人体に備わった仕組みが増強されるからだと考えられている。「がんに対する“体質”が強化される」とも言える。
 がんの治療では、分子標的薬などの効き目が切れることを念頭に置き、「どの薬を使って、どういう順番でつないでいくか?」という薬の投手リレーが重視される。その意味で、効果が長期間継続して、ロング・リリーフを任せられる可能性がある免疫チェックポイント阻害薬の登場は、専門医にとって心強い。
延命効果ある早期の緩和ケア
 イレッサ、オプジーボ、キイトルーダ……。医療現場は、新薬の導入を競っている。だが、患者のためには、ほかにもやるべきことはある。前出の勝俣・日本医大教授が勧めるのが、緩和ケアの充実だ。
 緩和ケアというと、抗がん剤などの治療が効果を失い、手立てがなくなった後の末期に行われる治療というイメージが強いが、そうではない。厚生労働省も、「がんとして診断されれば早期に緩和ケアを実施すべきだ」としている。
 早期の緩和ケアとは何か? それは、(1)医師と患者の信頼関係構築(2)治癒が困難だという病状の理解(3)治療に関する意思決定への支援(4)患者の希望を実現することの支援――などを含む。まさに、患者に対する重層的かつ多面的な支援と言えるだろう。
 米国ハーバード大学の興味深いデータがある。
 同大学腫瘍内科の医師らが、従来の抗がん剤治療をした患者と、抗がん剤治療に加えて早期の緩和ケアを行った患者のケースを比較する臨床試験を実施した。その結果、緩和ケアを行った患者の方が、生存期間が2.7か月長かった。早期の緩和ケアには、延命効果もあるのだ。オプジーボの延命効果が約3か月であることを考えれば、それに匹敵する立派な治療効果だと言える。
 緩和ケアは、緩和ケア専門医ばかりでなく、訓練を受けた看護師らによるチーム医療が必要になる。ただ、日本国内で、こうしたチーム医療を実践している病院は多くない。さらなる普及が期待されるところだ。
 がん治療は、分子標的薬という「外からの剣」に、免疫チェックポイント阻害薬という「内からの剣」が選択肢に加わる可能性を得た。これになぞらえれば、緩和ケアは患者にとって「心の盾」だと言えるだろう。医療現場は、高額な新薬の導入にやっきになるばかりでなく、がん患者の心理に寄り添う緩和ケアにも目を向ける必要がある。

(転載終了)※   ※   ※

 そう、早期の緩和ケアの威力は恐るべしである。半額になっても1700万円、のオプジーボの延命効果と同じ効果があるというのだから。私も今年初めまでお世話になったカドサイラ(T-DM1)は、既定量の投与なら年間850万円かかるが、なんとオプジーボは当初その4倍もの値段だったというわけだ。分子標的薬の次世代の薬である免疫チェックポイント阻害薬は、効果はあってもますます高価であるということになる。

 思えば再発転移の告知があり、転院して今の腫瘍内科医にかかったときに、「治癒はとても難しい」すなわち「完治はしない」ということを丁寧に、けれど、しっかりと理解させられたのはいつかも書いたとおりだ。

 その時はそういうものか、と思ったけれど、見放されたという感じは全くなかった。むしろそれでよかったのだと思う。私は単純だから、治るのだといわれれば無理をしても治療に全力で立ち向かっていたと思う(たとえそれが結果として命を縮めることになったとしても)。ここで、頑張りさえすれば治るかもしれないという下手な希望を持たされることなく、おそらく治らないからこそ、無理に体を痛めつけるような治療をしない、出来るだけ今の生活を大切にしながら共存していく、という自分なりの方針が受け容れられ、結果としてここまでの延命が叶っているからだ。

 これは主治医や病院の医療チームの方々との信頼関係を構築できたこと、そして自分がきちんとその病状を理解しているという、田中先生のいう早期ケアの(1)(2)に他ならない。もちろん(3)の治療に関する意思決定への支援は常に頂いていると感謝しているし、私が一日も長く今の職場に通い続ける生活をしたいという(4)の希望も、充分叶えて頂いている。こんなに長く仕事を続けられるとは当初思わなかったから、もしかすると「死ぬ死ぬ詐欺」だと思っている人もいなくはないかもしれない。

 これが頑張れば(たとえ辛い抗がん剤治療でも徹底的にやれば必ず)治るというある種希望的観測(というか勘違いにも似たもの)に囚われてしまえば、必要以上に体を痛めつけ、最後の最後まで積極的治療だけを追い求め、最終的にはその命を縮めかねないことになる。実際そういう患者さんを何人も見てきた。誤解を恐れずに言えば、本当に気の毒な最期だった。

 私は何度も書いているけれど、それだけはしたくないと思っている。そしてそのタイミング(積極的治療を終わりにする)がいつかというのは、主治医を含めての医療チームだけでなく、自分の生物としての体の声に心静かに耳を傾ければ、間違うことはないのではないかと思っている。

 だからこそ、必要以上に痛みを我慢しない。薬を上手に使って痛みや苦痛を脳に覚えさせない。結局、人は一人で生まれてきたように一人で死んでいかざるをえないものだということ、そしてあの世に持っていける(連れて行ける)のは、お金でも地位でも名誉でもなく、この世でどれだけのことを経験できたかという事実だけ、と思っている。

 そうであれば、今の私の人生、まんざら捨てたものではない。生まれてこの方沢山の方たちに関らせて頂くことが出来た。学校でも職場でも、親しくお付き合いさせて頂くことが出来た方が一人や二人ではない。職場でも、今ではご迷惑をおかけしていることも多々ある中で、それでも私を頼りにしてくださる方もいらっしゃる。

 なんと幸せなことだろう、と思う。そして、私をこの世に送り出してくれた父を順番を違えることなく見送ることが出来(これは今の私が出来た何よりの親孝行である。)、母の面倒を可能な範囲で見ることも出来ている。何より夫と息子というかけがえのない家族にも恵まれている。

 私が迷うことなくこういう文章を書けるほど、知らない間にごく自然に私の心理的なケアをしてくださっている主治医とその医療チームに、そして、常に私の選択を支えてくれている家族に改めて感謝したい。
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