伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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伊勢・志摩の鉱物

2010年08月11日 | 伊勢志摩~奥伊勢のフィールド・ワーク

水晶

水  晶(志摩市磯部町 産、結晶の長さ1.5cm )

伊勢・志摩では、どんな鉱物が採れるのか?

 伊勢志摩地方は、三重県の鉱物採集のメッカである北勢の石榑南地方(いなべ市大安町)や、紀州鉱山(熊野市紀和町)に比べれば、水晶、カリ長石、黄玉など著名なペグマタイト鉱物や各種の主要金属鉱物には恵まれない。しかし、山野を歩き、谷間に分け入り、鉱山跡や採石場などを訪ねると、結構いろんな鉱物が出る事が解る。黄銅鉱や、赤鉄鉱、黄鉄鉱などの熱水性鉱脈を成す金属鉱物もあれば、蛇紋岩地帯に特徴づけられる磁鉄鉱や霰石(あられいし)、苦灰石、石綿、そして広域変成岩に伴う滑石や緑簾石や曹長石、さらに、一般には殆ど馴染みの薄い特殊な鉱物もカウントしてゆくと、100数十種に上り、これまでに記載のある三重県産鉱物種の3分の2以上となる。

 

庶民派鉱物あれこれ

 最近、パワー・ストーンなる美石が話題を呼び、健康増進や癒し系のグッズとしてもてはやされている。たとえば、水晶パワーをはじめ、トルマリンやアメジスト、ヘマタイト(赤鉄鉱)やジルコンなど、100円ショップでも目にするようになった。各種誕生石の小石玉をはじめ、リスト・バンドや携帯ストラップ、キー・ホルダーなどに加工された美石の商品が色々とある。

 本物の天然石もあれば、着色品や模造品もあり、正に玉石混交の状態で、庶民には安くてありがたい話であるが、どれが本物の天然石で、しかも少しでも鉱物学的な価値のあるものかとなると、素人が見分けるのは実に難しい。きれいにカットされた「クリスタル」商品だけでも、コーツ(石英・水晶)もあれば、クリスタル・グラスもあれば、樹脂製品さえある始末である。見た目のきれいさに惑わされてしまう。

 

宝石鉱物と貴金属

 鉱物の発見は、古代に遡ると、洋の東西を問わず生活の必需品や装飾品に始まる。まず目を惹くのは、色合いや結晶などの美しさ、硬さ(不変の耐久性)、希少さなどをそなえた紫水晶や翡翠、碧玉や瑪瑙などであるが、後世の宝石鉱物の三条件との見事なまでの一致を見、その基準の大元になっている気がする。次いで、青銅器や鉄器などの生活道具を、特別な鉱物から鋳造する技術を覚えるに及び、金属を含む各種の鉱石鉱物、並びに貴金属鉱物の発見ラッシュに至る。地下資源としての鉱物の発見に端を発し、歴史が進むにつれ鉱山師(やまし)達が活躍するに時代となる。

 金、銀、銅などは、かつて日本列島の各地において、自然金属(砂金などの砂鉱を含む)の形で結構採れたし、白金も北海道では砂白金の形で多少は産した。伊勢・志摩地方では、今のところ砂鉄ぐらいで、自然金は出ないが、朝熊山から金が出たと言う伝え話はある。宝石類も古代遺跡から出土した遺物以外は、目ぼしい鉱物の産出例は無く、水晶ですら微々たるものしか採れない。但し、宝石には生体鉱物である真珠が含まれており、志摩の海は昔から天然真珠の宝庫として知られていた。

 

和名の鉱物

 さて、誰もが知っている昔からの著名鉱物を幾つか上げてみよう。明治期以前から知られていた和名の鉱物の内、美しいものとしては、勾玉石(翡翠、軟玉、碧玉)、石榴石(ざくろいし)、六方石(水晶)、蛍石、きらら石(白雲母)などである。 この他、漢方薬(石薬)として、滑石、石膏、石黄、鳴石(褐鉄鉱質ノジュールの一種)などや、岩絵の具として、紅がら(赤鉄鉱)、緑青石(孔雀石)、朱砂(丹砂とも言う。辰砂を指す)なども知られていたと思う。

 残念ながら、伊勢・志摩地方では、以上のものは古文書には記述を見ない。

 

伊勢・志摩限定の特産鉱物

 伊勢志摩限定の特産鉱物をあげるとすると、何と言っても、鵜方の高師小僧があげられる。これは江戸時代に書かれた「雲根誌」(木内石亭 著)にも「土殷けつ」(どいんけつ)として記述されている。次に朝熊山の武石(ぶせき)が文献にはあるが、今は採れない。代わりに斑糲岩ペグマタイトに伴って多産する異剥石(いはくせき)の巨晶をあげておこう。これは全国何処に行っても自慢ができる。なお、東京の国立科学博物館の鉱物標本の中には、朝熊山産のハイドロガーネット(含水石榴石)が収蔵されている。

 あとは、日本初産となったヴァニア石(白木)、宝石鉱物である蛋白石(伊勢市辻久留)、美しいピンク色の菱マンガン鉱、並びにバラ輝石(栗原鉱山跡、他)、クロム石榴石(菅島)、クロム雲母(円座採石場)、ソーダ珪灰石(菅島、白木)、葡萄石(白木、他)、トムソン沸石(白木)、重土十字沸石(鳥羽鉱山跡)、藍閃石(二見町)、スチルプノメレーン(二見町)、燐灰石(赤崎鉱山)、含マンガン赤鉄鉱(立神鉱山跡、他)などであるが、肉眼では識別できないような、X線分析によって見つかった数々の新産鉱物は、一般向けではないので、ここでは割愛することにする。

 

伊勢・志摩の鉱物標本(20種)

 最後に、伊勢・志摩地方で比較的多産する鉱物を20種選び、鉱物標本を作るとしたら、どのような鉱物がオーソドックスなタイプ標本種として選定されるであろうか。一応、筆者なりに選んでみた鉱物種を書いておく。

◆ 金属鉱物
  • 黄銅鉱
  • 黄鉄鉱
  • 褐鉄鉱
  • 高師小僧
  • 含マンガン赤鉄鉱
  • 菱マンガン鉱(又は、バラ輝石)
  • 二酸化マンガン鉱
  • 珪ニッケル鉱
  • 孔雀石(珪孔雀石)
◆ 非金属鉱物
  • 石英(水晶)
  • 玉髄
  • 方解石
  • 霰石
  • 鍾乳石
  • 緑簾石
  • 曹長石
  • 蛇紋石
  • 異剥石
  • 滑石
  • ソーダ珪灰石

 

 以下の写真画像は、上から

霰 石(あられいし、伊勢市西行谷 産、左右約7cm)
蛋白石(たんぱくせき、伊勢市辻久留 産、左右約5cm)
葡萄石(ぶどういし、鳥羽市白木町 産、左右約7cm)
貼り付け標本(ミニサイズ・20種)

霰石(あられいし。伊勢市西行谷産) 蛋白石(伊勢市辻久留) 葡萄石(鳥羽市白木町産) 標本(ミニサイズ20種)

コメント
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