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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、消費税増税による財政再建は可能か

2010年08月31日 | ●野口悠紀雄
 『日本を破滅から救うための経済学』第5章は消費税増税による財政再建は可能か、を問う。以下、要旨。

1 消費税引き上げ前にインボイスが必要
 2010年度予算の実質的な赤字は、55兆円である(国債44兆円+「その他収入(大部分が埋蔵金)」10兆円超)。
 55兆円すべてを消費税増税で解消するためには、税率を22%上げる必要がある(したがって27%になる)。
 赤字半減を目的にするなら、税率を11%上げる必要がある(したがって16%になる)。
 現在の国税は、所得税が15兆円、法人税が10兆円(ただし、2009年度の補正予算では5兆円、2010年度予算では6兆円弱)と消費税が10兆円だ。消費税の税率が20%なら税収は50兆円になり、最重要の税目になる。

 しかし、現在の日本の消費税は不完全なものであり、高税率になればきわめて大きな問題を引き起こす。
 最大の問題は、インボイスが存在しないことだ。消費税のモデルとなったヨーロッパの付加価値税は、取引の各段階で売上高に課税する(多段階売上税)。累積課税を避けるため、前段階税額控除が必要になる。付加価値税は、これをインボイスによっておこなう。売上伝票のようなものだ。購入者は、インボイスに記載されている消費税額を控除して納税する。
 インボイスは、累積課税を解消するのみならず、脱税を自動的に防ぐ。
 インボイスは、零細業者にとっても有利だ。インボイスがあると、消費税額を次段階に転嫁できる。

 日本の消費税には、インボイスがない。過大な控除がおこなわれる点で不都合なのだが、それ以外にも問題がある。
 (1)合法的な免税要請が高まる。
 (2)零細事業者が税を転化することが難しくなる。
 (3)生活必需財を非課税にできない。最終段階で非課税にしても、仕入にふくまれている税まで控除できないから、消費者はそれを負担することになる。ことに問題になるのは、住宅だ。住宅建設に要する大量の資材(木材、鉄、セメントなど)に取引において課税され、それを建築事業者が住宅購入者に転嫁することで、その分住宅価格は上昇する。
 住宅のような耐久財に負担軽減ができないと、世代間の負担不公平という問題も生じる。すでに住宅を購入している世代は、今後消費税が高くなっても、消費税の負担なくして居住サービスを享受できるからだ。
 日本の消費税は、インボイス不在の欠陥税である。それでも何とかやってこれたのは、税率が低かったからだ。

2 福祉目的税は議会の自殺行為
 消費税を「福祉目的税」にするアイデアは、無意味か、危険な結果をもたらす。
 支出自然増が税自然増より大きい場合、増税が自動的におこなわれることになる。社会保障関係費の自然増は、税自然増より大きいから、基本的にはこういう結果をもたらす。増税が自動的にできるので財務当局にはつごうがよいが、制度の見直しは不十分になり、納税者は自動的な負担増を押しつけられることになる。

 目的税化の意味を明確にみるためには、社会保障費を一般会計から隔離して別勘定で経理する必要がある。
 そして、消費税収の全額をこの勘定の歳入にする必要がある。消費税だけでは不足する部分は、「その他歳入」をあてる必要がある。他方、歳出には国債費も計上する必要がある(過去の社会保障費の一部は国債でまかなわれてきた)。

 (1)この勘定に何もルールを定めない場合、消費税を目的税化して別勘定としても、何の違った結果も生じない。福祉目的税に何の意味もない。
 (2)この勘定にルールを定める場合、たとえば社会保障関係費に係る「その他歳入」を現在より増やさないとした場合、勘定の収支をバランスさせるために、消費税が自動的に増税される。この結果、既存の支出の見直し、新規事業の抑制がおろそかになり、社会保障費が際限もなく膨張する危険がある。
 (3)さらに危険なのは、「その他歳入」が現在よりも減ることを認める場合だ。この場合、歳出増加を上回る消費税増税が可能になる。「その他歳入」を減額した分は、他の勘定に充てられる。つまり、増加した消費税の一部は、他の目的に使用されることになる。福祉目的税と称しながら、実際にはそれが守られないことになる。

 以上、(1)は無意味だし、実際に意味をもつのは(2)か(3)だが、いずれも財務当局にはつごうがよく、納税者には危険だ。

3 全額税方式という欺瞞
 <略>

4 消費税増税では財政再建できない?
 現在の財政赤字を解消するには、前述のように税率を30%近くに引き上げる必要がある。
 このような規模の増税は、政治的に難しいだけではなく、経済的にも問題がある。とりわけ、次の点が重要だ。
 
 (1)増税すれば単年度の赤字は解消され、新発債の発行は楽になる。しかし、既発債借り換えの問題は残る。利子負担と償還の問題は残る。
 (2)税率が除々になされる場合には、将来の物価水準が高くなるという予想が形成されるので、名目金利は上昇する。このため、金利負担が重くなる。また、それまでの金利では既発債の借り換えができなくなり、利上げが必要になる。これは国債の時価の下落を意味し、国債を大量に保有している金融機関に多額の損失が発生する。

 インフレは、財政再建のひとつの方法である。最近では、ロシアでも同じことが起きた。財政赤字に悩むギリシャでインフレが生じていないのは、ユーロに加盟しているため、金融政策の自由度を奪われているためだ。
 コントロールされた物価上昇も可能かもしれない。
 実質財政赤字縮小の方策として、消費税増税とインフレのどちらが害悪が少ないか、必ずしも自明ではない。

【参考】野口悠紀雄『日本を破滅から救うための経済学 -再活性化に向けて、いまなすべきこと-』(ダイヤモンド社、2010)
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