語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】雇用崩壊・社会保障危機への処方箋 ~財源問題と今後の課題~ 

2010年08月22日 | 医療・保健・福祉・介護
 著者は、『雇用崩壊と社会保障』終章で、雇用崩壊・社会保障危機への処方箋を交付する。
 ここでは、財源問題と今後の課題に係る提言を抜き書きする。

(1)財源
 施設整備、公務労働者の増員、社会保障給付の拡充などに必要な財源をどう確保するか。
 消費税のような逆進性の強い税を雇用保障や社会保障のための主な財源、ましてや社会保障目的税とすると、給付抑制が強まる。雇用保障・社会保障が機能不全に陥りやすい。
 英米では所得税の最高税率の引き上げや株式配当などへの課税が強化されている。
 日本の所得税率は、1986年まで15段階、最高税率70%(住民税の最高税率18%)だった。2007年現在、6段階、最高税率40%(住民税の最高税率10%)である。累進制が大きく緩和されている。不況とはいえ、この10年間で年収2,000万円以上の高額所得者は増加している(貧富の格差が拡大し、中間層が減少した)。累進性を強化すれば、かなりの財源が確保できるはずだ。
 また、法人税の基本税率は、消費税導入前の1988年まで42%だったが、1999年から30%に引き下げられている。法人税の実効税率(約40%)が他国より高いとしても、大企業はさまざまな税制上の優遇措置によって実質的な法人実効税の負担は30%程度にとどまっている。
 法人税率改定による大企業からの増収分で、4兆4,414億円、所得税率改定による高額所得者からの増収分で1兆2,152億円の財源が確保できる・・・・という試算もある(2008年度)。

(2)今後の課題
 所得税や法人税の累進性を強化し、それを雇用保障・社会保障の主な財源とする。
 それでも財源が不足する場合、消費税増税ということになる。その場合でも、食料品など生活必需品まで一律に課税する現在の消費税(こうした形態をとるのは日本のみ)を、ぜいたく品など限定的な物品に課税する物品税(消費税導入時に廃止)や企業の付加価値に課税する付加価値税のような税体系に改変したうえで増税するべきである。
 こうした税制改革、本書が提言する雇用保障・社会保障を再構築する政治が望まれる。
 「運動の側からも、望ましい税・社会保障制度や法制度のあり方を積極的に提示していくべきである」

【参考】伊藤周平『雇用崩壊と社会保障』(平凡社新書、2010)
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