(1)医療費自己負担の現在
日本の医療機関の外来を受診したとき、窓口負担は概ね数百円から数千円ですむ。診療費の大部分が医療保険で賄われているからだ。
自己負担額は、患者の年齢に応じて決まる。未就学児は2割、小学生から69歳までは3割、70歳以上は2割(ただし、当分の間は1割に減額)。
なお、自治体によっては、小児・特定疾病などの一定の要件をもつ者に、医療保険の自己負担分を一部又は全額助成している。
(2)医療費自己負担の過去
医療保険は、これまで何度も改正されてきた。自己負担額も見直されてきた。
健康保険は、制度が制定された1927年から16年間、患者の自己負担はゼロだった。43年に定額の一部負担が導入された。さらに、84年に1割、97年に2割、03年に3割・・・・と負担割合が引き上げられてきた。
国民健康保険は、制度が制定された1938年は5割負担だったが、63年に3割に引き下げられて現在に至る。
70歳以上の高齢者は、被用者保険に加入している家族の被扶養者になるか(27年当時5割負担)、個人で国民健康保険に加入することになっていた。73年に老人医療費支給制度が創設され、窓口負担がゼロになった。日本は世界保健機関(WHO)から健康度世界一のお墨付きをもらった。しかし、「社会的入院」が増加した背景を踏まえ、83年に老人保健法が施行され、定額負担が導入された。さらに、01年には1割負担となった。08年には高齢者の医療の確保に関する法律が施行され、「後期高齢者制度」対象者のうち70~74歳は2割(ただし、当分の間は1割に減額)、75歳以上は1割が自己負担となった。
(3)海外の医療費自己負担
英国、カナダ、デンマーク、スペインは、自己負担がゼロで、医療費の財源は主に税金である。
イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、ハンガリーなどは、自己負担がゼロで、医療費の財源は主に社会保険料である。
フランスは、患者がいったん医療費を全額医療機関に支払い、後で医療保険の保険者から6~7割の償還を受ける。自己負担分をカバーする補足給付制度に国民の8割が加入しているから、自己負担は実質的にゼロに近い。
スウェーデンは、自己負担の上限が年間9,900円で、それ以上の自己負担はない(「高額療養費カード」が発行される)。医療費の財源は税金である。
(4)自己負担ゼロのメリット
おカネを払えないために治療を中断したり、受診を控えたりすることがない。
医療機関にとっては、治療費の未回収を防ぐことができる。
(5)財源が問題
08年度の国民医療費は、34.8兆円である。その財源構成は、国庫負担25.1%、自治体12%、事業主20.4%、被保険者28.3%、患者の自己負担14.1%である。
患者の自己負担14.1%をゼロにするには、5兆円の予算が必要になる。
*
次回は、賛否両論を併記する。二人の論客は、次のとおり。
自己負担ゼロ賛成派・・・・平尾紘一(神奈川県保険医協会理事長、「医療費の窓口負担ゼロの会」発起人)。
自己負担ゼロ反対派・・・・川渕孝一(東京医科歯科大学大学院医療経済学分野教授)。
なお、高齢者医療制度の変遷については、「【読書余滴】戦後における高齢者医療経済の体制化 ~「現代思想 特集・・・・医療現場への問い」~」をご覧いただきたい。
【参考】「どうして日本では医療費(窓口負担)をゼロにできないのだろう。」(「通販生活」2011年春号、カタログハウス)
↓クリック、プリーズ。↓
日本の医療機関の外来を受診したとき、窓口負担は概ね数百円から数千円ですむ。診療費の大部分が医療保険で賄われているからだ。
自己負担額は、患者の年齢に応じて決まる。未就学児は2割、小学生から69歳までは3割、70歳以上は2割(ただし、当分の間は1割に減額)。
なお、自治体によっては、小児・特定疾病などの一定の要件をもつ者に、医療保険の自己負担分を一部又は全額助成している。
(2)医療費自己負担の過去
医療保険は、これまで何度も改正されてきた。自己負担額も見直されてきた。
健康保険は、制度が制定された1927年から16年間、患者の自己負担はゼロだった。43年に定額の一部負担が導入された。さらに、84年に1割、97年に2割、03年に3割・・・・と負担割合が引き上げられてきた。
国民健康保険は、制度が制定された1938年は5割負担だったが、63年に3割に引き下げられて現在に至る。
70歳以上の高齢者は、被用者保険に加入している家族の被扶養者になるか(27年当時5割負担)、個人で国民健康保険に加入することになっていた。73年に老人医療費支給制度が創設され、窓口負担がゼロになった。日本は世界保健機関(WHO)から健康度世界一のお墨付きをもらった。しかし、「社会的入院」が増加した背景を踏まえ、83年に老人保健法が施行され、定額負担が導入された。さらに、01年には1割負担となった。08年には高齢者の医療の確保に関する法律が施行され、「後期高齢者制度」対象者のうち70~74歳は2割(ただし、当分の間は1割に減額)、75歳以上は1割が自己負担となった。
(3)海外の医療費自己負担
英国、カナダ、デンマーク、スペインは、自己負担がゼロで、医療費の財源は主に税金である。
イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、ハンガリーなどは、自己負担がゼロで、医療費の財源は主に社会保険料である。
フランスは、患者がいったん医療費を全額医療機関に支払い、後で医療保険の保険者から6~7割の償還を受ける。自己負担分をカバーする補足給付制度に国民の8割が加入しているから、自己負担は実質的にゼロに近い。
スウェーデンは、自己負担の上限が年間9,900円で、それ以上の自己負担はない(「高額療養費カード」が発行される)。医療費の財源は税金である。
(4)自己負担ゼロのメリット
おカネを払えないために治療を中断したり、受診を控えたりすることがない。
医療機関にとっては、治療費の未回収を防ぐことができる。
(5)財源が問題
08年度の国民医療費は、34.8兆円である。その財源構成は、国庫負担25.1%、自治体12%、事業主20.4%、被保険者28.3%、患者の自己負担14.1%である。
患者の自己負担14.1%をゼロにするには、5兆円の予算が必要になる。
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次回は、賛否両論を併記する。二人の論客は、次のとおり。
自己負担ゼロ賛成派・・・・平尾紘一(神奈川県保険医協会理事長、「医療費の窓口負担ゼロの会」発起人)。
自己負担ゼロ反対派・・・・川渕孝一(東京医科歯科大学大学院医療経済学分野教授)。
なお、高齢者医療制度の変遷については、「【読書余滴】戦後における高齢者医療経済の体制化 ~「現代思想 特集・・・・医療現場への問い」~」をご覧いただきたい。
【参考】「どうして日本では医療費(窓口負担)をゼロにできないのだろう。」(「通販生活」2011年春号、カタログハウス)
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