書評は一定の実務的経験ないし学問的蓄積のある人が、その専門分野の本を論じるのが本来の姿だと思う。さもないと、問題が十分に掘り下げられなかったり、ネットでも入手できる基本的な情報が看過されたりして、かえって本の価値を貶める。原発事故をテーマにした本は、殊に問題点を見逃しやすいように思われる。
「HONZが選んだ150冊」には、 震災・原発事故に関する本が5冊とりあげられている。
(1)河北新報社『河北新報のいちばん長い日』
(2)彩瀬まる『暗い夜、星を数えて ~3・11被災鉄道からの脱出~』
(3)宮台真司ほか『IT時代の震災と核被害』
(4)鈴木智彦『ヤクザと原発』
(5)岩佐『仮設のトリセツ』
(4)は、「語られる言葉の河へ」でもとりあげた。このときは、福島第二原発の汚染に着目したし、潜入が情報隠蔽を暴く一手段という観点から拾いだしているから、本書の表題となっているヤクザについて部分的にしか触れていない【注1】。ただし、除染・廃炉ビジネスに関連して、本書にもう一度言及している【注2】。
震災・原発事故のような大きな問題・テーマは、個々の本ごとに論じるより、複数の本を横断的にとりあげるほうが、読者の知見を増やすに役立つと思う。1冊ずつ論じる書評は、どうしても限界がある。
それでも、評者が論じる主題(ここでは原発ないし原発事故)について浩瀚な知識と広い視野を持っていればよいのだが、原発ないし原発事故に詳しいアマチュア書評家など、滅多にいないだろう。
はたして、「HONZが選んだ150冊」で(4)を論じた内藤順は、ツボをはずしている。<かつてヤクザの分類に博徒系、的屋系などと名伽藍で、「炭鉱暴力団」という項目が存在していた。暴力という原始的、かつ実効性の高い手段は、国策としてのエネルギー政策と常にセットとして昔から存在しており、原発への関与もその系譜の中に位置するものなのだ。>といいセンまで迫りながら、<たしかに暴力団や放射能は怖い。しかし、事実を知らないということは、もっと怖いことでもある。>などいうモラリスト的感想に帰着させてしまっている。だから、<光は闇より出でて、闇より暗し。>などという意味ありげな、しかし何を言っているのかわからない警句で締めくくる醜態を露呈するのだ。
原発作業員が直面している問題は、関連する新聞記事をすこし丁寧に追跡すれば、「怖い」で済ませられないことがすぐわかったはずだ【注3】。そして、この国の将来は、事故を起こした原発がぶじ廃炉にもっていけるかどうかにかかっていること、そのためには技術を持った作業員が安定的に確保されるかどうかに拠ることが分かったはずだ。ところが、原発作業員は、福島第一原発事故より前から、使い捨てにされてきた。その事実は、今では広く知られている【注4】。原発にも原発事故にもシロウトの当方でさえ、それくらいは知っている。
書評した内藤は、せめてネットで平井憲夫氏の告発を読むくらいの労力はかけるべきであった。
【注1】「【震災】原発>福島第二原発の汚染 ~ヤクザと原発~」
【注2】「【原発】停止しても25兆円儲ける原子力ムラ ~除染・廃炉ビジネス~」
【注3】「【原発】作業員の不足と待遇格差 ~政府の無為無策~」
【注4】「【震災】原発で働く作業員の現実」
□成毛眞・編著『ノンフィクションはこれを読め! ~HONZが選んだ150冊~』(中央公論新社、2012.10)
【参考】
「【本】まず事実、何よりも事実 ~ノンフィクションの魅力(1)~」
「【本】HONZが選んだ150冊 ~ノンフィクションの魅力(2)~」
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「HONZが選んだ150冊」には、 震災・原発事故に関する本が5冊とりあげられている。
(1)河北新報社『河北新報のいちばん長い日』
(2)彩瀬まる『暗い夜、星を数えて ~3・11被災鉄道からの脱出~』
(3)宮台真司ほか『IT時代の震災と核被害』
(4)鈴木智彦『ヤクザと原発』
(5)岩佐『仮設のトリセツ』
(4)は、「語られる言葉の河へ」でもとりあげた。このときは、福島第二原発の汚染に着目したし、潜入が情報隠蔽を暴く一手段という観点から拾いだしているから、本書の表題となっているヤクザについて部分的にしか触れていない【注1】。ただし、除染・廃炉ビジネスに関連して、本書にもう一度言及している【注2】。
震災・原発事故のような大きな問題・テーマは、個々の本ごとに論じるより、複数の本を横断的にとりあげるほうが、読者の知見を増やすに役立つと思う。1冊ずつ論じる書評は、どうしても限界がある。
それでも、評者が論じる主題(ここでは原発ないし原発事故)について浩瀚な知識と広い視野を持っていればよいのだが、原発ないし原発事故に詳しいアマチュア書評家など、滅多にいないだろう。
はたして、「HONZが選んだ150冊」で(4)を論じた内藤順は、ツボをはずしている。<かつてヤクザの分類に博徒系、的屋系などと名伽藍で、「炭鉱暴力団」という項目が存在していた。暴力という原始的、かつ実効性の高い手段は、国策としてのエネルギー政策と常にセットとして昔から存在しており、原発への関与もその系譜の中に位置するものなのだ。>といいセンまで迫りながら、<たしかに暴力団や放射能は怖い。しかし、事実を知らないということは、もっと怖いことでもある。>などいうモラリスト的感想に帰着させてしまっている。だから、<光は闇より出でて、闇より暗し。>などという意味ありげな、しかし何を言っているのかわからない警句で締めくくる醜態を露呈するのだ。
原発作業員が直面している問題は、関連する新聞記事をすこし丁寧に追跡すれば、「怖い」で済ませられないことがすぐわかったはずだ【注3】。そして、この国の将来は、事故を起こした原発がぶじ廃炉にもっていけるかどうかにかかっていること、そのためには技術を持った作業員が安定的に確保されるかどうかに拠ることが分かったはずだ。ところが、原発作業員は、福島第一原発事故より前から、使い捨てにされてきた。その事実は、今では広く知られている【注4】。原発にも原発事故にもシロウトの当方でさえ、それくらいは知っている。
書評した内藤は、せめてネットで平井憲夫氏の告発を読むくらいの労力はかけるべきであった。
【注1】「【震災】原発>福島第二原発の汚染 ~ヤクザと原発~」
【注2】「【原発】停止しても25兆円儲ける原子力ムラ ~除染・廃炉ビジネス~」
【注3】「【原発】作業員の不足と待遇格差 ~政府の無為無策~」
【注4】「【震災】原発で働く作業員の現実」
□成毛眞・編著『ノンフィクションはこれを読め! ~HONZが選んだ150冊~』(中央公論新社、2012.10)
【参考】
「【本】まず事実、何よりも事実 ~ノンフィクションの魅力(1)~」
「【本】HONZが選んだ150冊 ~ノンフィクションの魅力(2)~」
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