語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【旅】添乗員、客を空港に置き去り ~海外ツアーの落とし穴~

2013年06月18日 | 社会
 (1)山田太郎(仮名)、会社員、仙台市在住、50代・・・・は、数年に一度の海外旅行が、何よりの気分転換だ。
 今年1月にも人5人と一緒に、世界遺産をめぐる旅に出かけた。英語が苦手な山田さんは、安心・安全に旅を楽しみたい、と添乗員付きツアーを選んだ。
 阪神交通社のツアー「スペイン・ポルトガル8日間」(燃料サーチャージ込み180,100円)がそれだ。
 
 (2)旅も終わりに近く、英国ヒースロー空港で、飛行機を乗り換えて帰国する予定だった。
 ただ、旅行日程に記された乗り継ぎの移動時間が今までの旅行に比べて短く、間に合うのか、と山田さんは出発前から気にしていた。
 不安は的中した。同ツアーの計画では手荷物検査に費やせる時間は30分間程度。余裕がないにも拘わらず、ツアー客26人のうち、山田さんと女性客、女性添乗員の3人が手荷物の再検査場に回されてしまったのだ。
 手荷物再検査は、主にテロ対策のため行われ、欧米では近年とくに厳しくなっている。再検査の対象者はランダムに選ばれ、このときは10人に1人程度の割合で再検査に回された。
 添乗員は、出発時刻が迫っているから早くしてほしい、と係員に抗議した。しかし、自分が先に再検査を終えると、女性参加者にだけ搭乗ゲートの場所を教え、他のツアー客が待つ搭乗口に行ってしまった。続けて女性参加者も再検査を通り、山田さん一人が取り残された。禁止物は何も所持していなかったのだが。
 山田さんが再検査をようやく通り、巨大な空港内を走って搭乗口に辿り着いたとき、搭乗手続きの締め切り予定時刻を30分、出発予定時刻を10分過ぎていた。搭乗口は閉鎖され、誰もいなかった。
 待ってくれている、と山田さんが思っていた添乗員は、飛行機の中から山田さんの携帯電話にかけてきて、告げた。
 「今飛行機が飛び立つところで、もう乗れない。頑張って帰ってきてください」 
 愕然。

 (3)山田さんは片言の英語を使いながら、搭乗券再発行カウンターを探しあてた。当日便は満席だったため、翌日便に振り替えることになったが、空港には泊まれない。旅行日程表にあった現地の旅行代理店に連絡して宿の手配などを依頼すると、
 「お金がかかることだし、すべては山田様が決めることです」
 翌日帰国できたが、宿泊費、新たに雇った現地ガイド代など、予定外の出費が10万円近くかかった。
 山田さんは、実費だけでも負担してほしい、と阪急交通に申し入れた。
 が、「運送機関のサービス中止など、旅行会社の関与しない理由によって旅行者に生じた損害は、旅行会社が賠償責任を負うものではない」という旅行業約款をたてに、「阪急は無過失なので補償しない」と門前払いをくらった。
 山田さんは、慰謝料を含め、40万円の賠償を求める訴訟に踏み切った。
 「今回はなんとか帰国できたけれど、もし命にかかわるような事故に捲き込まれたら責任をとってくれるのでしょうか。阪急は過失がないというが、私にも過失はないのです」

 (4)旅行会社が設定した旅程は適切だったか。
 ヒースローのようなハブ空港は、近年ものすごい勢いで巨大化している。発着便数も多いので、出入国や手荷物検査に時間がかかる。今回のツアーは、最低限の乗り換え時間を一応は満たしている。しかしテロ対策が厳しい空港であること、団体旅行で移動に時間がかかることなどを加味すると、適切な旅程だったかは微妙なところだ。【広岡裕一・和歌山大学教授(観光学)】
 添乗員の安全管理や対応に問題がある。ギリギリの旅程でツアーを催行している旅行会社はほかにもある。アクシデント一つで、山田さんのように乗り遅れることは十分に考えられる。20年ほど前から、旅行業界の価格競争は激化している。極限までコストカットされていれば、万一の費用、旅程、現地要員に余裕がない。とくに格安ツアーは、経験の浅い契約添乗員にツアー運行の全責任を課していることが多い。「お客様」が後回しになりがちだ。【千葉千枝子・観光ジャーナリスト】
 かつて高嶺の花だった海外旅行はずいぶん手軽になった。しかし、品質管理面はまだ過渡期にあるらしい。“安かろう悪かろう”ではいけない。とくに緊急時の安心と安全の確保は、品質の最低ラインだ。旅行会社はこれを保障する義務がある。【斉藤睦男・弁護士】

 (5)こんなツアーにご用心(5ヶ条)
  (a)値段が安すぎる。
  (b)スケジュールを詰めこみすぎ。
  (c)土産物屋への立ち寄りが多い。
  (d)航空会社、便名、時刻が詳細ではない。
  (e)乗り換え前後で航空会社が異なる。

□岡野彩子・大田原恵美(本誌)「添乗員付き海外ツアーの落とし穴 ツアー客を英国の空港に置き去り」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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