語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>小沢一郎を後援する東京電力 ~東電&電事連の政界支配~

2011年08月25日 | 震災・原発事故
 電気事業連合会の本部は、地上23階、地下4階の高層ビル、経団連会館(東京・大手町)の16階と18階にある。
 電事連の会長は、福島原発事故後、清水正孝・東京電力社長から八木誠・関西電力社長に移ったが、常勤副社長、企画部長、原子力部長、広報部長といった主要ポストは依然として東電がガッチリ握っている。業界団体の電事連は、東電の別働隊だ。
 原子力ロビーは、情報を塞ぐことに手腕を発揮する。原子力は完璧に安全であるということを保証するために、新聞、雑誌、テレビの大々的なキャンペーン広告に出資する。【「ル・モンド」紙】

 「国策民営」の東電の力の源泉は、政官界とのつながりの強さにある。利権の塊である電力会社は政治と直結している。泥をかぶる“仕事人”を必要とした。こうした汚れ仕事を一手に引き受ける総務部は、東電社長への登竜門だった。営業畑の木川田一隆に続く水野久男、平岩外四、那須翔、荒木浩まで4人の歴代社長は、すべて総務部出身だ。
 平岩外四は、東電中興の祖、木川田に認められて順調に出世した。第6代社長就任(76年)後、電事連会長として業界のリーダー役を果たした。社長退任(84年)後、東電会長に就くと、財界活動に専念し、第7代経団連会長に就いた(90年)。経団連会長を退任(94年)後も、財界と東電の顔であり続けた。
 平岩時代から、東電&電事連によるロビー活動が活発になった。
 
 正力松太郎没後、原子力事業を仕切ったのは田中角栄だ。72年に首相に就いた角栄は、オイルショックを契機に、原子力に着目。電源三法を成立させた(74年)。ちなみに、当時の通産相は中曽根康弘だ。
 角栄のお膝元、新潟県柏崎市は、原子力によって街が発展した。柏崎市には、32年間に1,133億円の交付金が下りた。カネの見返りに、選挙のとき投票してもらう。持ちつ持たれつの関係ができあがった。原発誘致は、田中派の利権となった。

 平岩外四は、自民党所属時代に田中角栄の子飼いだった小沢一郎(元・民主党代表)の後援会長になった【注1】。平岩は、その師の木川田一隆が政界と一定の距離を置く方針を180度転換したのだ。
 原子力発電は、官民一体で推進された。電力業界は、不況時に設備投資して景気対策に協力し、通産官僚の天下りを積極的に受け入れた。
 
 政官財からマスコミ、裏社会まで目配り、気配りをして抜かりなくやってきた東電に思わぬ伏兵が現れた。電力自由化の旗を降る通産省の改革派官僚たちだ。
 旗頭は、村田成二。村田は、資源エネルギー庁公益部長として第一次電力自由化に取り組み、電力会社への電力卸売りが認められるようにした(95年)。自家発電を持つ企業から余剰電力を買い取る制度だ。
 官房長になった村田は、第二次自由化に打って出る。料金自由化の第一弾として、大規模工場やデパートなどの大口需要家向けの電力の小売りを解禁した(00年)。
 村田は、改革の本丸を発送電分離と定めた。
 97年1月、佐藤栄作・元首相の次男、佐藤信二・通産相は、年始の会見で爆弾発言を放った。「発電、送電事業の分離はタブーとされてきたが、大いに研究すべき分野だ」
 村田ら改革官僚が振り付けた、とされる【注2】。これで電力自由化の論議が高まった。
 佐藤は、00年、03年の2度の衆院選で、電事連が背後で推す民主党議員に惨敗した。佐藤・元首相の地盤を継いだ山口二区で連敗したのは、電事連の強い意向を汲んだ中国電力が佐藤の選挙運動をサボタージュしたため、というのが地元における定説だ。

 発送電一体体制は、電事連の聖域だ。地域独占によって、電力各社は安定した収益をあげることができる。欧米諸国のように発電、送電、小売りと、それぞれが専業化されたうえに電気料金の自由化競争を強いられたら、特権的な地位を失い。電力会社は普通の企業になってしまう。
 電力会社は調達企業だ。原発には、東芝、日立製作所、三菱重工業の原子炉御三家、鹿島、大成建設、大林組、清水建設のスーパーゼネコンを始め、オールジャパンが関わっている。財界主流から発送電分離論が出ることは、まず、ない。原発が大型化した現在、1基あたり建設費は5,000億円もかかる。そこに、原子炉メーカー、プラント会社、大手ゼネコン、下請け企業群、製鋼やセメントの素材メーカー、電気系統から各種器具、機材、メンテナンス会社まで、電力会社を頂点とする巨大なピラミッドが形成され、5,000億円が流れていく。【注3】
 01年6月、電事連の新会長に南直哉・東電社長が就いた。
 02年7月、村田成二が経産省事務次官に就いた。
 02年8月29日、福島第一、第二、柏崎刈羽原発を点検した米技術者の告発で、東電が原思慮の炉心隔壁にひび割れがあったという記録を改竄していたことが発覚した。南・社長を始め、荒木・会長、平岩・相談役、那須・相談役の歴代トップ4人が引責辞任した。
 副社長から社長に昇格したのが勝俣恒久・現会長だ。
 電事連は、巻き返しに出る。京都議定書が定める二酸化炭素排出規制のために経産省が導入を進めていた石炭への新たな課税制度を、発送電分離を阻止するための「人質」にとった。
 自民党政権下では、部会、政調審議会、総務会の事前審査を通らないかぎり、法案を国会に提出できない。電事連/東電は、村田たちが進める発送電分離と小売り全面自由化を断念させるため政治工作を水面下で展開した。
 後の経産相、電力族として知られる甘利明・自民党エネルギー総合政策小委員会委員長、東電副社長から参議院議員になった加納時男・同小委員会事務局長が、発送電分離は「十分に議論が尽くされていない」と強硬に反対した。同小委員会では、石炭課税制度の議論も進められていた。
 村田ら改革派官僚は、発送電分離案を引っ込め、石炭課税の導入を優先することと決断した。石炭課税は通った。
 第三次自由化の結論をまとめた経産省の報告書は、07年に再検討するとの方針を盛りこんだ。だが、07年7月の経産省の総合資源エネルギー調査会電気事業分科会は、全面自由化は「現時点では適切ではない」と無期限の見送りを決めた。
 村田は、04年夏に退官。後任次官の杉山秀二、北畑隆生ら、経産省内の原子力推進派が盛り返し、村田と行動を共にしてきた改革派官僚は、軒並みパージされた【注4】。 
 村田以降、東電と事を構える経済官僚はいなくなった。

 09年秋、政権交代を果たした民主党は、自民党寄りだった経団連との対話を拒絶し、財界は政界との意思疎通の手段を失う非常事態に陥った。
 経団連の窮地を救ったのは、東電の政界人脈だった。企画畑出身の勝俣・会長も、資材畑出身の清水・前社長も、企画畑の西沢俊夫・新社長も、政界人脈はない。民主党と経団連の関係修復に乗り出したのは、荒木・元会長だ【注5】。荒木は、小沢一郎とのパイプが太い。平岩外四が小沢一郎の後援会長を引き受けて以来、総務部は小沢とパイプをつないできたのだ。

 【注1】「【震災】原発>小沢一郎と東京電力「蜜月21年」+原発事故に関する小沢語録」参照。
 【注2】当時、古賀茂明はOECD事務局科学技術工業局規制制度改革担当課長だった。OECDのプロジェクトで発送電分離が焦点となっていた。そこで、OECDが日本に勧告するように動いた。「正式に報告書を出すまでには時間がかかるし、発表後では新聞でもベタ記事で、結局は闇に葬られることも考えられる。一方、検討段階での予想記事なら扱いも大きくなるし、国内の準備も整っていないから、ショック療法としては効果的だ」・・・・ということで、旧知の読売新聞の記者に連絡をとって、記事にしてもらった。正月にはニュースがない。1月4日の朝刊に、「OECDが規制改革方針 電力の発電と送電は分離」と大きく載った。「この日は土曜日で、6日が御用始め。念頭の記者会見で、佐藤信二通産大臣が前向きなニュアンスで答えたものだから、大騒ぎになった」「当時の通産相幹部が退官した後教えてくれたことには、『いやあ、あのときはたいへんだった。省内は大騒ぎだし、電力会社は、騒ぎまくるわ・・・・。でも、いまから考えれば良かったんだよ。あれから本格的に電力の規制改革の議論が動き出したんだから』とのこと」【古賀茂明『日本中枢の崩壊』、講談社、2011】
 【注3】総括原価方式は、電力料金=原価+報酬(原価×固定%)だ。コストがかかればかかるほど電力会社は儲かるしくみだ。
 【注4】「【震災】原発>経産省歴代次官の大罪 ~原発官僚~」参照。
 【注5】「【震災】東京電力の隠蔽体質」参照。

 以上、有森隆(経済ジャーナリスト)「東電&電事連 『財界』『政界』支配の暗黒史」(『日本を脅かす! 原発の深い闇 東電・政治家・官僚・学者・マスコミ・文化人の大罪』、宝島社、2011)に拠る。
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-07-31 17:47:17
田中は新潟の原発とかに無頓着だよ 

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