語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【IT】フェイスブックによる検閲事件 ~寡占化されたITへの過剰な依存~

2016年10月09日 | 社会
 (1)ネットの検閲や監視の事件があいついでいる。
 ベトナム戦争当時、ピューリッツアー賞を受賞した写真に、米軍のナパーム弾から逃げる裸の少女の写真がある。この写真をトム・エーゲラン(ノルウェー人作家)自身のフェイスブックに記載したところ、フェイスブックはこれを「児童ポルノ」だとして削除する事件が起きた。
 この削除への抗議が、ノルウェーをはじめ国際的に高まり、フェイスブックは20169月9日に削除措置を解除した。

 (2)さらに最近、ネット上で急速に影響を拡げはじめたパレスチナ人たちの国際的な反弾圧運動、BDS(ボイコット、資本引き上げ、経済制裁)運動をターゲットに、イスラエル政府その支援者たちを監視するための法整備を実施。これにフェイスブック側が協力していることが判明した。BDS運動はアパルトヘイト体制時の南アフリカへの抗議行動と同様に、イスラエルを糾弾する国際的な非暴力運動だ。
 フェイスブックは、自社のイスラエル事務所で、ネタニヤフ・イスラエル首相のアドバイザーを務めるジョルダーナ・カトラー氏を雇用するという露骨な政権寄りのビジネスも展開している。

 (3)フェイスブックとは別の事例だが、見過ごせない問題が米国で発覚した。
 米国の電子フロンティア財団(EFF)が、9月15日付けで、ウェッブに「FBIによる前例のない違法なハッキング作戦」という記事を掲載した。
 記事によると、2014年12月、ある児童ポルノサイトに対する捜索令状を裁判所から得たFBIは、同サイトにアクセスしたユーザーのコンピュータに侵入し、個人情報を取得するウイルスを仕込む捜査を実施した。
 EFFは、米国では捜査機関によるハッキングについての法整備がなされておらず、捜査機関の自由裁量が幅広く容認される危険性があると批判している。

 (4)これらの事例から、SNS事業者が自身の裁量で検閲したり、政府と結託してユーザーを排除したりする一方で、事業者と無関係に捜査機関がハッキングするなど、これまで想定されていなかったレベルでネット監視と排除が官民双方で拡がりを見せ、ネットの自由な言論を深刻なレベルで脅かしはじめていることがわかる。「対テロ戦争」のなかでSNSなどネットビジネスは、政府をビジネスパートナーにして市場を確保しようとしている。
 FBIやイスラエルがやっていることは、どこの国でも起き得ることだ。

 (5)社会運動は、寡占化されたITに過剰に依存していないか。
 SNSの選択肢は、フェイスブック、ツイッターなど多くはなく、OSもウインドウズかマックしかない。インターネットに至っては、たった一つしか存在しない。
 ネットの世界の自由はきわめて脆弱で、こうした環境に依存する運動の弱さを深刻に検証すべき時にきている。

□小倉利丸(経済、社会学者)「フェイスブックによる検閲事件 寡占化されたITへの過剰な依存を見直すべき」(「週刊金曜日」2016年10月7日号)
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