語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】最も儲けるのは大国の産軍複合体 ~対テロ戦争の拡大~

2015年12月03日 | 批評・思想
 (1)2015年11月13日、パリの7か所で起きた同時多発テロは、129人の死者【注】と350人以上の重軽傷者を出した。
 オランド大統領は、即座に「国内非常事態」を宣言、同攻撃を「戦争行為」と表現し、15日にシリア領内の「イスラム国」(ISIL)拠点への大規模攻撃を開始した。

 (2)昨今起きた事件の数々と同じように、今回もテロ実行犯たちが現場にしっかりと身分証明書(パスポート)を残したこと、テロが公式攻撃演習のタイミングと一致していたこと、そもそものISILが生まれた経緯などは、欧米では一切追求されていない。
 代わりに大国のリーダーたちは、次々に「対テロ戦争強化」を高らかに宣言、日本では与党幹事長がテロ対策としての「共謀罪」の必要性に言及し、外務省はテロに詳しい非常勤スタッフの募集をかけた。
 だが、いったい、なぜ?
 SNSのページに、フランス国旗を貼り付けることで追悼の意を表明するたくさんの人びとは首をかしげる。
 なぜ、大国の軍事力をもってしてもISILのテロはなくならないのだろうか?
 どうしたら、悲劇の連鎖を止められるのか?

 (3)「対テロ戦争予算」は莫大だ。
 米国国防総省のデータによると、2014年8月から始まった「対ISIL措置」に要した費用は5億ドル(2015年10月現在)、1日1,100万ドルの税金が費消されている。
 一方、世界武器輸出ランキング4位のフランス軍需産業の武器受注額(2015年)は、2014年の倍額の150億ユーロ(2兆円)だ。中東テロ特需の恩恵は米校に負けていない。
 だが、これらの国々のマスコミが「対テロ防止措置」とソフトに表現する16,000回超の空爆の実態は、シリアとイラクに対する明らかな戦闘行為だ。緊急会見の席でパリのテロ事件を「ISILによる戦争」と呼んだオランド大統領にとって、事件直前のフランス軍によるシリア空爆は、まったく別のものと言えるか。

 (4)何十万人ものシリア国民と何百万人ものイラク国民が犠牲になる一方、肝心のISILによるテロは減るどころか拡大を続けている。
 これについて、スタンレー・ヘラー・米国中東危機管理実行委員会会長はいう。
 「ISILのテロを止めるために米国民ができる最大のことは、米国政府にサウジアラビアへの武器輸出を止めるよう自国政府に要請することだ」
 ISILを支援するサウジアラビア、カタール、トルコの組織を通してテロリストの手に渡る武器は米国製だけではない。武器輸出大国フランスからも支援国や武器商人を介して流れ、ISILの勢力をますます強化している。

 (5)トルコで開かれたG20の席でオバマ大統領はISILに対する対テロ戦争への一致団結を呼びかけた。
 一つはっきりしていることは、終わりのない<対テロ戦争>が確実に大国の軍産複合体を潤わせ続けることだ。
 パリのテロ事件を受けて、ノースロップ・グラマン社、ロッキード・マーチン社、レイセオン社など軍需産業の株価は軒並み急上昇している。
 私たちは、今こそ熟考すべきだろう。
 いったいテロリストとは誰なのか?
 “テロリスト”を生み、育てている力と、情緒的な報道で麻痺させられた国民の想像力について、安保体制で弾みがついた国策としての武器産業強化が、日本国内の軍需産業と警備関連産業にいま、近未来への勝算と、熱い期待を抱かせていることの意味を。

 【注】その後132人に増加。負傷者の中には重体の者もいるから、死者は今後増加すると見られる。

□堤未果「対テロ戦争の拡大でいちばん潤うのは大国の産軍複合体だ ~ジャーナリストの目 第276回~」(「週刊現代」2015年12月12日号)
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 【参考(1)】
【中東】フランスの「政権転覆」工作が生んだ難民とテロ ~シリア~
【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~
【中東】「イスラム国」打倒か「アサド政権打倒」か ~フランスのジレンマ~
【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~

 【参考(2)】
【堤未果】【TPP】妥結で日本の農地は海外企業のものになる
【堤未果】情報漏洩・巨大利権など不安材料が多数 ~マイナンバー~
【堤未果】大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪
【堤未果】【ギリシャ】緊縮財政なのに軍事予算を削減できない理由
【堤未果】地方の介護現場を完全に無視 ~高齢者の「移住」提言~
【堤未果】本当に患者のためか疑問 ~国民健康保険法の改正~
【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~
【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~
【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~
【米国】国民皆保険という美名の裏で大増税開始 ~オバマケア~
【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に
【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~
【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~
【堤未果】世界が危惧する日本のジャーナリズム ~「監視大国」米国以下~
【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点
【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に
【政治】国家戦略特区法の危険性
【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~  



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1 コメント

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Unknown (武尊43)
2015-12-05 16:04:10
こういう意見だけは潰されて、世間に広まらない(怒)
最後は「堤未果はネトサポ」で括って弾き出す、、。
それこそ表にも裏にもエージェンシーがゴロゴロしているんだろうねぇ、、。
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