語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】大飯原発再稼働に伴う問題 ~脱原発の進め方~

2012年08月05日 | 震災・原発事故
(1)大飯原発再稼働
 (a)再稼働には、最低限次の2つの条件が満たされなければならない。これらのいずれも満たされていないから、再稼働すべきではなかった。
   ①福島原発事故を受けて、原因と対策について明らかにすること。 
   ②事故の責任を明らかにすること。
 (b)「暫定的に安全基準を満たしている」(野田佳彦・首相)とは、「安全性は十分ではない」といいうことと同じだ。
 (c)安全を犠牲ににしてまで再稼働させなければならないというなら、よほどの理由が必要だ。その理由は「国民生活だ」というが、要するにこれは停電リスク(計画停電)だろう。しかし、それならば「夏だけ動かす」という話になるはずだ。ところが、「稼働は暫定ではなく、ずっとだ」と言っているから、もはや論理的に破綻している。矛盾したことをやるから、国は信用を失っていく。
 (d)政府の再稼働決定の背景には、電気料金値上げに対する産業界の反発がある。電気料金が上がるのは、代替エネルギー(火力など)にかかるコストだけではなく、実は止まった原発に維持費がかかるからだ。原発依存度の低い中部電力や中国電力は値上げの必要がない。要するに、これは経営判断の結果であり、経営の責任だ。これを問わぬまま電気料金だけ上げれば、経営の失敗のツケを電気代と安全リスクで国民に支払わせることになる。

(2)長期的にも原発は不要か
 (a)技術的には、少なくとも今の原発ではダメ。今の原発は損害保険がかけられないほどリスクが大きい。
 (b)今回の事故では、事故が起きたらどこに避難するか、という指示すら間違えてしまった。福井エリアで事故が起きたら、近畿の水瓶(琵琶湖)がどうなるか。植田教授=大阪府市エネルギー戦略会議座長は、この点を関西電力に訊いたが、関電は「事故を起こさないようにする」というズレた答を返してきた。苛酷事故への危機管理体制は整っていない。

(3)関電管内の企業の要求
 (a)本来は国が、産業界を巻きこんで、省エネや節電のコンセンサスを得ていく必要があった。さらに、全電力会社が協力すれば、今夏は乗り切れる。
 (b)夏の需給ギャップ問題は、60年に1度猛暑(2010年夏)を想定し、関電の15%不足の見積もりが根拠になっているが、これはそもそも保守的な数値だ。
 (c)企業の自家発電も、生産統計からするとポテンシャルは大きい。この統計には輸出分も含まれているが、電力会社との契約が進めば確実な解消策になる。
 (d)60年に1度の猛暑に働き続けることでどれほど付加価値が生み出せるか、という発想も必要だ。危機はチャンスと捉えるべきで、節電を危機対処策に終わらせず、ライフスタイル・消費スタイルの変化、さらに新しい価値の創出の仕方を提案する方向に持っていかねばならない。

(4)「エネルギー・環境に関する選択肢」
 (a)数字合わせに意味はない。選択すべきは、政策や電力エネルギーシステムの改革の方向性だ。
 (b)原発依存度ゼロを選択するが、これには膨大な廃炉コストがかかり、電力会社の経営が悪化する。電気料金値上げなどと関連するので、政府の説明が必要だ。
 (c)50基中13基もある福井は、現行制度のままだと交付金がゼロになり、地域経済が深刻化しかねない。将来世代に安全のツケ(放射性廃棄物など)を先送りするのは問題だが、ゼロにする過程で地元再生や国民負担の問題が生じる。いずれにせよ、政府がはっきり説明すべきだ。

 以上、植田和弘(京都大学経済学部長)vs.橘川武郎(一橋大学大学院教授)「脱原発を進めるべきか ~激論⑤~」(「週刊ダイヤモンド」2012年7月21日号)のうち、植田教授の議論に拠る。
 なお、「激論①~⑤」は両論併記の疑似討論。
 橘川教授の議論から一点引く。いわく、「脱原発宣言した国は化石燃料、特にLNG(液化天然ガス)の価格交渉能力が弱まる。3・11以降、日本は米国の9倍の価格で購入、焦って高値掴みしている状況で、これが構造化していく恐れがある。買い方にも問題があって、例えば韓国は1国1社のまとめ買いで安く購入しているが、日本は電力会社があえて高く購入し、競争相手のガス会社も高く買わざるを得ない状況をつくるなど、まとめ買いも困難な状況だ」云々。
 橘川は、高値掴みは3・11以降に初めて生じた状況であるかのように述べているが、これは3・11の前から指摘されていたことだ。総括原価方式のため、化石燃料を高く買えば高く買うほど電力会社の儲けが増えるのだ。だから、あえて殿様商売をやっている(東電についてもまだ過去形ではない)。事は化石燃料に限らない。小は事務室の備品まで。だから、地域の経済界は電力会社にひれ伏していたのだ。
 原発擁護の議論には、この手の落とし穴が多すぎる。
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