語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会保障】民主党による政策転換 ~母子政策と障害者政策~

2012年05月07日 | 医療・保健・福祉・介護
 民主党政権は、「国民の生活が第一」というスローガンの下に発足した。よって、社会保障・社会福祉は最重要課題に位置づけられるはずだ。この分野でも、成功例と失敗例が対照をなす。

(1)成功事例1 ~生活保護/母子加算~
 小泉政権時代の2003年、「骨太の方針」に生活保護の見直しが明記され、母子加算は16歳以上の子どもでは2006年末、15歳以下では2009年3月末で支給が打ち切られた。これは、社会保障費の伸びを抑制する小泉改革の一環として実行された。母子加算廃止は、血も涙もない構造改革のシンボルとなった。反対運動が起こったが、厚労官僚は予算がないという理由で陳情に取り合わなかった。
 政権交代実現後、与党は直ちに母子加算復活に着手し、法改正を伴わないが、予備費を流用した予算措置によって母子加算の復活にこぎつけ、2009年12月1日から支給が再開した。財務省は、手当額の引き下げや高校就学援助の廃止を求めて与党の方針に抵抗したが、最終的には与党の方針どおり58億円の予算が確保され、10万世帯に加算額が支給された。
 予備費でカバーできる程度の少額だったことも相まって、政府与党が「生活第一」への転換を印象づける第一弾として強い決意で政策形成に臨み、2ヵ月の時間を要したものの、財務省の反対を押し切って実現した。

(2)成功事例2 ~障害者政策~
 小泉構造改革の中で、障害者自立支援法が制定され、障害者の受益者負担が強化された。障害者団体は、この制度が「自立支援」という看板に逆行する、と強く批判したが、厚労省は法律で決まったこと、予算がない、などと、けんもほろろに取り合わなかった。
 民主党政権は、鳩山首相のいわゆる「出番と居場所のある社会」を実現する際の柱として、障害者を社会的に包摂し、活動の場を創り出すことを目指して、新たな法制度の創設に取り組んだ。
 そのために、包括的な政策論議の機関として、「障がい者制度改革推進本部」が設置された。さらに、同本部の下に総合福祉部会が置かれ、厚労省が部会の事務局を担当することとなった。この会議は、障害者権利条約の基本精神である「私たち抜きに私たちのことを決めるな!」という標語を基本理念として、法案の検討を進めた。
 この会議の委員は、障害当事者が半分以上を占めた。身体、精神などの従来の障害に加えて、発達障害など最近社会的に認知されるようになった新たな障害者の支援団体代表も参加した。委員の一人の中西正司らが唱えた当事者主権の理念(中西正司/上野千鶴子『当事者主権』、岩波新書、2003)民主党における障害者政策の基本とされた。
 政府は、2010年6月29日、閣議決定で、推進会議の「第一次意見を最大限に尊重した「障害者制度改革のための基本的な方向について」を定めた。その中で、応益負担の原則廃止、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体型の整備などを内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向け、第一次意見に沿って必要な検討を行い、2012年常会への法案提出、2013年8月までの施行を目指す、という方針を決定した。
 そのための第一段階として、障害者基本法の改正が図られた。2011年7月、改正案が全会一致で成立した。改正障害者基本法の要点は、次のとおり。
 (a)目的は「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する」。
 (b)建物や制度、慣行、観念などによる制約も「障害」とする。
 (c)障害のない人との地域生活を妨げない。※
 (d)手話を言語と認め、手話通訳などの確保を進める。※
 (e)障害のない児童・生徒と共に学べる。※
 (f)医療・介護を身近な場所で受けられる。※
 (g)司法の場で障害の特性に応じた意思疎通の手段を確保する。
 (h)災害などで情報が早く的確に伝わるようにする。
 (i)障害者や有識者らでつくる障害者政策委員会を新設する。
 改正法では、従来の障害の定義が拡大され、発達障害なども政策の対象になった。国や自治体には、(c)(f)のような配慮をする努力義務が課せられた。その意味で画期的な立法と言える。
 ただし、法律の条文に「可能な限り」という文面が付加された(「※」の条文)。
 最終局面で、冷や水を浴びせられた。政治も期待外れだった。【藤井克徳・日本障害者協議会常務理事推進会議議長代理】
 障害者団体側からすれば、「可能な限り」という文面は政府の怠慢や不十分な施策の言い訳に使われるおそれがある。他方、政府は、努力義務にとどめておかねば訴訟で怠慢を追及されるリスクがある、と考えたのだ。この対立は、政策転換をめぐる行政と、要求する当事者側の食い違いを反映する。およそ、政治の世界には常につきまとう問題だ。
 従来の障害者政策を転換し、当事者の声を反映させたものに改革する、という意味では一歩踏み出した、と言える。問題は、基本法の改正を踏み台として、障害者自立支援法の改正につなぐことができるかどうかだ。その点、民主党の力量が問われることになる【注】。

 【注】はたして、民主党政権は、総合福祉部会で議論を重ねて集約した提言を骨抜きにして、骨抜き法案を第180回国会に上程した。現行の障害者自立支援法の廃止を経る新法ではなく、現行法の一部改正だった。総合福祉部会が2大指針としていた障害者権利条約や障害者自立支援法違憲訴訟に伴う基本合意文書とは相容れず、総合福祉部会の総意で取りまとめた骨格提言ともほど遠いものとなった。【日本障害者協議会「障害者総合支援法案(2月29日民主党政策調査会厚生労働部門会議案)への日本障害者協議会の見解」】
 そして、4月26日の衆議院本会議では、わずか14分で、消費税率引き上げ法案など社会保障と税の一体改革に関連する法案を審議する特別委員会の設置について採決し、同時に「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案(180国会閣68)」も一切の審議もなく、起立多数で可決した。

 (続く)
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