語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>内部被曝の隠蔽 ~国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線管理基準~

2011年06月27日 | 震災・原発事故
 内部被曝は、外部被曝に比べて人体に大きな影響を与える。<例>1千万分の1グラムの放射性ヨウ素131が体内に8日間とどまった場合、1シーベルトほどの被曝線量となる。
 
 米国は、占領下日本で原爆情報を徹底的に秘匿した。原爆傷害調査委員会(ABCC、後の放射線影響研究所)が治療を一切しない非人道的な調査を進め、放射性降下物を無視した偽りの報告を行った。未熟な技術で破局を防げない商業原子炉を「平和利用」の名目で押しつけるため、内部被曝を見えないものにする必要があったのだ。原爆は破壊力がすごいが、放射線で人を後々まで苦しめることはない、という核兵器の虚像を仕立て上げる意図もあった。

 原爆による内部被曝隠しは、日本政府も協力した。「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」が57年に施行され、被爆者認定基準ができた。基準では、被曝を初期放射線だけに限定し、被曝範囲を爆心地から2km以内とし、放射性降下物による内部被曝が一切無視された。米国の核戦略を日本の法律に具現化したのだ。

 放射線影響研究所などが86年に定めた放射線量評価体系「DS86」も、この枠組みを擁護する。ヒロシマでは原爆投下の42日後、枕崎台風によって地表の放射性物質はほぼ洗い流された。そこにわずかに残った放射性降下物を測定し、「もともと、これしかなかった」という作り話のうえに評価基準を決めたのがDS86だ。

 内部被曝隠しは、米国主導で進められた国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線管理基準にも反映された。ICRPの基準から内部被曝が除外されたことは、米国の核戦略の世界支配が科学の分野も包みこんだことを示す。

 内部被曝では、体内に入った放射性の誇りの周囲で集中的に分子が切断される。ICRPでは、被曝の具体性を捨てて単純化し、臓器全体に分子切断を平均化するモデルに置き換える。これで内部被曝が見えなくさせられる。
 ICRPの基準に疑問を持たない科学者たちは、内部被曝の科学的な研究ができない。ICRPが世界中に振りまいている最大の害悪だ。

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、ICRPの評価基準を見直し、別の基準を打ち出した。ECRRは、第二次世界大戦後、世界で6,500万人超の人が放射線被曝によって命を奪われた、と試算する。ICRPの基準による試算では117万人だ。両者の数値の違いは、内部被曝を考慮するか否かの違いだ。
 ICRP信奉者は、ECRRのデータを無視する。科学的な議論ができず、政治に何時でも応じてしまう。

 以上、語り手:矢ヶ崎克馬・琉球大学名誉教授/聞き手:堀井正明(本誌)「ヒロシマ・ナガサキ 隠された『内部被曝』」(「週刊朝日」2011年7月1日号)に拠る。
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