語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】ガレキ処理はなぜ進まないのか ~環境省の「環境破壊行政」~

2012年05月28日 | 震災・原発事故
(1)広域処理の「根拠」
 事実上、「災害廃棄物の処理等の円滑化に関する検討・推進会議」(昨年3月下旬に開催)で決定され、早くも42都道府県(岩手・宮城・福島・茨城・沖縄を除く)に環境副大臣名で受け入れを打診した。
 この会議は、環境省や国土交通省の局長らで構成されている。広域処理の法的枠組みも、マニュアルもない。閣議にも諮っていない。
 環境省によれば、根拠は旧・厚生省が1998年に作成した「震災廃棄物対策指針」だ。指針にいわく、「被災都道府県からの要請があった場合、または被災状況から判断して必要と認める場合には、全国的な要請等を行う」。要するに、役人が勝手に判断していたのだ。
 ゴミ処理は、自治事務として市町村に独自の権限が与えられている。国が自治体に協力を要請すること自体、慎重でなければならない。しかも、国と地歩の話し合いは欠如していた。
 それでも、福島第一原発事故がなければ、丸く収まっていたかもしれない。しかし、民主党政権が事故対応の不手際で国民の信頼を失う中、広域処理への危惧の念が急速に広がっていった。

(2)密室で決まった福島「県内処理方針」
 環境省は、汚染レベルの高い福島県のガレキ処理については、県内処理の方針を打ち出した。お墨付きを与えたのは、有識者会議「災害廃棄物安全評価検討会」(昨年5月15日に発足)だ。今年3月までに計12回開催されたが、すべて非公開。環境省ホームページに、箇条書きの議事要旨(発言者名を伏す)、配付資料の一部を掲載し、内々に議事録を作成していたが、環境NGOから情報開示請求があるやいなや、第5回以降は作成をとりやめた。
 有識者会議の処理方針(昨年6月19日了承)は、大きく2つ。
 (a)木くずなどの可燃物は、新たに放射能対策を講じなくても、既存の焼却炉で焼却可能。
 (b)放射性セシウム濃度が8,000Bq/kg以下の不燃物や焼却灰は最終処分場に埋め立て可能で、8,000Bq/kg超については一時保管。
 (a)の可燃物については、「十分な能力を有する排ガス処理施設」という条件を付けた。「十分な能力」とは、ダイオキシン対策で整備された「ろ布式集じん機(バグフィルター)のことだ。
 しかし、ダイオキシン対策が放射能汚染に通用するのか。ところが、有識者会議は、ガレキを実際に焼却炉で燃やしたデータがないまま、放射性物質とは無関係の実験などを基に「バグフィルターで放射性セシウムをほぼ100%除去できる」と結論付けてしまった。
 (b)の埋め立て処分については、8,000Bq/kg以下であれば、最も影響を受けやすい処分場の作業員でもICRPが一般の人の年間限度として示している1mSvを下回る、と環境省は主張する。
 しかし、原発廃炉時に排出される廃棄物の安全基準が100Bq/kg以下であるのと比べると、灰を普通のゴミと同じように埋め立てる基準が8,000Bq/kg以下では、いくら何でも高すぎる。処分場の浸出水処理施設では、セシウムは取り除かれずに、周辺環境が汚染される危険もはらんでいる。
 ・・・・密室会議では、こうした疑念をぶつけようがない。蚊帳の外に置かれた自治体や住民の不安は募るばかりだ。

(3)受け入れ反対はNIMBYか
 ゴミ問題だけでも厄介なのに、今回は放射能の問題も加わっている。首都圏のゴミ施設でも、焼却灰から8,000Bq/kgを超える放射性セシウムが検出された。首都圏のゴミも相当汚染されているのだ。被災地の、汚染されたゴミを燃やして大丈夫か。
 (2)で指摘したような国民不在の意思決定、政策立案プロセスがある。「広域処理ありき」。それを推進するための「焼却ありき」。
 福島の放射能汚染ガレキが「焼却OK」であれば、それ以外の地域はもっと無防備に「焼却OK」となる。だが、おおもとの「福島モデル」が疑問だらけなのだ。
 静岡県島田市は、県や環境省の担当者も交えた住民説明会を開いたが、反対派住民が「行政は都合のよいデータしか出していないのではないか」と質問しても、行政側jは「安全」の一点張りだった。
 環境省による広域処理キャンペーンの中で、地元受け入れに反対する住民はNot In My Back Yard(NIMBY)扱いをされるようになった。原発は、立地の地域社会をズタズタに引き裂く。地域社会は反対派と推進派に分断され、多くの場合、カネと権力を握る推進派が力ずくで反対派をねじ伏せてきた。広域処理も強引に進めれば、原発の二の舞になりかねない。しかも、広域処理は、被災地とそれ以外で対立の構図ができつつある。対立構図を作っているのは国だが、その自覚も反省もない。

(4)そもそも広域処理は必要か
 「復興の足かせ」論は、広域処理の大前提だ。
 しかし、ガレキがあるから復興が進まない、という話は被災地から出ていない。復興の課題としては、住宅再建、雇用確保、原発事故の補償が先に列挙される。
 ガレキの多くは、津波被害を受けた沿岸部の仮置き場に積まれている。沿岸部は、地盤沈下などによって当面は使用できないケースが多い。どのように活用していくかについては、復興計画などで青写真が提示され始めた頃だ。仮置き場への搬入率は、今後家屋などの解体で生じるものを除けば、100%だ。広域処理キャンペーンでは、ガレキの巨大な山の写真が多用されているが、大半は仮置き場でしっかりと管理されている。町中がガレキに埋もれているわけではない。 

(5)地元の提案を「門前払い」
 ガレキ処理が滞っているのは、現地での焼却や再利用が遅れているからにほかならない。阪神淡路大震災で発生したガレキ量と今回とはほぼ同じだ。ところが、震災後1年の処理率は、阪神淡路が5割、今回が6.7%だ。
 明暗を分けたのは仮設焼却場だ。阪神淡路では兵庫県内7市町に34基設置された。最も早いものは震災後3ヵ月、遅くとも1年後には稼働し始めた。一方、今回は、仙台市を除く被災市町から処理を受託した宮城県は、20基程度の整備計画を立てたが、1基目が試運転に入ったのは今年3月下旬。岩手県では、宮古市に2基、釜石市に2基整備したが、本格稼働は4月になってからだ。
 しかも、環境省や県の「お役所仕事」が被災地の足を引っ張った。岩手県は、ガレキ専用焼却炉の建設を求める陸前高田市(同市のガレキは県内最大の100万トン)を「門前払い」にしていた。県の担当者いわく、「環境アセスメントの手続きなどで2、3年かかる」。
 戸羽太・陸前高田市長の提案は国会でも取り上げられたが、具体化しなかった。戸羽市長は、<なにがしかの動きがあると思ったが、県に問い合わせれば『環境省はやる気はない』。環境省に聞けば『県から正式な反しは来ていない。話があれば当然検討する』という始末だった。やる気のない人たちだ。とにかく新しいことには挑戦したくない。環境省と県は責任をなすり付けあっている>と怒りをあらわにする。

(6)代替案はないのか
 受け入れに前向きな自治体が増えているようだが、首長の同意が得られても、住民は納得しない。先行き不透明な広域処理に固執し続ければ、ガレキ処理がますます遅れかねない。米軍普天間基地の移転問題の二の舞となる。どうせ簡単には進まないのだから、仕切り直してはどうか。
 (a)本当に放射能の汚染度が低いのであれば、もっと現地の処理量を増やせばよい。ガレキ用焼却炉を県外に造るくらいなら、現地に造ればよい。移送の費用がかからなくて済む。分別が徹底されていれば、木材などはチップ化して燃料に活用する。コンクリートのガレキは道路や堤防などの復興土木事業に再利用すればよい。
 (b)ガレキの汚染度が高ければ、当然、移動させてはならず、現場での焼却や安易な埋め立てもご法度だ。国が集中管理しなければならない。
 焼却施設や処分場は、3・11以前から情報をまともに公開してこなかった。日本の環境行政の実態は、焼却炉の排ガス規制で基準が設けられているのが窒素酸化物、ダイオキシン類など5項目にすぎず、有害物質の99%が放置されている点を指摘すれば十分だろう。
 広域処理問題を契機に、ゴミ処理全般に厳しい目が注がれつつある。住民不在は許されない。環境省の「環境破壊行政」の転換へとつながるなら、一連の騒動は無駄ではない。 

 以上、佐藤圭(東京新聞特別報道部)「がれき処理はなぜ進まないのか? ~広域処理が突き付けた環境行政の課題~」(「世界」2012年6月号)に拠る。
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