語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】福島の里に進出する野生鳥獣 ~崩れる生態系~

2013年03月23日 | 震災・原発事故
 (1)「計画的非難区域」の集落は無人だ。そして、農地は地面が見えないほど雑草が生い茂る。わずか2シーズン耕作されかっただけで、農地の姿を保てなくなったのだ

 (2)人の抑圧を解かれたのは、田畑の雑草だけではない。野生動物に対する抑止力も大きく低下した。
 福島県内の狩猟者登録証交付数は、福島第一原発事故を境に、31%も減少した。その結果、県内の主要な狩猟対象獣であるイノシシの捕獲数は、2010年度の3,736頭に対し、2011年度は3.038頭と18%落ち込んだ。
 事故原発を擁する浜通り(福島県東部)の狩猟家は避難生活を余儀なくされ、その多くが登録を見送った(推定)。仮設住宅では「銃ロッカー」などの設備を調えるのが難しいし、生活再建に負われて狩猟意欲を失ってしまった人が少なくない。その事情は、中通り(中部)や会津(西部)の狩猟家も同じだ。
 こうした事情以上に「狩猟離れ」を促進した原因は、肝心の獲物が放射能にひどく汚染され、捕獲しても肉を食べたり販売したりできなくなってしまったことだ。
 政府の原子力災害対策本部による野生鳥獣肉の出荷制限は、2011年11月9日に始まり、対象範囲が拡大し続け、2013年2月18日現在、イノシシ(浜通り、中通り)、ツキノワグマ(中通り、会津)、キジ・ヤマドリ・カルガモ・ノウサギ(県内全域)の肉が出荷制限されている。解除のめどは立っていない。
 県も、狩猟鳥獣の自家消費の自粛を要請している。
 こうした状況下では、狩猟意欲は削がれる、当然。

 (3)手つかずになった田畑には、野生動物も進入してくる。
 <例>イノシシは、耕作放棄地に真っ先に生え出すススキやクズなどの植物が大好物だ。
 こうした場所は、動物の新たな繁殖場、隠れ場となって、個体数の増加を助ける。
 原発事故は、人と野生動物との勢力関係を大きく変化させてしまった。

 (4)(3)の事態は、地域にどんな影響を及ぼすか。
 除染し、営農を再開しても、野生鳥獣の集中攻撃を受ける可能性が高い。
 原発事故前まで、福島の農地では年間1億数千万円の鳥獣被害が報告されていた。県内農家にとっての最強の敵はイノシシで、例年5,000万円前後の損害が出ていた。
 ただし、全国的にみれば1県当たりの鳥獣被害額は比較的小さい。つまり、福島では、これまで野生動物からの攻撃を比較的うまくかわすことができていた。
 さらに、2009年には、従来阿武隈川以東に限られていたイノシシ分布域が西方に広がる兆しが見つかったため、「県イノシシ保護管理計画」を策定して個体数を増加させない(同川以東)現状以上に拡大させない(同川以西、農業被害を現状以上に拡大させない(全域)といった目標を掲げて捕獲圧力をよりきめ細かくコントロールしようと努めてきた。
 県は、外にクマ、サル、カワウの保護管理計画も立てている。

 (5)(4)の管理計画は、捕獲従事者(地元狩猟者)の存在が不可欠だ。
 その抑止力がなくなり、東北の伝統的な社会構造の崩壊の構図が目の前に現れてきた。狩猟者の人口減少と高齢化によって、動物を山へ追い上げる力が弱まった。近年の、里地へのクマやサル、シカなどの大量出没がその証拠。野生動物と緊張感を保ちながら持続的に何百年も共存し続けてきたが、原発事故によってこの構図が根本的に壊された。これから始まろうとしているのは、負の連鎖だ。農地に手が入らなくなり、動植物の進入を許し、それを抑止する力が弱まり、共存のバランスがとめどもなく崩れていく。【田口洋美・東北芸術工科大学東北文化研究センター長】
 農業の再興はいっそう困難になる。

 (6)「警戒区域」に指定された双葉郡富岡町では、人気のない歩道を大型の獣が往来している。町内の飼育場から逃げ出したイノブタだ。イノブタは、今後、在来イノシシとの交雑も行う可能性がある。
 これまでの野生動物行政とは、まったく違うレベルの対応が求められている。【酒井浩・福島県生活環境部自然保護課野生生物担当主幹】

□平田剛士(フリーランス記者)「里が山に飲み込まれる ~福島の森と海は今第4回~」(「週刊金曜日」2013年3月15日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【映画】理念に憑かれた男 ... | トップ | 【IT】ノンフィクションと... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

震災・原発事故」カテゴリの最新記事