本書には、「変わる価値観」から「スポーツ」までの26のテーマのもとに、全85編の論考が収録されている。
たとえば、「論点40」は地方活性化を主題に、長野県川上村の農業および行政について村長が報告する。すなわち・・・・
川上村のレタス生産量は日本一であり、野菜売り上げ額は年間約150億円。これを村内農家約600戸でならすと、一戸あたり2,500万円になる。
川上村は、役場の標高が1,185メートル(日本一の高所)、年平均気温8度の高冷地である。農家の年齢構成は若く、耕作放棄地はほとんどない。かつては村民は年に8か月も出稼ぎに出ていたが、朝鮮戦争(1950年)のとき選ばれて米軍向けのレタスを生産開始。以後、農家、農協、行政が一丸となって取り組んだ。高度成長期には国民の食生活が洋風化し、国内需要も伸びた。2006年からはブランド確立(プロ野球のスポンサーになる、など)と輸出(台湾や香港)にちからを入れ、農業経営の安定化を図っている。
「行政は、主権が存する住民の意識レベル以上のことはできない。ならば、住民の意識レベルを上げていくまでである」
かくて、村営CATVを導入し、廃止された民間の路線バスを村営に移管した(黒字になった)。「やって見せて理解を得る。そうすると住民の意識レベルが上がる」・・・・成功が意識レベル向上に寄与したのである。そして、そのくり返しであった。
意向調査によれば云々などと言うが、住民の平均的な考え方どおり行政をおこなうなら、それ以上のことはできない。「つねに刺激や感動を生み出し、住民に提供することが、住民の活力につながる」
「行政は、税金をモノやサービスに変える仕事である」
住民に密着する基幹自治体の心意気をみせて、快い。
こうした首長のもとにあって、住民もまた意識が高い。
2009年10月25日付け朝日新聞「耕論」に川上村の一農家の談話がのっている。いわく・・・・
年間販売額4-5,000万円。手取り年収はその半分弱。「仕事はきつい。7月から9月にかけては、夜中の午前1時、2時ごろに起きて収穫作業をする。終わるのは夜の7時すぎ。睡眠時間3~4時間という日がずっと続く」
3世代でやっている農家が多い。こういう農家は強い。
繁忙期にアルバイトを募集したら、2人の枠に100人以上の応募があった。30~40代で派遣切りされた人が多かった。中国人研修生を雇う農家が増えているが、失業者を雇う農家に助成金をだせばもっと日本人を雇うだろう。
国は野菜価格安定対策事業を維持してほしい。価格下落時の損失補填に国が拠出する額は年に100億円台で、所得保障より安くてすむ。
*
本書を一読すれば、(文藝春秋社が考えるところの)日本人が直面する今日的な問題を鳥瞰できる。
しかし、すべての論点に目をとおす必要は、必ずしもないと思う。関心のある主題に絞って読んでさしつかえない。さいわい、各論考には、「データファイル」名づけられた基礎的情報が添付されている。議論を突っこんで理解するのに便利だ。
そして、巻末に1991年から2009年までの、その時々の論争のタイトルおよび時事を録した年表が付してあるから、これまた関心のある主題を拾いだしていけば、現代史を理解しやすいし、自分の精神史を再構成するよすがともなるだろう。
主張があれば、異論もあるものだ。本書に異論は載っていない。場合によっては、異論を読者自ら組み立ててもよい。ディベートの訓練になる。
□文藝春秋編『日本の論点2010』(文藝春秋、2010)
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たとえば、「論点40」は地方活性化を主題に、長野県川上村の農業および行政について村長が報告する。すなわち・・・・
川上村のレタス生産量は日本一であり、野菜売り上げ額は年間約150億円。これを村内農家約600戸でならすと、一戸あたり2,500万円になる。
川上村は、役場の標高が1,185メートル(日本一の高所)、年平均気温8度の高冷地である。農家の年齢構成は若く、耕作放棄地はほとんどない。かつては村民は年に8か月も出稼ぎに出ていたが、朝鮮戦争(1950年)のとき選ばれて米軍向けのレタスを生産開始。以後、農家、農協、行政が一丸となって取り組んだ。高度成長期には国民の食生活が洋風化し、国内需要も伸びた。2006年からはブランド確立(プロ野球のスポンサーになる、など)と輸出(台湾や香港)にちからを入れ、農業経営の安定化を図っている。
「行政は、主権が存する住民の意識レベル以上のことはできない。ならば、住民の意識レベルを上げていくまでである」
かくて、村営CATVを導入し、廃止された民間の路線バスを村営に移管した(黒字になった)。「やって見せて理解を得る。そうすると住民の意識レベルが上がる」・・・・成功が意識レベル向上に寄与したのである。そして、そのくり返しであった。
意向調査によれば云々などと言うが、住民の平均的な考え方どおり行政をおこなうなら、それ以上のことはできない。「つねに刺激や感動を生み出し、住民に提供することが、住民の活力につながる」
「行政は、税金をモノやサービスに変える仕事である」
住民に密着する基幹自治体の心意気をみせて、快い。
こうした首長のもとにあって、住民もまた意識が高い。
2009年10月25日付け朝日新聞「耕論」に川上村の一農家の談話がのっている。いわく・・・・
年間販売額4-5,000万円。手取り年収はその半分弱。「仕事はきつい。7月から9月にかけては、夜中の午前1時、2時ごろに起きて収穫作業をする。終わるのは夜の7時すぎ。睡眠時間3~4時間という日がずっと続く」
3世代でやっている農家が多い。こういう農家は強い。
繁忙期にアルバイトを募集したら、2人の枠に100人以上の応募があった。30~40代で派遣切りされた人が多かった。中国人研修生を雇う農家が増えているが、失業者を雇う農家に助成金をだせばもっと日本人を雇うだろう。
国は野菜価格安定対策事業を維持してほしい。価格下落時の損失補填に国が拠出する額は年に100億円台で、所得保障より安くてすむ。
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本書を一読すれば、(文藝春秋社が考えるところの)日本人が直面する今日的な問題を鳥瞰できる。
しかし、すべての論点に目をとおす必要は、必ずしもないと思う。関心のある主題に絞って読んでさしつかえない。さいわい、各論考には、「データファイル」名づけられた基礎的情報が添付されている。議論を突っこんで理解するのに便利だ。
そして、巻末に1991年から2009年までの、その時々の論争のタイトルおよび時事を録した年表が付してあるから、これまた関心のある主題を拾いだしていけば、現代史を理解しやすいし、自分の精神史を再構成するよすがともなるだろう。
主張があれば、異論もあるものだ。本書に異論は載っていない。場合によっては、異論を読者自ら組み立ててもよい。ディベートの訓練になる。
□文藝春秋編『日本の論点2010』(文藝春秋、2010)
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