語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】今導入すると格差が拡大する ~外形課税=赤字法人課税~

2015年01月04日 | ●片山善博
 このところ新聞報道で「赤字法人課税」やら「外形課税」にふれた記事をよく目にする。
 報道では分かり辛い「赤字法人課税」「外形課税」だが、これに基本的には賛成だ。しかし、今のタイミングにこれを強行することには反対だ。

 「赤字法人課税」「外形課税」も法人事業税の課税方式に関する議論の中で取り沙汰される。法人事業税は都道府県税の中で最も重要な税だ。
 法人事業税は、一部の例外を除き、基本的には法人の所得に対して課税される。だから、所得がない法人(赤字法人)には税負担が生じない。つまり、現行の法人事業税の仕組みは、いわば「黒字法人課税」だ。
 赤字法人課税は、この仕組みを変えて、赤字法人にも税負担を求める制度に移行させよう、という議論だ。

 国税の法人税も「黒字法人課税」だ。
 ただ、国税と異なり、地方税の場合には、自治体が提供する行政サービスに要する費用はできるだけ広く薄く地域のみんなで負担し合うという基本理念がある(負担分任の原理)。この原理に照らせば、原則として黒字法人のみに負担させる現行の法人事業税の仕組みは、決して望ましいものではない。

 都道府県は、企業に行政サービスを提供している。
  (1)直接的なもの・・・・<例>投資奨励の支援策や低利融資制度などの産業政策。
  (2)間接的なもの・・・・<例>道路や港湾などの整備。企業は、日常これらを利用して原料や製品を運搬している。もし、こうした公共施設が整備されていなければ、企業活動は大きく停滞する。
  (3)その他・・・・<例>警察行政。もし、治安が悪くて凶悪犯罪が多発するような地域であれば、企業は安心して業務に勤しむことなどできないだろう。
 こうした事情があるのに、都道府県の財政を支えている事業税の負担は、原則として黒字企業だけが担う(赤字企業はそれを免れる)という現行の仕組みは明らかに不公平だ。しかも、黒字企業は法人のうち3割ほどしかなく、残りの7割はいわばフリーライダー化している。これが、赤字法人課税論が主張される所以であり、背景だ。

 では、赤字法人に課税するには、どうすればよいか。所得に替えて何を基準に課税するか。先の負担分任の原理からすると、行政サービスによる受益の程度に応じて法人が税を負担しあう制度が最も望ましい。
 受益の程度を計る基準の一例・・・・法人の事業活動の量に応じて負担を求めるのが合理的。事業活動の量は、法人が一定期間に生み出した付加価値によって推定されるから、その多寡に応じて課税する仕組みにすれば、公平性の観点からする違和感は解消される。
 付加価値は、一般に、従業員への賃金、企業が払う利子・地代・家賃、企業の利潤で表されるから、これらを対象にして薄く広く課税すればいい。・・・・所得に替わるこうした基準によって課税する仕組みを、法人事業税の「外形課税」ないし「外形標準課税」という。「外形課税」に切り替えれば、結果として赤字法人課税になる。
 これによって、黒字企業も赤字企業も、それぞれの事業活動の規模に応じて公平に税を負担することになるし、都道府県の税収も安定する。所得に応じて課税する仕組みのもとでは、景気の変動によって税収も変動する。法人を含めた住民サービスを本務とする自治体の税には、安定性という要素も必要だ。

 ただし、現時点では「外形課税(「赤字法人課税)」への切り替えは止めたほうがいい。
 政府は法人税を減税する方針を決め、その代替財源として法人事業税の外形課税化が浮上している。
 実は、いまでも一部の企業には外形課税が導入されている。資本金1億円以上の大企業を対象に、その税額計算について部分的に付加価値などを基準にして課税する仕組みが設けられている。
 よって、今次の外形課税化の議論は、具体的には
  (a)その大企業についての外形基準で課税する部分の割合を増やす。
  (b)資本金1億円未満の中小法人にも外形課税を広げる。
との両方の意味が含まれている。

 では、減税で利益を得るのは黒字企業。特に、アベノミクスによる円安効果を一身に受ける輸出関連企業にとってメリットが著しく、かつ、これらは総じて大企業だ。
  ②法人事業税の課税方法の変更でダメージを受けるのは赤字企業であり、中小企業の多くがこれに該当する。しかも、輸出に関係のない企業は原材料費の価格上昇という円安のデメリットだけをもろに受けていて、それが赤字を増す要因にもなっている。ちなみに、赤字企業には国税の法人税減税のメリットは何もない。

 ①は、円安効果と減税政策によりタナボタ式に二重の恩恵を受ける。いや、黒字企業のほとんどは法人事業税の課税方法の変更によっても減税になるから、三重の恩恵を受ける。
 ②は、円安の副作用と法人事業税の課税方法の変更で往復ビンタをくらう。
 どう見ても①は強く、②はすこぶる弱い立場だ。政治は、とことん強い方に味方し、そのしわよせを弱い方に押しつけようとしている。
 何故、格差をことさら拡大しようとしているのか。
 これでは、およそ公正な政治とは言えない。

 法人事業税の外形課税化は、公正な課税方式だから賛成するが、このたびの法人税減税と抱き合わせでこれを進めれば、却って不公平を助長するから、とうてい賛成できない。
 では、何時これを導入したらよいか。それは大企業ばかりではなく中小企業も黒字に転換した時が最もふさわしいタイミングだ。その時には、反対するより賛成する中小企業も多くなっているだろう。
 そうした経済環境をつくることこそ、政治は力を注ぐべきだ。

□片山善博(慶大教授)「今ではない「赤字法人課税」 ~日本を診る 62~」(「世界」2014年12月号)
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