語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【アベノミクス】似而非改革 ~「減反廃止」~

2013年12月16日 | 社会
 (1)農業は、常に成長戦略の柱だった。
 しかし、鉄のトライアングル(農協・農水族議員・農水省)の抵抗によって、改革は頓挫した。結局、日本の農業は衰退の一途をたどってきた。
 アベノミクスの第三の矢は、これまで何の成果もあげていない。
 マーケットでは、失望の波が広がっていた。
 そこへ、減反政策という戦後農政の根幹を廃止する、というニュースが各紙の一面を飾った。インパクトは大きかった。

 (2)ところが、農協も農水族議員も、多少反対することはしたが、妙にあっさりと引き下がった。
 ヘンだ・・・・。
 そして、農水省から、今回の政策変更によって農家の所得は増加する、という試算が発表された。

 (3)当初、「減反廃止」と前向きにとらえていた報道各社は、騙されたんじゃないか、と感じ始めた。
 しかし、今さら「戦後農政の大転換」という報道を取り消すわけにもいかない。
 結果的に補助金が増えそうだ、という点をとらえて、批判的な論調を若干加えてお茶を濁している。
 しかし、そんないい加減な報道ぶりでは、国民はまたしても安部政権の詐術に騙されてしまう。

 (4)減反の本質は何か。
 コメの生産量を減らして、米価を高止まりさせる政策だ。
 減反は、目的ではなく、手段にすぎない。
 政策の目的は、あくまで「米価維持」だ。それは、農家の収入を維持するだけでなく、農協のコメ販売手数料を維持することでもある。
 さらに、農協は、兼業農家の兼業収入に狙いを定めて、銀行・保険業務を行って、その収益の大半を稼いでいる。
 価格維持を廃止すれば、規模の小さな兼業農家は廃業に追い込まれる。
 農協から見れば、死活問題だ。

 (5)安倍総理は、日本の農業の輸出を倍増し、成長産業にしよう、と言っている。そのためには何が必要か。
  (a)価格競争力をつける。=米価を下げる。
  (b)生産を増加させる。
  (c)収益性を向上させる。大規模化も必要だが、米国、カナダ、オーストラリアなどに規模では勝てない。高付加価値化で勝負するしかない。
 以上の観点からすると、「減反廃止」政策はまったく逆の政策になっている。
 一方では、農家が自主的に生産量を決める仕組みにする、という。だのに、主食用米の生産が増えすぎないように飼料用米に対する補助金を大幅に増やす、という。
 それでも生産が増えすぎたら、主食用米を飼料用米に転用する。
 これでは、主食用米の供給は増えず、価格は下がらない。
 おまけに、主食用米から、付加価値が圧倒的に低い飼料用米の生産にシフトさせてしまう。
 要するに、(a)~(c)の3条件のすべてを成立させない仕組みだ。

 (6)飼料用米に補助金を増やせば、農地を手放す兼業農家は経る。大規模化は進まない。
 つまり、今回の「減反廃止」は、これまでの政策の本質をそのまま維持する「似而非改革」だ。
 加えて、株式会社の農業参入全面解禁、の言う業委員会制度の廃止、農協の金融業務の分離や独禁法適用除外廃止・・・・といった改革の本丸はまったく手つかずだ。
 年明けに、また、こまやかしの部分的「改革」で国民を騙すに違いない。

 (7)TPPで、コメの関税を廃止すれば米価は大幅に下がるはずだ。ワーキングプアの若者も美味しいコメをもっとたくさん食べられるだろう。
 それでも競争できる農家や企業が農地を集約化して生産を増やし、美味しいコメを世界に輸出する。それで農協がつぶれても何ら問題ない。
 「米価維持政策の廃止」こそ、今もっとも必要なことだ。
 農業の「衰退戦略」をいつまで続けるのか。 

□古賀茂明「「減反廃止」という似非改革 ~官々愕々第89回~」(「週刊現代」2013年12月14日号)
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