(1)2016年の国際社会のもう一つの大きな話題は、米国大統領選挙だ。共和党ではドナルド・トランプ、民主党ではバーニー・サンダースが台頭した。
女性、ラテン系、イスラム教徒、外国人などのマイノリティを標的としたヘイトスピーチを売りものにするトランプ。「共和党をぶっこわす」ということで支持を得ている点、小泉純一郎・元首相と重なるものがある。
最低賃金15ドルや公立大学の無償化など、大胆な所得再分配政策を主張するサンダース。日本では社会主義者、社会民主主義者などと言われることもあるが、彼は1980年代に第四インターナショナル加盟政党の社会主義労働者党の活動に参加している。米国の社会主義労働者党はトロッキスト、つまり共産党より左の思想を持つ政党だ。どちらも、従来であれば泡沫候補として片付けられていたタイプだ。
(2)共和党主流派が推していたテッド・クルーズ(5月3日に撤退を表明)も、政策など何もない、トランプ以上のポピュリストだ。
彼が選挙用に作成したプロモーション動画に「マシンガンのベーコン」と題するものがある。テキサス州のスーパーマーケットでベーコンを購入する。「テキサスでは焼き方がちょっと違うよ」などといって、ベーコンをマシンガンに巻き付け、その上にアルミホイルを被せて、射撃場で銃を乱射する。その熱によってこんがりと焼けたベーコンをフォークでつまんで口に入れる。「マシンガン・ベーコン!」と口にする。ただそれだけだ。
米国の問題は、むしろ、共和党主流派がクルーズのような人物を推さざるをえないところにある。
(3)なぜトランプ、サンダースが事前の予想を裏切って支持を集めたのか。
トランプに対する支持基盤は、知識人、イスラム教徒、黒人、アジア系以外のあいだでは意外と厚い。「本来の米国人の権利を取り戻す」というトランプの基本戦略は、グローバル化や情報化の恩恵にあずかれず、競争のしわ寄せだけを受けた人びとの心に強く訴えかける力を持っている。彼らが「トランプはオレたちの代表だ」と支持し、求心力が生まれている。
サンダースの典型的な支持層は、20~30代の若年層だ。「強い米国」を知らず、レーガノミクスによる格差拡大と、リーマン・ショックの不況のあおりをもrに受けた世代だ。職に就けず、就いたとしても不安定で賃金が低い。親世代より生活水準が低くなる、いわば「右肩下がり」の世代ともいうべき彼らは、働けど楽にならざる暮らしに苛立ち、既存の政治家を信用していない。
(4)左右の両極端にある彼らへの支持は、経済格差の拡大、社会的流動性の低下、庶民の生活レベルの低下という、共通の土壌から生まれたものだ。上位1%の所得シェアは、1980年では10%だったのが、2008年には21%に増加した。これは米国の大恐慌の前の1920年代と同レベルだ。さらにエリート層が世襲化している。
米国では、結局はエリート層が富のほとんどを独占してくというしくみは、教育にもあられている。東京大学をトップで卒業し、財務省に勤めた後に弁護士になり、現在ハーバード大学に留学中の山口真由氏によれば、授業料が10ヵ月で7万ドル(800万円)、(800万円)かかる。ロースクール卒業まで6年かかるとすれば、授業料だけで4,800万円かかることになる。
これでは超富裕層の子どもしか入ることができない。普通の家庭の子どもにしてみれば、例外的な幸福に恵まれ奨学金が得られるのでなければ、とうてい支払うことのできない額だ。米国大学への留学サイト(「アメリカ留学の大学選び」栄陽子留学研究所)などでも紹介されるように、ハーバード大学と同じような授業料を設定している一流大学は珍しくない。格差を逆転する希望を抱くことすら難しいのが現実だ。
(5)米国の経済は決して悪いわけではない。少なくとも横ばいといえる。しかし、階級は固定化し、「格差」という言葉ではもはやカバーできない、「Povertry」すなわち絶対貧困というべき状況が米国を覆っている。これは日本のそう遠くない近未来の姿でもある。
□河上肇/佐藤優・訳解説『貧乏物語 現代語訳』(講談社現代新書、2016)の「はじめに 『貧乏物語』と現代」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】「パナマ文書」は何を語るか ~資本主義は格差を生む~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」
女性、ラテン系、イスラム教徒、外国人などのマイノリティを標的としたヘイトスピーチを売りものにするトランプ。「共和党をぶっこわす」ということで支持を得ている点、小泉純一郎・元首相と重なるものがある。
最低賃金15ドルや公立大学の無償化など、大胆な所得再分配政策を主張するサンダース。日本では社会主義者、社会民主主義者などと言われることもあるが、彼は1980年代に第四インターナショナル加盟政党の社会主義労働者党の活動に参加している。米国の社会主義労働者党はトロッキスト、つまり共産党より左の思想を持つ政党だ。どちらも、従来であれば泡沫候補として片付けられていたタイプだ。
(2)共和党主流派が推していたテッド・クルーズ(5月3日に撤退を表明)も、政策など何もない、トランプ以上のポピュリストだ。
彼が選挙用に作成したプロモーション動画に「マシンガンのベーコン」と題するものがある。テキサス州のスーパーマーケットでベーコンを購入する。「テキサスでは焼き方がちょっと違うよ」などといって、ベーコンをマシンガンに巻き付け、その上にアルミホイルを被せて、射撃場で銃を乱射する。その熱によってこんがりと焼けたベーコンをフォークでつまんで口に入れる。「マシンガン・ベーコン!」と口にする。ただそれだけだ。
米国の問題は、むしろ、共和党主流派がクルーズのような人物を推さざるをえないところにある。
(3)なぜトランプ、サンダースが事前の予想を裏切って支持を集めたのか。
トランプに対する支持基盤は、知識人、イスラム教徒、黒人、アジア系以外のあいだでは意外と厚い。「本来の米国人の権利を取り戻す」というトランプの基本戦略は、グローバル化や情報化の恩恵にあずかれず、競争のしわ寄せだけを受けた人びとの心に強く訴えかける力を持っている。彼らが「トランプはオレたちの代表だ」と支持し、求心力が生まれている。
サンダースの典型的な支持層は、20~30代の若年層だ。「強い米国」を知らず、レーガノミクスによる格差拡大と、リーマン・ショックの不況のあおりをもrに受けた世代だ。職に就けず、就いたとしても不安定で賃金が低い。親世代より生活水準が低くなる、いわば「右肩下がり」の世代ともいうべき彼らは、働けど楽にならざる暮らしに苛立ち、既存の政治家を信用していない。
(4)左右の両極端にある彼らへの支持は、経済格差の拡大、社会的流動性の低下、庶民の生活レベルの低下という、共通の土壌から生まれたものだ。上位1%の所得シェアは、1980年では10%だったのが、2008年には21%に増加した。これは米国の大恐慌の前の1920年代と同レベルだ。さらにエリート層が世襲化している。
米国では、結局はエリート層が富のほとんどを独占してくというしくみは、教育にもあられている。東京大学をトップで卒業し、財務省に勤めた後に弁護士になり、現在ハーバード大学に留学中の山口真由氏によれば、授業料が10ヵ月で7万ドル(800万円)、(800万円)かかる。ロースクール卒業まで6年かかるとすれば、授業料だけで4,800万円かかることになる。
これでは超富裕層の子どもしか入ることができない。普通の家庭の子どもにしてみれば、例外的な幸福に恵まれ奨学金が得られるのでなければ、とうてい支払うことのできない額だ。米国大学への留学サイト(「アメリカ留学の大学選び」栄陽子留学研究所)などでも紹介されるように、ハーバード大学と同じような授業料を設定している一流大学は珍しくない。格差を逆転する希望を抱くことすら難しいのが現実だ。
(5)米国の経済は決して悪いわけではない。少なくとも横ばいといえる。しかし、階級は固定化し、「格差」という言葉ではもはやカバーできない、「Povertry」すなわち絶対貧困というべき状況が米国を覆っている。これは日本のそう遠くない近未来の姿でもある。
□河上肇/佐藤優・訳解説『貧乏物語 現代語訳』(講談社現代新書、2016)の「はじめに 『貧乏物語』と現代」
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【参考】
「【佐藤優】「パナマ文書」は何を語るか ~資本主義は格差を生む~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」