過去をふりかえり、未来へ

思い出せるだけのことを思い出し、書き綴る場所

『街のあかり』

2007-08-28 23:34:12 | Weblog
本日、観てきました。
監督:アキ・カウリスマキ
主演:ヤンネ・フーティアイネン(コイスティネン役)
フィンランド、ヘルシンキを舞台に、“孤独”をテーマとした
作品です。
他の作品は観たことがありませんが、『浮き雲』『過去のない男』
につづく、カウリスマキ監督による“敗者三部作”の最終章であるとの
ことです。

主人公コイスティネンは警備会社に勤める中年前の男性。
職場でもプライベートでも友人・恋人なし。
映画では描かれていませんが、おそらく家族とも音信不通の
天涯孤独を絵に描いたような存在です

そんな彼でしたが、突然降って湧いたように目の前に現れた
金髪の美人ミルヤに心を許していきます。
しかしミルヤの正体は、コイスティネンが警備員であることを知り、彼を
利用して強盗を企むマフィアが派遣した女性でした。
ですがコイスティネンは、次第にその胡散臭さをどこかで悟りつつも、
彼女の存在を警察には隠し続けたまま罠に陥り、ついには強盗幇助の罪で
刑務所行きとなってしまいます。

実はコイスティネンには影ながら彼を見守り続けていた女性アイラがおり、
結果的には彼女の存在が彼を救いますが、そういったアイラの
存在に目をくれぬまま、ミルヤに我を失い溺れるコイスティネンの
様子が映画を通じで目に付きました。
着慣れない服を着飾り、普段見ない映画館に行ったり、部屋を
こぎれいにして食事を準備したりと、その一部始終がどこか滑稽に思えつつも
同情したくなる哀愁を誘います。
しかも、そこまで入れ込む女性に、陰で「負け犬」呼ばわりされて
いたのだからなおさらです。

全体的に鬱々としたヘルシンキの風景が、主人公の心中を表現していた
ようで印象的でした。


写真は2004年に行った時のヘルシンキ中央駅、この日はなんとか晴れて
いましたが、翌日はずっと雨でした。



『陸に上った軍艦』

2007-08-28 22:01:39 | Weblog
本日、観てきました。
監督・原作・脚本:新藤兼人
キャスト:新藤兼人(証言)、蟹江一平(戦中の新藤役)
今年95歳になる新藤氏が、自らの戦時体験をふりかえった
ドキュメンタリードラマです。

1944年春、映画界にいた当時32歳の新藤氏は、召集令状を受けて
広島の呉海兵団に二等水兵として、同年6月には宝塚海軍航空隊に配属され
そこで1945年8月の終戦を迎えます。
映画ではそのなかで1年2ヶ月にわたる宝塚での下級兵から見た
理不尽な軍隊生活を、現代の新藤氏の証言と、当時の様子を表現した
ドラマとを交える形で描写しています。

メインに描かれているのは、10歳以上も若い上官による様々な
苛めとも思えるようなシゴキや暴力の数々。
「甲板掃除」(ひらすら移動しながら床磨き、主人公は途中で嘔吐)
「直心棒」(上官から尻を棒で叩かれながら、5カ条の軍人訓を述べ続ける)
「飛行訓練」(2人1組で四つんばいになり、上司の号令でひたすら
       片手片足のポーズをさせられる)
などなど独特な語句を用いた訓練・制裁が続きます。
そのなかでも特に心に残ったのが「直心棒」にまつわるエピソードで
新藤氏は当時を振り返り「殴られても避けられない理不尽がまかり通る
世界から、自暴自棄になっていき、そのうち殴られても命令に従う
ようになる。」というようなことを述べ、そういった非人間的な
扱いを許容してしまう戦争という状況に対して憤りを表現して
いたのが印象的でした。

映画ではそれだけではなく、本土決戦に備え食料用に鯉を養殖しようとする話、
その鯉の餌にするため1000匹の蠅を集めたものに1泊の外出を許す話、
子供だましとしか思えない本土迎撃作戦の数々と、その訓練をさせられる日々
など、笑ってはいけないかもしれないけれど笑いたくなるようなシーンも
ちりばめられており、それが軍隊という組織や戦時下という状況が
いかに浮世離れしているのか、を効果的に表現していました。

戦争映画とはいえ、空襲シーン以外には戦闘は出てきません。
しかし、戦場に出なかった兵士にも、一人一人にこういったエピソードが
あるのだなあ、と考えさせられました。





『Life ~天国で君に逢えたら~』

2007-08-25 23:50:00 | Weblog
本日、観てきました。

監督:新城毅彦
キャスト:大沢たかお(飯島夏樹役)、伊東美咲(飯島寛子役)

実在のプロウィンドサーファー、飯島夏樹氏(1966~2005)の後半生を
家族との絆を中心に描いた作品です。

氏は2002年、肝細胞ガンと診断されて以来、幾多におよぶ入退院と手術を
繰り返すも、2004年5月に余命3ヶ月と宣告されます。
その過程でうつ病やパニック障害を併発しつつも、伊東美咲演じる妻と
四人の子供たちをはじめとする周囲の人々の支えに励まされ、
「自分は生かされている」と悟り、ハワイに移住、余生を執筆活動に捧げます。

映画では、そんな辛い状況をむしろ前向きにとらえて生きていこうとする
登場人物たちの笑顔とふれあいが、砂浜をバックに展開されていく
様子が印象的でした。

画面の裏側には、ロマンスでは済まされないような現実が多々ある(あった)の
だろうと思いましたが、それを過度に邪推するのは野暮というものです。



『SICKO』

2007-08-25 23:20:00 | Weblog
本日、観てきました。
監督・製作・脚本:マイケル・ムーア
アメリカの医療保険問題を題材としたドキュメンタリー作品です。

今回ムーアが問題としたテーマは、
”アメリカには国民皆保険がない”ということ。
詳しく記してしまうとキリがありませんが、とにかくブッシュ現大統領を
中心とする政権と製薬会社・保険会社との癒着によって、人々は高額な
医療費に苦しみ、家や財産を失ったり、治療を受けられぬまま愛する
家族を失ったり、等々悲劇的な現実に見舞われている現実が
これでもかと描写されています。

それに対して、国民皆保険を達成している諸外国の制度がいかに
優れているのかを対比させ、ついには米政府からはとんでもない国と
されているキューバの例まで持ち出します。

この映画でのマイケル・ムーアは、テーマの取り上げ方からメッセージ性
表現・描写にいたるまで、コミカルで解りやすくも痛烈で
満足な治療を受けられない9・11テロの英雄たち(消防士)を
船に乗せて、最高の医療を無償で受けるアルカイダの容疑者達
が収監されている米軍基地に向かい、
「9・11の英雄に容疑者たちと同じ治療を受けさせてくれ」と訴える
シーンは、すべての矛盾を見事に指摘しているシーンで、印象的でした。

なお、この映画では医療問題に焦点が当てられましたが、
広い意味では、民間に国民の生命に関わることまで任せてしまった
「小さな政府」に対する批判が込められており、
そちらの方に向かおうとしている日本もどうなの?と
問いかけたくなる思いでした。






『怪談』

2007-08-20 23:50:00 | Weblog
この日、観てきました。
原作:三遊亭円朝「真景塁ヶ淵」
監督:中田秀夫
キャスト:尾上菊之助(新吉役)、黒木瞳(豊志賀役)、井上真央、
     麻生久美子、木村多江、津川雅彦、瀬戸朝香
新吉という若い煙草売りが、死してなお彼を追い続ける豊志賀という女性に
果てしなく追い詰められ、不幸へと陥っていく、という物語です。

とにかく、新吉演じる尾上菊之助の色男ぶりが目立ちました。
どこか頼りなさげながら、女性を惹きつけるツボを心得ているとしか
思えない彼の演技は、流石は梨園出身の役者さんだからなのか、と
思わされます。

そんな新吉を深く思慕するあまり、怨霊と化した豊志賀を見ていると、
前に行った怪談ツアーで講談師が言った「お化けよりも怖いのは人間」
というのは本当だと思いました。

『天然コケッコー』

2007-08-15 23:50:00 | Weblog
この日、観てきました。
原作:くらもちふさこ
監督:山下敦弘
キャスト:夏帆(右田そよ役)、岡田将生(大沢広海役)、夏川結衣、佐藤浩市
島根県の山ふもとの小さな町と、そこにある生徒7人の分校を
舞台とするお話です。
中学2年生のそよが、転校生の大沢と出会い、ともに中学を卒業していく
までの、何気ない日常に揺れ動きつつも、のどかに展開していくお話です。

傍目には大きな事件が起こるわけでもなく、悪人が登場して波乱を立てる
わけでもない、一見平坦なストーリーですが、等身大の(都会の喧騒や誘惑
とは無縁な)中学生が体験する出来事のひとつひとつは、それなりに刺激的で
それなりに胸を躍らせ沈ませたりすることであることなのだと感じました。

ただ、いい作品ではありましたが、年代が中学生を中心としたお話なので、
なかなかその身になって共感しずらいところは正直ありました。



『オーシャンズ13』

2007-08-15 23:20:00 | Weblog
この日に、観てきました。
監督:スティーブン・ソダーバーグ
キャスト:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン
     アンディ・ガルシア、ドン・チードル、アル・パチーノ
     エレン・バーキン

シリーズ3作目ですが、前2作はビデオ鑑賞でしたので、
映画館で観るのは初めてでした。
よくもまあこんな豪華キャストを、というのは相変わらずですが、
ストーリー自体は11のように犯罪を計画⇒トラブルに遭遇しながらも
見事に成功、といった王道の展開で素直に楽しめました。

キャラクター同士のウィットに富んだ会話のやりとりがあったり、
不意に日本酒の久保田が出てきたりと、各所に小ネタが
効いていましたが、英語を母国語にしていたら、こんな部分も
もっと楽しめたのに・・・と少し残念。

『トランスフォーマー』

2007-08-04 23:50:00 | Weblog
この日、観てきました。
製作:スティーブン・スピルバーグ
製作・監督:マイケル・ベイ
キャスト:シャイア・ラブーフ(サム役)
     ミーガン・フォックス(ミカエラ役)
宇宙からやってきた未知の金属生命体同士の対決を描いた作品です。

ストーリ展開はさておき、見所は車、ヘリから携帯電話、CDラジカセに至る
まで多彩な金属生命体の変形の仕様と、それぞれが戦闘を行うシーンの数々。
アニメや特撮の世界でしかなかったものを、ハリウッド実写で、しかも
かなりのレベルで再現してしまった本作に対して、”賞賛に値するおバカ”
という賛辞を送りたいと思います。

続編、作ろうと思えば可能な展開で終了しましたが、どうなるものやら。

『夕凪の街 桜の国』

2007-08-02 23:50:00 | Weblog
この日、観てきました。
原作:こうの史代
監督:佐々部清
キャスト:田中麗奈(石川七波役)、麻生久美子(平野皆実役)
     堺正章(石川旭役)、伊崎充則(平野旭→石川旭役)
     藤村志保、金井勇太 吉沢悠、中越典子
こうの史代著作(2004年)の同題漫画の映画版で、
原爆から10年後の広島を描いた『夕凪の街』と、現代の西東京市・広島市を
舞台とした『桜の国』の2部構成となっています。

それぞれ原爆後をテーマにしているところが特徴的です。

『夕凪の国』では原爆で一緒にいた妹を失った平野皆実が、
母や周囲の人々とつつましく生活し、打越さん(吉沢悠)という
お互いに意識し合う相手を得つつも、「私だけ幸せになっていいの
だろうか」という罪の意識に苛まれます。

一方『桜の国』では、最近挙動が不審な父、石川旭(皆実の弟)を
友人(中越典子)と尾行した七波が、そのまま広島に向かう羽目となり、
自らのルーツを知りつつ、原爆症で亡くなった伯母、母などに
想いを馳せてゆきます。

戦争中の描写は極力抑えられており、全体的に淡々としていましたが、
そんな中で、現在も続く原爆症のおそろしさと、それが生む不幸、
そういった背景を背負いつつもしっかりと毎日を生きていく人々の姿が
描かれた、心にしんみりとくる作品でした。

なお、麻生久美子が前半の主役、田中麗奈が後半の主役を演じていましたが
それぞれ時代とよくマッチしていたのが印象的でした。