WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

リッチー・バイラークのロマンチック・ラプソディー

2006年08月02日 | 今日の一枚(Q-R)

●今日の一枚 22●

Richie Beirach Trio   

Romantic Rhapsody

Scan10008_5  2000年録音のリッチー・バイラークによるVenusレーベル第二弾である。タイトル通り全編ロマンチックなスローナンバーの構成でバラード好きにはお薦めかもしれない。しかし、演奏はバラードの甘さに流されることなく、硬質な美しいリリシズムをたたえている。それは、リッチー・バイラークの洗練されたシャープなタッチや斬新な和音の使い方によるところが大きいのであろう。録音も良い。好き嫌いはあるだろうが、Venusレーベルらしい、楽器にマイクを接近させて録音したドンシャリ感のあるサウンドであり、このアルバムにはあっているように思う。

 ところで、私はリッチー・バイラークの演奏に否定的な意見を述べるつもりは毛頭ないが、このアルバムを聴いていて私の耳が集中しているのは、実はリッチー・バイラークのピアノではなく、ジョージ・ムラーツのベースである。ジョージ・ムラーツは私のフェイバリット・ベーシストのひとりだ。彼のベースは決してでしゃばることはないが、時にスウィングし、時に叙情性をたたえながら確かな存在感を持っている。そしてそこには、いつでも深い音の響きがあるのだ。このアルバムでも彼の沈んでいくようなベースの深い響きを存分に堪能できる。全曲がロマンチックでなかなかのできだが、私は① Flamenco sketches と③ Blue In Green 、④ Old Folks が好きだ。ピアノとベースが(ドラムも)うまく絡み合い、ジョージ・ムラーツのベースの長所がよく発揮されているような気がする。 

 ジョージ・ムラーツは私にとって不思議なベーシストだ。ジャズを聴きはじめの頃、もちろん彼の名前すら知らなかったが、自分が好きになったアルバムには、必ずといって良いほど George Mraz (b) と記されていたのだ。そのことに気づいたときは、驚きだった。もしかしたら、私は無意識にベースを聴いていたのかもしれないとすら思ったものだ。

 ジョージ・ムラーツは、いそがしいベーシストである。多くの作品にかりだされている。その結果当然のことながら、参加作品は相当な数にのぼっている。私自身、彼の参加作品を一体何枚所有しているのか、想像すらつかない。ジョージ・ムラーツは売れっ子べーシストなのである。こうしている間にも彼はどこかでベースを弾いているに違いない。