わたしは6にしてから、しばらくは黒ゴマプリンぽく見えるグレーのラメ入りクリアケースを使っていた。
だけどあまりの薄さに恐れおののき、早々に手帳タイプのものを購入したのだった。
それがこれ。
もう、完全に見た目。
スタイラスも付いてるし、可愛いし。
なにより頑丈。これならうっかり薄べったいiPhone6をへし折ることはなかろうと思われた。
しかしその嬉しい気分は、開封したとたんに吹っ飛んだ。
なにこれ。この、ビニール臭。
話が違うぞ!!
とは思ったものの、そのニオイは、安い合皮のバッグや、雑誌の景品の小物類などによくまとわりついてるあのニオイで、そんなに珍しいものでもない。
不快と感じる人間もいれば、まったく気にならない人間もいる、その程度のニオイである。
お線香だってそうだ。
わたしは吐き気がするほど嫌いな臭いだが(だからお清めの席で寿司が出ると付き合い程度にしか箸を付けられないこともある!この意地汚いわたしがだ!!)まったく気にならない人間も多い。ていうか気にしてる人間の方が少ないような。
たぶんこのビニール臭も、そういう、わたしだけが忌み嫌い、呪い、絶滅を望むニオイなんだろう。わたしは返品をすることを諦め、なるべくニオイが拡散されるよう、そして、なるべく自分の鼻から遠ざけて使用するよう注意した。
そんな生活も、お財布を新調した時点で終止符を打たれた。
黒ゴマプリンクリアケースを復帰させ、ふるいお財布をiPhoneポーチにしたのである。
使い勝手はあまり良くないが、臭うよりは断然いいに決まってる。
それでもしばらく経ってからようやく、わたしは臭うケースをゴミ箱に突っ込み(買ってからずいぶん経つのにいまだに臭った)新しい手帳タイプのケースを買うことを決めた。
もう、合皮はダメだ。また失敗したら金をドブに捨てるようなものだ。本革でいくぞ!!
と、意気込んでヨドバシに来たは良いけれども、本革のケースというのは、思いのほか少ないのだった。
艶が好みなら薄すぎる、厚みが好みなら質感がどうも、両方よくてもデザインが。
と、あれこれ手にしては売り場に戻し、を繰り返してたら、ナチュラルで落ち着いた雰囲気の品物を発券。ラックから外すと、外箱のひっかけ部分も皮で出来ている。
ずいぶん凝ってるな、と、見本を探すが、見本どころか、その商品はわたしが手にした一つっきりで、他にない。
🐌(ははあ、買おうとしてやめたやつが、ここいらにテキトーに引っ掛けてったんだなあ)
わたしはなんとしても、見本を見たかった。そして、ニオイを確かめたかった。たまたまそばに来た店員ぽいのを捕まえて質問する。
🐌「あの、すみません、これの見本をみたいのですが」
「あ、すみません、わたしはヨドバシの人間ではなく、外部のものなのです。申し訳ありませんが、ヨドバシのものにおたずねになったほうが、早くなんとかなると思います」
🐌「あ、そうですか。すみません」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
店員ぽいのが去ったあと、まわりを見渡すが、警備員ばかりで店員ぽいのはいない。店員ぽいのは、みんなレジに張り付いていて、そしてレジには行列ができている。
しかたなくうろうろしていると、あまり店員ぽくはないが、「商品補充要員」とかなんとか書かれた名札をしているベテランぽいのを見つけた。商品の入れ替えの作業が一段落するのを見計らい、声をかける。
🐌「あのー、これの見本が見たいんですけれど!!」
「あ、はーい、お待たせしました~…あれ、これはどちらから…」
🐌「それが、これだけ、関係ないところにぶら下がってたんですー」
「…ああ~~、買おうとしたけどやめちゃったってやつですね~…ちょっと待ってくださいね~」
ベテランさんは、ひょいひょいと、いくつかの通路に首を突っ込んでは睨み、突っ込んでは睨みをくりかえすと、商品陳列棚のはじっこにある道具置き場までずいずいと進んでいった。
「もう、ないみたいなので、これ、開けちゃいますね」
🐌「ありがとうございます」
ベテランさんは、丁寧にカッターで封を切り、外箱を傷付けないよう、商品をそっと引っ張り出した。
「どうぞ」
わたしは蓋の開け閉めをたしかめ、肌ざわりと重さをたしかめ、ストラップホールの位置と開閉のバランスをたしかめ…ニオイを、たしかめた。ふつうの皮革製品の、野生的な匂いがした。
いい匂いだ。
🐌「これにします」
「ありがとうございます」
ほんわりとレジに持って行くと、レジ係がピッとバーコードを読ませた。
「七千円になります」
🐌「……あ。はい」
わたしの財布のなかには、ちょうどそのくらいの額が入っていた。というか、びっくりしすぎて、七千円から下の単位が、まったく聞き取れなかった。
え?なに?
そんなに高いの??
五千円前後くらいのつもりでいたんだけど??
と、心のなかで叫んでいるのだが、なにしろモノが欲しいので、いりませんという言葉がでてこない。思わず七千いくらかをお支払いしてしまう。
「ポイントはどうされますか」
🐌「お付けしてください」
「はい、お付けで……」
動揺しすぎて自分に自分で敬語を使う始末である。
ぼんやりしたまま帰宅し、箱を開ける。皮のいい匂い。ケースを付け替えると、もう、なんとも言えない安堵感。
買ったのはこれです。
合皮使ってる部分もあるけど、あの刺激臭はしない。
本当に勢いで買ってしまったので、まだ動揺してますが、使い心地は非常に快適です。
もう合皮の製品は買わないぞ…!!!
だけどあまりの薄さに恐れおののき、早々に手帳タイプのものを購入したのだった。
それがこれ。
もう、完全に見た目。
スタイラスも付いてるし、可愛いし。
なにより頑丈。これならうっかり薄べったいiPhone6をへし折ることはなかろうと思われた。
しかしその嬉しい気分は、開封したとたんに吹っ飛んだ。
なにこれ。この、ビニール臭。
話が違うぞ!!
とは思ったものの、そのニオイは、安い合皮のバッグや、雑誌の景品の小物類などによくまとわりついてるあのニオイで、そんなに珍しいものでもない。
不快と感じる人間もいれば、まったく気にならない人間もいる、その程度のニオイである。
お線香だってそうだ。
わたしは吐き気がするほど嫌いな臭いだが(だからお清めの席で寿司が出ると付き合い程度にしか箸を付けられないこともある!この意地汚いわたしがだ!!)まったく気にならない人間も多い。ていうか気にしてる人間の方が少ないような。
たぶんこのビニール臭も、そういう、わたしだけが忌み嫌い、呪い、絶滅を望むニオイなんだろう。わたしは返品をすることを諦め、なるべくニオイが拡散されるよう、そして、なるべく自分の鼻から遠ざけて使用するよう注意した。
そんな生活も、お財布を新調した時点で終止符を打たれた。
黒ゴマプリンクリアケースを復帰させ、ふるいお財布をiPhoneポーチにしたのである。
使い勝手はあまり良くないが、臭うよりは断然いいに決まってる。
それでもしばらく経ってからようやく、わたしは臭うケースをゴミ箱に突っ込み(買ってからずいぶん経つのにいまだに臭った)新しい手帳タイプのケースを買うことを決めた。
もう、合皮はダメだ。また失敗したら金をドブに捨てるようなものだ。本革でいくぞ!!
と、意気込んでヨドバシに来たは良いけれども、本革のケースというのは、思いのほか少ないのだった。
艶が好みなら薄すぎる、厚みが好みなら質感がどうも、両方よくてもデザインが。
と、あれこれ手にしては売り場に戻し、を繰り返してたら、ナチュラルで落ち着いた雰囲気の品物を発券。ラックから外すと、外箱のひっかけ部分も皮で出来ている。
ずいぶん凝ってるな、と、見本を探すが、見本どころか、その商品はわたしが手にした一つっきりで、他にない。
🐌(ははあ、買おうとしてやめたやつが、ここいらにテキトーに引っ掛けてったんだなあ)
わたしはなんとしても、見本を見たかった。そして、ニオイを確かめたかった。たまたまそばに来た店員ぽいのを捕まえて質問する。
🐌「あの、すみません、これの見本をみたいのですが」
「あ、すみません、わたしはヨドバシの人間ではなく、外部のものなのです。申し訳ありませんが、ヨドバシのものにおたずねになったほうが、早くなんとかなると思います」
🐌「あ、そうですか。すみません」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
店員ぽいのが去ったあと、まわりを見渡すが、警備員ばかりで店員ぽいのはいない。店員ぽいのは、みんなレジに張り付いていて、そしてレジには行列ができている。
しかたなくうろうろしていると、あまり店員ぽくはないが、「商品補充要員」とかなんとか書かれた名札をしているベテランぽいのを見つけた。商品の入れ替えの作業が一段落するのを見計らい、声をかける。
🐌「あのー、これの見本が見たいんですけれど!!」
「あ、はーい、お待たせしました~…あれ、これはどちらから…」
🐌「それが、これだけ、関係ないところにぶら下がってたんですー」
「…ああ~~、買おうとしたけどやめちゃったってやつですね~…ちょっと待ってくださいね~」
ベテランさんは、ひょいひょいと、いくつかの通路に首を突っ込んでは睨み、突っ込んでは睨みをくりかえすと、商品陳列棚のはじっこにある道具置き場までずいずいと進んでいった。
「もう、ないみたいなので、これ、開けちゃいますね」
🐌「ありがとうございます」
ベテランさんは、丁寧にカッターで封を切り、外箱を傷付けないよう、商品をそっと引っ張り出した。
「どうぞ」
わたしは蓋の開け閉めをたしかめ、肌ざわりと重さをたしかめ、ストラップホールの位置と開閉のバランスをたしかめ…ニオイを、たしかめた。ふつうの皮革製品の、野生的な匂いがした。
いい匂いだ。
🐌「これにします」
「ありがとうございます」
ほんわりとレジに持って行くと、レジ係がピッとバーコードを読ませた。
「七千円になります」
🐌「……あ。はい」
わたしの財布のなかには、ちょうどそのくらいの額が入っていた。というか、びっくりしすぎて、七千円から下の単位が、まったく聞き取れなかった。
え?なに?
そんなに高いの??
五千円前後くらいのつもりでいたんだけど??
と、心のなかで叫んでいるのだが、なにしろモノが欲しいので、いりませんという言葉がでてこない。思わず七千いくらかをお支払いしてしまう。
「ポイントはどうされますか」
🐌「お付けしてください」
「はい、お付けで……」
動揺しすぎて自分に自分で敬語を使う始末である。
ぼんやりしたまま帰宅し、箱を開ける。皮のいい匂い。ケースを付け替えると、もう、なんとも言えない安堵感。
買ったのはこれです。
合皮使ってる部分もあるけど、あの刺激臭はしない。
本当に勢いで買ってしまったので、まだ動揺してますが、使い心地は非常に快適です。
もう合皮の製品は買わないぞ…!!!