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(小説)美月リバーシブル ~その9~

2012-11-02 18:17:30 | 美月リバーシブル (小説)
「何か、重そうだな。立ち話もなんだ。今からうちに来るか?公園で話すのも寒いし、うちは夜まで誰も帰らない」
それから、糸居の家に行く。近くにある岸や本島の家に行く事はあったが、糸居のうちに行くのは初めてだった。彼のうちは電車で二駅先の家で自転車で向かうと彼の方が少し早かったようだ。それから歩いて10分ほどのところに10階建てのマンションであった。エレベータで7階に上がり鍵を開けて入ると誰もいなかった。
「母親はパートに出ている」
「そうなんだ」
「だからって、おかしな展開にするなよ」
「は!?」
「冗談だよ。フッ」
珍しく冗談を言うと彼は冷蔵庫の牛乳をガブッと飲み、部屋に入った。部屋は片付けられていてスッキリしていた。フィギュアやポスターなどのオタクのグッズも見当たらなかったが本棚はびっしりとアニメショップのブックカバーで覆われた本で埋まっていた。別の本棚は中古のものらしくカバーはつけていないアニメの本が多かった。
「何か飲むか?」
「いや、良いよ」
糸居はベッドに座り、そこに座れといわれて、光輝は机の椅子に座った。重苦しい空気を破ったのは糸居だった。
「で、比留間は二重人格だったっけか?」
「うん」
まず、美月の二重人格の話から始まり、彼女の家に行っていた事、そして日中の美月に近づくなと言われたこと、そして、彼女に諦めた事を全部話した。彼も茶化す事などせず、黙って聞いていた。
「なるほど。これでスッとした。どうも分からない事ばかりだと精神衛生上良くないからな」
糸居は頷きながら、普段見せない。穏やかな顔をしていた。
「だから、今まで通りの俺に戻るって訳だね。ちょっと見知らぬ土地に旅をしていて迷っていたって感じかな?挙動不審でキョロキョロしていてさ。だから帰ってきて良かったよ。良く言うじゃない。楽しい旅をして来て帰ってきてもやっぱり家が一番落ち着くってさ」
光輝は自嘲気味に言う。それだけで吹っ切れたのだなと自覚があった。
「お前は、それでいいのか」
光輝の空空しい声に目を鋭くさせて糸居が光輝に迫った。
「まぁね。と言うより、それが一番でしょ。元々、俺には縁のない話だったんだよ。だからちょっとした思い出が出来て良かったなって。俺みたいなキモオタはさ」
「お前そうやって何もせず抗う事をしないで勝手に自己完結して後で悔やむんだよな。それが一番無難だってさ。別に俺には何の実害も無いからどうでもいい話だがな」
簡単に、見透かされたようでイラッと来た。
「き、君に、何が分かるんだよ」
始めて自然と本音が出た。茶化されて怒る事はしばしばあったが、それは仲間内の冗談の範囲であったが、今回のは本心から出た言葉だった。
「そりゃ、分からねぇよ。俺とお前は他人だし、今、話を聞いたばかりだしな。だが、俺も似たようなもんか」
そのように言って糸居は一瞬の逡巡を見せてから、意を決したようで口を開いた。
「お前ばかりに言わせて、俺は何も言わないってのもズルイ話だからな。別に弱みを握りたかったわけでもねぇし。これから俺の昔の事を言う事にするか。お前も、この事は誰にも言うなよ」
「別に俺も聞かれる訳ないだろうけど、言うなといわれれば・・・」
「11年前の話だな。近所の幼なじみの女の子がいてな。俺が6歳、その子が5歳」
糸居は時折、目を瞑り、昔の事を1つ1つ思い出すように話し始めた。彼は、物心付く前から彼女とよく遊んでいたという。とても仲が良くて結構マセている所があって手をつないだり遊んだりするのは当たり前で他にはキスをしたりとか結婚の約束もした事があったりしたという。それについては幼い子供の頃の無考えな発言だとして笑ったが、問題はその後のことだった。彼女は容姿に自信が無いようで気にしていたようだ。特に同じぐらいの年の子にからからかわれていたと言う話だ。それで糸居がブサイクなら問題もなかったろうが糸居は当時から目もパッチリしていて痩せ型のカッコ良かったという。周囲の女の子はその子に嫉妬して陰口をよく言っていたらしい。彼女はその事を口にしなかったがある日、幼稚園のグラウンドで女子数人に言われて小さくなっている彼女を見つけて、糸居はその女の子達が遊んでいるところで物を壊すなど暴れまわり、こっぴどく叱られた。彼女の方も自分が原因だと思って自分を責めて、暫く、彼女が避けていたという。それから疎遠になっていったがある日の事であった。公園で遊んでいるとその子もたまたま近くにいて、特に話すこともしなかったが、別の友達が野球をやっていると彼女にボールがぶつかりそうになった。だから、彼女を庇おうと突き飛ばした。それが悪かった。そこへ、バイクが走ってきて彼女は轢かれたのだ。幸い、一命は取り留めたが入院していた。彼はどうしたらいいか分からず、途方に暮れてしまったという。
「庇って当たったボールの痛みが尾を引いたな。何故か。タンコブが出来たけどさ。すぐに謝りたかったんだが、ちょっと疎遠になっていた事もあって退院して暫くしてからにしようと思ったら、彼女と家族は引っ越した。俺に何も言わずにな。会いたくなかったんだろうな。引越し先なんかも言わなかったしな。それに関しては自分の所為だから受け入れられたがその後がきつかった」
彼女が引っ越したという事で邪魔者が消えたという事で他の女子達が彼に迫って来たのだという。皆、糸井が暴れた時にいたグループだったという。その時の女子に彼女が陰では突き飛ばして轢かれた事に関して思いの限りで悪口を言っていたと彼に言ったのだ。
「私が轢かれたのはアイツの所為だって。本当は遊びたくなかったけど、あいつが強引にくっついてくるから仕方なく遊んでいたって。本人が引っ越して確かめようが無くなったからって言いたい放題だった。聞いた直後は死ぬほど落胆したがその後で、考えてみてアイツらが俺に近付きたいが為に、でっち上げた嘘だろうと結論に至った。真偽は定かではないがアイツがそんな事を言う訳がないし、言ったにしても言わされたんだろう。そう思ったら人間、特に女が嫌になっちまってな。ずっと一人、部屋に篭っていたよ。そこへ俺の心を元気にしてくれたのがアニメだったなぁ。みんな男も女も関係なしにパァッと明るくて、辛い事も引きずらない、それで仲間、友達とか仲間っっていう人間関係も良好な良い奴ばかりでさ。それからどっぷりハマッて行ったな。今に至る・・・かな?」
聞き終えて、何も声をかけられない自分がいた。
「少なくとも、あの時、ちゃんと謝れていたら何か変わっていたかもしれねぇな」
「俺は、怒ってないと・・・思うけどな」
「怒っていないっていうより、もう忘れているだろうさ。もし、覚えていていたら何らかの連絡があってもいいはずだったのにな。電話番号は知っていたはずだし、今は当時の家から引っ越しちまったけど」
「書いていた電話番号を無くしちゃって」
「やめようぜ。そういう希望的妄想を広げるの。キリがねぇよ。そんな事よりお前だろうが。このままでいいのかよ。俺が言えるのはここまでだ。俺がお前にどうこう言える立場じゃないからな。結局、謝れなかった俺にはな」
「それは・・・」
答えを出す事は出来ないまま、時間も遅くなってきたので帰ることにした。糸居は駅まで着いてくるという。そういう割に話をかけてくるわけでもなく気まずい時間が続く。だから、質問を糸居にぶつけてみた。
「俺のことは置いておいて、君はもし、彼女が戻って来るような展開になったら、どうするの?」
「そりゃ、謝る。ただ心残りをサッサと消化しちまいてぇ」
「それからは?」
「その後の事は分かんねぇよ。アイツも10年も経ったから彼氏の一人もいるだろうと思うし。俺はキモオタに落ちぶれたし、それでガキの頃の約束を覚えていて結婚しよう!なんてアニメみたいな展開は重すぎる」
確かに時間を考えれば昔通りと言う訳にはいかないのだろう。人間関係が乏しい光輝には重い現実に思えた。話は終えて帰ることになった。
「お互い事情を話したからと言って明日から仲良くなるなんて事はないからな」
「うん」
冷たい言い回しだがお互いの距離感を量っているからだろう。下手に親しくすれば岸達がおかしく思うだろう。お互い広げたくない昔の記憶だ。暗黙の了解だろう。風を切って自転車をこぐが風がより冷たく感じた。
『くそぉ・・・余計な事を聞かなければ良かった』
心がぐらついていた。身を切られる思いで美月の事を忘れようとしていたのに、糸居の話を聞いて揺れ動いていた。
『方法なんてないんだよ。俺に出来る事なんて・・・もう諦める以外の選択肢はないんだ』
自分自身に言い聞かせて家路に着いた。その表情は疲れきっていた。まるでマラソン後だった。
「ただいま」
「どうしたの?」
「自転車が途中でパンクしちゃって。自転車屋を探していたらこんな時間になっただけ」
「そう。お疲れ様。そうだ。アンタ宛に手紙が届いているよ」
「手紙?」
「そ、女の子から」
そう言ってニヤリと笑みをこぼしながら母親は手渡してきた。送り主は『比留間 美月(夜)』と書かれていた。思わず手から離れ、床に落とすがすぐに拾いなおした。
「名前からして明らかに女の子よね。でも、珍しいよね。今時、メールじゃなくて手紙だなんて。でも、敢えて手紙をチョイスするなんて目の付け所がいいよね。メールだとすぐに相手に届いちゃって『返信が遅い!』ってなるけど、相手に届くまで何日もあるから『どんな返事が返ってくるんだろう』って考える時間があってさ」
スマホや携帯電話も無かった大昔の事を考えているのだろうと思う。
「でも、字が下手よね。高校生の字には・・・もしかして・・・」
字自体は下手ではなかったが字の大きさがバラバラでバランスが極めて悪かった。
「もしかして?」
「法は犯さないようにね」
「そんな事しているわけないでしょうが!」
そのまま自室に急いで入っていった。
手の中にあるのは美月からの封筒であったがかなりの厚みがあった。ちょっと振ってみると紙のほかに何か入っているようだった。
『このまま開けない方が身のためなんじゃないか?』
まず、机に置いて距離を取った。まるで凶暴な生き物を見るかのようにしていた。
『そうだ。小型の爆弾が入っているから開けたらバンだ!だから開けてはいけないんだ。そう思い込もう』
まず、食事を取って風呂に入った。湯船に浸かると疲れが流れ出ていくような気がした。すると今日の事が頭に浮かぶ。
「迂闊だったなぁ・・・ちゃんと周囲を見ていれば糸居に見られる事もなかったのに」
湯船にゆっくりと入っていると嫌な事を思い出しそうだから早々に上がり服を着た。
「やる事が・・・そうだ!勉強だ。試験前だから勉強をしよう。それで気を紛らわす!」
手紙を部屋のテーブルに置き、机に向かう。教科書、ノートなどを開いたが物の5分もたたないうちに手紙が気になってしまった。
「こういう時に限って睡魔が襲ってこない」
思い通りにならないと歯噛みしながら手紙を手に取った。
「ままよ!後は野となれ山となれ!」
封を開ける事にした。すると、青い人形のようなものが見えその奥に紙が入っていた。まず紙を読んで見た。
『突然のお手紙ごめんなさい。倉石さんのお勉強の邪魔にならないようにするにはどうしたらいいのかって考えましたらお母さんが手紙を出すのが一番と言ったのでこうして出した次第です。勉強が忙しくて来られないというお話でしたから象のマスコットをお送りします。象には力と凄い記憶力があると言われているそうです。下手っぴでごめんなさい。いっぱい勉強してテストでいい点数を取ってくださいね。待ってますから。 比留間 美月(夜)』
両手を震わせながら手紙を持っていたが、左手は顔に添えた。
「俺なんかのために・・・嘘をついて終わりにしようとした俺なんかのために、ここまでして、そこまで信じる必要なんてないのに」
それから誰にも聞かれまいと声を殺し、ベッドに寝そべり体を震わせていた。

12月4日(土曜日)
「朝か」
喉の渇きを感じ、うがいをして顔を洗う。鏡を見ると目が真っ赤だった。ぐりぐりと目をこすり、まずは顔を洗う。水の冷たさに手が痛い。自分の部屋に戻り教科書を揃えていた。
「今日辺り、夜の比留間さんちに行って全てを終わらせるか・・・ご両親にも説明すると・・・それでおしまい。何もかもおしまい」
リュックに全てつめたかと思っていて最後に机の上に残っていたのは彼女が作ってくれた象のマスコットがあった。美月自身は下手と書いてあったがかなりの出来であった。
「彼女に返そう。うん」
それが彼の結論だった。潔く引く。それが彼女にとって最善だと思ったのだ。既に彼女の秘密を知っている男が3人もいるという話だ。これからも増えていく事だろう。ならば、その人達に託すべきだろうと。なよなよして自分の意思を持たず、その場で流されるような自分では彼女を不幸にするだけだろう。リビングに出ると昨日夕食を取らなかったので母親が心配そうな顔をしていたが出来るだけ気丈に答えた。
「昨日、言ったでしょ。頭が痛いからいらないって。今日は頭痛も治まって大丈夫だよ」
極力、何事もないかのように努めてご飯を食べて彼自身はバレてないと思うが母親は彼がおかしいと勘付いていただろう。
いつもより早めに学校に着いた。席に着いて暫くすると、岸達がやって来た。いつもより早いことに不思議がっていた。糸居は昨日の事など素知らぬ顔をしていつもの通り聞き役に徹していた。しかし、彼からのいつもと違う視線を少し感じた。
ホームルーム間際に美月がやってくる。何も変わらない光景だった。ホームルームが短くあって、それから授業が始まる。これで何もかも終わりなのだと思う。右斜め前に美月の姿を見る。彼は未練がましく意識してしまうに違いない。次の学年になったらクラス替えなのだから3学期に入ってからの約3ヶ月間我慢すれば良いだけの事だ。ちょっと見ていたら美月は小さな紙を書いて後ろの席の女子に後ろ手に渡していたのを見た。もらった女子は別の紙に書いて美月の背中を突いて紙を渡した。ちょっとクスッと笑ったようだ。肩が震えたのが見えた。
『いいよな。朝の方は、気楽でさ』
見た光景に少し呆れた。夜になってから夜の美月に全てを打ち明けて身を引くつもりでいたが、夜の美月は傷つくだろう。泣くかも知れない。自分のために泣いてくれるのなら嬉しいが悲痛な気持ちにさせるのは間違いない。一方、日中の美月の方は何も気にせず今みたいに友達と仲良く楽しくやるという毎日を続けていくだけだろう。そのように思うと何故、自分と夜の美月だけが辛くならなければならないのか。夜の美月に非はない。それを想えば想うほど心の内側がメラメラと熱くなるのを感じた。ただ、元はと言えば自分自身の不甲斐なさが原因で決めた事というのは完全に頭から抜け落ちていた。

授業が終わった。教室にいて、じっとしていてもイライラするだけだとトイレに向かった。用を足すとすっきりするなどとどこかで聞いた気がしたが、イライラは募る一方で何も変わらなかった。水道で手を洗って教室に戻ろうとすると美月が一人でこちらに向かってきた。彼女もこちらに気付いたようで先ほどの楽しそうな表情から一変し、冷たくこちらを見下すような顔をしていた。
「何、見てんの?こっちを見るのもやめてよ。ストーカー。昨日言った事も覚えてないの?」
あからさまに見下しながら、鼻で笑ったように見えた。
「用がないのなら私、行くから」
「あるのに・・・」
「ある?それって何よ」
小声で独り言を呟いただけのつもりであったがどうやら美月の耳に届いてしまったようだ。嘘とか冗談などと否定するのは容易いがそんな事をすればまた見下しの視線を受けることとなるだろう。美月自身は意外そうな顔をしていた。
「きょ、今日の放課後、1時ぐらいに前呼び出したところに」
「どうして?今、ここで言えないような内容なわけ?」
周囲を見回すと廊下である以上、他に生徒達がいた。
「そう」
「ふぅん。分かった。行く」
そう言って、彼女は教室に戻っていく。言った方である自分自身の方が驚いていた。
『おいおい。俺、何やってんだよ。夜の比留間さんは諦めるつもりだったってのに。何故、朝の方に約束してんだよ』
しかし、今更、取り消すわけにはいかないので会うしかないだろう。問題はあって何を言うかであった。授業が始まったものの、全然、頭に入らなかった。と、言っても普段から授業内容を正確に理解しているわけではいなかったのだが。

土曜日の授業が終わるのは午後12時30分ぐらい。それからすぐに待ち合わせ場所に行った。人から見えにくい場所という事もあってか学校でのカップルが弁当を持ち合って食べているのを目にした。
『全く、違う方向で動いているなぁ。俺自身何をやっているんだか・・・』
1時前になると彼の存在が鬱陶しかったのかそのカップルは昼食を終えるやそそくさとその場を立ち去った。彼にとっては好都合であった。
1時になっても彼女は現れなかった。チラチラと携帯で時間を見るがやはり時間は過ぎていた。ただ単に何か事情があって時間が遅れているのかと思う一方で
『もう決まりきった事だから俺とは会わないって意味かぁ?だが、会うとは言ったよな』
そのように考えていた。
『それとも巌流島の決闘のようにわざと時間を遅らせて相手の冷静を欠かせて有利にって何が有利なんだよ』
自分でツッコミを入れつつ時間が立つ。15分ぐらいが経っていた。一応、1時間ぐらいは待ってみようと思っていた。女は時間にルーズなどと勝手にイメージを彼は持っていたからだ。美月は木陰から不意に現れた。
「あ、来た。え?」
やっと来たかと思った直後、やられたと軽く舌打ちしたくなった。
「何なの?みっちゃん」
「ここで何か面白い事でもあるの?」
「あ」
美月の他に3人を連れて来たのだ。クラスの友達である沢鳥 雪乃と林野 恵里香。そして村川 小春の姿もあった。
「一人だけじゃないとダメって言わなかったから別にいいでしょ?それとも何か不都合でもある?」
『勢いのまま話があるなんて言ってしまってあっさり了承してくれたからちょっと上手く行くんじゃないかって期待していたら・・・やはりここでとどめかッ!』
美月の計略よりも己の見込みの甘さに腹立たしかった。
「何なのみっちゃん?倉石と何かあるの?」
「もしかして告白?でなければこんな所に呼び出さないよね」
沢鳥と林野は事情を全く知らないらしく、状況に興奮しているようだ。
「言っちゃえ。言っちゃえ。この際だからバッと男らしくさ」
小春はこちらの味方をしてくれているのかは分からない発言だった。自分の体裁も保たなければならないのだから彼女なりに難しい立場だろう。
「呼び出したんだから早く言ってよ。私たちだって暇じゃないの。ねぇ?」
「ビビッちゃったんじゃない?私らがいるからって予想外だったから」
美月の声に他の2人がいたずらっぽく笑いながら応じる。こうも女子に囲まれるなどという経験は彼にはなく、何を言っていいのか迷った。すると美月が先に口を開いた。
「みんながいるからって怖気づいたんでしょ。もういい。あんたに一つだけ言っておくね」
普段彼に見せない明るいテンションで言い始めたからまず悪い事だろうと直感した。
「2度と私達に近付かないで。それと、こっちも見ないで。いい?」
その『私達』という言葉に全てを遠ざけるものを感じた。
「そうだよね。見られるだけでも迷惑だもん。人が楽しくやっているのに見られていると思ったら鳥肌立つもの」
「何を考えているか分からないもんね。きっといかがわしい事なんだろうけどさ。あ~。やだやだ。何で人の事をそういう目でしか見られないのかな?」
「アニメのキャラだけ追っていれば無害なのにさ。たまに女子を見るとコレだもの」
「悲しい人種だよねぇ」
美月の脇の2人だけが盛り上がっていた。美月は光輝を見て、見下していた。
「アンタ、これからどうするの?黙っていたら何も分からないじゃないの」
小春は責めつつもどこか背中を押すような微妙な言い回しだった。光輝は唾を飲み込み、腹から搾り出すように声を出した。
「い、嫌だ」
「はぁ?ちょっと何、言ってんの?」



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