ナスダストラップ

日々の生活で、見たこと聞いたこと感じたこと考えたことをそこはかとなく書き綴るブログ

T内

2011年04月28日 | T内
今回の震災では原発事故に限らず「想定外」という言葉がよく使われ
それが批判の対象になることがあった。

まず言葉遊びのようだが、想定外のことに対応できないのは当然である。
想定していることだって対応できるとは限らないわけで、
想定していないことに対応できなくても不思議はない。
問題なのは想定が結果として甘かったということだ。


しかし、現実問題としてあらゆることを想定することは不可能である。


今回は巨大地震と大津波だったわけだが、
では、明日宇宙人が攻めてきて原発を攻撃することを想定するべきだろうか?
流石にそこまでしなくてもいいだろう。

しかし可能性がゼロかと言われればゼロとは言えないはずだ。
何故なら何にでも最初の一回目というのはあるからだ。

だから元々「絶対」は保証できないのである。

重要なのは想定すべきことと想定する必要のない事を分ける
皆が納得できるような評価方法を作ることだ。

有限なリソース(人・物・金・時間)であらゆるリスクに対応することは不可能であり、
我々にできるのは幅広くリスクを評価し効果的にリソースを分配することだけである。

典型的なリスク評価方法として発生確率と推定損害額の積で評価するという方法がある。
発生確率が低くても起こった時に大きな損害をもたらすならその対策は優先されるべきだろう。
だとすればある事象の潜在リスクは「単位時間での発生確率×推定損害額」で計算できる。
仮に原発事故の推定損害額が通常の事故の1000倍なら、
通常考慮する1000分の1の確率事象にまで対応するべきとなる。

課題は多いがこの手の問題は確率的には低いが起こると大きな影響を及ぼす現象
(地震・津波・洪水・パンデミック・テロなど)のリスク管理に共通する問題であり、
良い評価方法を作ることができれば人を説得する大きな武器になる。


今回の事故は原子力発電の信頼を著しく傷つけたが、
原子力発電は今までエネルギー供給という大切な役割を果たしてきた、
そしてこれからもしばらくの間は果たしていく、その功績は少しも軽んじられるべきではない。

しかし、原子力発電はエネルギーを大量に安定して調達する「手段」であり、
適当な代替手段があるなら(核兵器を作りたい場合を除いて)選択する理由はない。
また、どんなに安全性を高めても、どこかからミサイルが飛んでくるリスクは無くならない。

個人的には長期的な枠組みの中で全廃すべきと考える。

もし原子力発電を減らしていくのなら、その代わりに再生可能エネルギーを使うことになるだろう。
コストアップは避けられないが、逆を言えばコストアップを許容すれば選択肢はあるのである。

エネルギーには品質や産地の概念が希薄だが、
例えば野菜では産地が異なる商品が異なる値段で売っていることはおかしくもなんともない。
ならば同じ電気でも水力発電で作った電気と
原子力発電で作った電気を異なる値段で売ってもいいのである。
現実には電気は混ざってしまうので難しいが、
実質的にそれを実現している例はある。(グリーン電力証書)


つまりこれはいい悪いではなく選択の問題なのだ。
もし原子力発電を捨てるなら、大きなパラダイムシフトが待っている。
新しい未来を選択するなら変化を受け入れなければならない。
あるいは原子力発電の安全性を高め今まで通り、又は今まで以上に使っていくという選択肢もある。

どちらを選ぶのも自由だ。
多くの人が自分の選択結果に納得できることを期待する。

T内

2011年04月27日 | T内

今回の事故では水素爆発が実害的にも映像的にもインパクトが大きかった。
水素爆発については対策されていたのだろうか?

原子炉格納容器のベントを決定した時に水素爆発の可能性には気づいていたはずである。
ベントする時に建屋を換気できればよかったが、
換気したが爆発したのか、換気する術がなかったのか?
水素を排出するシステムを設けるということは炉心溶融を想定するということである。
正直そんな事考えたくない。

原発事故に対する事故前の僕の認識は、
炉心溶融が起こったらもう終わりそこから先は考えたくない。
だったが、結果としてはそこから先も考えておく必要があった。

東電が事故当時に持っていた防護服等の装備品を見ると、
東電が起こりうると想定していた事故の程度はレベル3程度ではないだろうか。
そんなもんだと思う。

ここには予防保全と事後保全のバランスという問題がある。
予防保全とは事故を予防するために行う施策であり、
事後保全とは事故が起こってしまった時に被害を小さく抑えるために行う施策である。

JR福知山線脱線事故の時に聞いたことがあるのだが、
日本には列車の衝突安全に関する基準がないというのだ。(今どうなっているかは分からない)
つまり列車は衝突したり脱線しないものと考えているのだ。

この事故では脱線した列車が大きく潰れたため犠牲者が増えたという意見がある。
事後保全を重視し、列車に十分な強度基準があれば犠牲者が減ったかもしれない。
予防保全に注力するあまり、事後保全が不十分だったのではないかと言うのだ。

ただ、予防保全と事後保全のどちらが重要かと言えばそれは予防保全だろう。
予防保全は日常的に必要になるし、事故は起きないに越したことはないわけで
事故後にどう収拾するか考える余裕があるなら如何に事故を防ぐか考えた方がいいようにも思える。

今後、当然事後保全の強化が検討されると思うが、今回の結果を真摯に受け止めるなら
原発はレベル7までの事故を起こすものとして事後保全体制を整えることになる。
これは大変な覚悟を要求する。

自動車を運転するとき、事故を起こしてペシャンコになった車を
常に思い浮かべながら運転するようなものだ。

一般に致命的な事故ほど予防保全が強化される。絶対起こってはならないからだ。
しかし致命的な事故だからこそ事後保全も強化しなければならないということか。


つづく

T内

2011年04月26日 | T内
地震から約10時間後の3月12日0時49分、
東電は1号機の原子炉格納容器の圧力が異常上昇したことを発表した。
詳しくはよくわからないが、原子炉圧力容器のベントにより圧力抑制室のプールが沸騰し
圧力抑制ができなくなったため原子炉格納容器の圧力が上がった可能性がある。
原子炉格納容器のベントが決定し、手動でのベントが行われた。
ベントする水蒸気には微量の放射性物質が含まれるが、
原子炉格納容器破壊のリスクと比較すれば問題にならない。

3月12日15時36分、1号機の原子炉建屋上部が爆発により骨組みを残して吹き飛んだ。
炉心溶融により発生した水素がベントにより原子炉建屋内に放出されたため水素爆発したと考えられる。
爆発により放射性物質が飛散し、がれきによって復旧作業がより困難になってしまった。

燃料棒が過熱すると水素が発生することは元々知られていた。
核燃料を被覆しているジルコニウムが水蒸気と反応すると水素が余るのだ。
Zr + 4H20 → Zr(OH)4 + 4H2
通常原子炉圧力容器内に酸素はないので水素が発生しても爆発する危険はない。
しかし、原子炉建屋内には空気があるため水素が放出されれば爆発の危険があった。

水素爆発を見て驚いたのは原子炉格納容器の堅牢さである。
あれだけの爆発にもかかわらず致命的な損傷は免れたようである。
爆圧は主に上と横に抜けるため下にある物体には被害が少ないと聞くが、
原子炉格納容器と原子炉圧力容器が大きな破壊を免れたのは幸いだった。

その後外部ポンプを用いた海水の注入等により原子炉は一応の安定を見る。

原子炉は稼働していないときでも燃料プールに発熱する使用済み核燃料を保管しており
地震発生時に稼働していなかった4,5,6号機の燃料プールも冷却能力を失い危険な状況に置かれた。
4号機では水素爆発が発生したため4号機の燃料プールでは燃料棒が損傷したと考えられる。
5,6号機の燃料プールは冷却能力の回復により燃料損傷を免れた。
結果として1~4号機で燃料棒が大なり小なり損傷したと考えられる。

現在、放射性物質の拡散防止と原子炉の冷温停止に向けた
取り組みが行われているが、一番厄介なのは2号機かもしれない。
2号機は原子炉格納容器に穴が開いている可能性が高く、
注水するとその分汚染された水が漏れる恐れがある。
いずれにせよ原子炉の後始末には今後何年もかかる。

今回の事故は、暫定だが国際原子力事象評価尺度で最悪のレベル7と評価された。
レベル7はチェルノブイリに次いで2例目だ。
今回の事故はチェルノブイリに比べれば規模は小さいが
評価基準に照らしてレベル7は妥当な評価だと考える。
何より国内外への影響はチェルノブイリに匹敵する。


つづく

T内

2011年04月25日 | T内
次に福島第一に絞って時系列で見てみよう。

福島第一にある6基の原子炉のうち地震発生時に
運転していたのは1,2,3号機で地震直後に全てスクラムした。
スクラムによって原子炉の発熱は激減するが不安定な燃料の崩壊による発熱が続く、
これを崩壊熱という。燃料の崩壊熱は時間とともに減少する。
運転時の発熱に対する割合は、スクラム後1秒で7%、1日後で0.7%、1年後で0.21%である。
スクラム後はECCSを稼働して原子炉を速やかに冷却する必要がある。

原子力発電所は電気を作る場所であるが、停止時は外部から受電して設備を動かしている。
地震により東北電力からの受電が止まったため非常用ディーゼル発電機が起動した。
しかし、地震41分後に津波第一波が到達しその後も数次にわたる津波に見舞われた。
津波により発電機がある地下室が水没、燃料タンクも流失し電源を喪失した。
稼働可能だった12基の発電機のうち稼働を続けたのは1基だけだった。

詳しくわからないが、電源喪失後も一部のECCSはバッテリーにより稼働したらしい。
しかしバッテリーは数時間しか持たず、その後は冷却能力が完全に失われた。

こうなると発電所としては時間稼ぎしかできない。
冷却能力が失われた状態では原子炉圧力容器の温度・圧力は時間とともに上昇する。
そのまま放置すると破壊の恐れがあるため、圧力が閾値を超えると自動的に
圧力逃し弁が開き水蒸気を放出し温度・圧力を下げる、これがベントである。
ベントされた高温高圧の水蒸気は圧力抑制室(サプレッションプール)
に導かれ冷却・凝縮することにより圧力上昇を防ぐ。

断続的ベントにより時間稼ぎができるが、原子炉圧力容器内の水位は低下するため
ベントを続けると水位が燃料棒を下回り燃料棒の冷却が不十分になる。
すると燃料棒が過熱し破壊してしまう、これが炉心溶融である。
1,2,3号機、つまり稼働していた原子炉全てで炉心溶融が起きたと考えられる。


つづく

T内

2011年04月24日 | T内
福島第一発電所事故個人的まとめ

東北太平洋沖地震発生から1か月半がたち、
ある程度状況が落ち着いてきたのでこの辺でまとめておく。


☆基本用語解説

放射線:α線、β線、γ線、中性子線がありそれぞれに電離作用と透過力に違いがある。
     強いエネルギーを持っているため浴びると細胞やDNAに損傷が生じる。

放射能:放射線を出す能力のこと、放射能=放射性物質と考えてよい。

放射性物質:放射線を出す物質、ウランやプルトニウム、ヨウ素131やその化合物。

スクラム:手動もしくは自動により原子炉に制御棒を全て挿入し核分裂連鎖反応を停止させること。

ECCS(非常用炉心冷却システム):スクラム後に原子炉を速やかに冷却するための各種冷却システム。

冷温停止:原子炉を停止し100℃以下に冷却した状態。

五重の壁:原子力発電所で放射性物質を閉じ込めている壁、内側から順番に
      焼き固められた燃料ペレット・燃料被覆管・原子炉圧力容器・
      原子炉格納容器・原子炉建屋の5つ、今回全て破られた。

原子炉圧力容器:核燃料を集合した炉心が収められた容器、原子炉そのものであり厚い鉄板で作られている。

原子炉格納容器:原子炉圧力容器をすっぽり覆う気密性の高い容器。

ガル(gal):加速度の単位、cm/s^2、1G=980ガル。


多くの分野で言えると思うが、現代において安全を脅かす主要な原因は
ヒューマンエラーでありこれをいかに排除するかが大切だと思っていた。
(実際、スリーマイル島事故では原因の大半はヒューマンエラーであった)
しかし、自然の脅威は未だにヒューマンエラーに勝るとも劣らないリスクとして存在していたのだ。
国内観測史上最大の地震と大津波は想像をはるかに超えた損害を福島第一原子力発電所にもたらした。
どんな理由があるにせよレベル7の深刻な原発事故が起きたことは工学の敗北であり、
原子力は人にとって過ぎたる道具だと認めざるを得ない。

しかし仮に原子力を捨てるとしても今すぐに捨てることはできず、
しばらくは事故のリスクと付き合っていかなければならない。
そのためには既存の原子炉の安全性を確保することが不可欠であり、
事故の検証は大きな意味を持つ。


順を追って検証してみたい。
まず、地震による揺れはどの程度だったのか?

観測された揺れは、福島第一で550ガル(438ガル)、福島第二で305ガル(512ガル)、
女川で573ガル(512ガル)、東海第二で492ガル(799ガル)だった。(いずれも最大値、カッコ内は想定値)
これらの数字は想定を超えているものがあるが1.2倍程度であり大きく外れてはいない。
単純な比較なら新潟県中越沖地震に見舞われた柏崎刈羽原発の680ガルの方が大きい。
今回の地震でどれだけ福島第一が損傷したかよくわからないが、それ以外では全て冷温停止できている。
地震に関しては十分ではなくてもだいぶ対応できていたと考えていいのではないだろうか。

今回福島第一が致命的事故に発展したのは
地震とそれに続く大津波によって電源を完全に喪失したのが原因だと考えられる。

では津波はどれほどだったのか?
福島第一で約15m(5.7m)、福島第二で約15m(5.2m)、女川で約13m(9.1m)、
東海第二で約5.4m(5.7m)だった。(カッコ内は想定値)
東海第二以外は想定を超えているが、原子炉建屋のある敷地高さ
などで関係で福島第一だけが主要設備に大きな被害を受けた。
地震は想定した程度だったが、津波は想定を大きく上回ったことが分かる。


つづく

T内

2011年04月16日 | T内
この辺でも桜が見ごろになったので、
花粉被曝を覚悟して写真を撮ってきました。


意気揚々と墓地に行くと



墓石倒れまくりです。


お気に入りの桜スポットだったのですが、崖も一部崩れていました。

是非墓石にも耐震基準を!