缶詰blog

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シーチキン(連載小説 桜町荘セレナーデ)

2004-06-20 14:51:58 | 連載もの 桜町荘セレナーデ

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「まだ飯を作ってねえのか。今日の飯当番は誰なんだよ?」
 川崎が腹立ちもあらわに言う。
「えーと、優のはずですけど。何なら俺が作りますか」
 隼人が川崎先輩のお怒りを察知して、穏便に処置してしまおうと提案する。
「バカ、それじゃあダメなんだよ。あいづにやらせろ」
「はあ」
「イカした娘はだあれ~、っと♪」南佳孝を口ずさみながら優が帰ってきた。
「あれ、先輩。もう帰ってたんスか。早いっスね」
「バカ野郎、俺は腹が減ってるっつーの! さっさと夕飯作れこの野郎」
「あらお怒りだわこの人。いやあね、暑いからって苛ついちゃって」優が女言葉でやり返す。
「お前、夕飯の当番なんだぞ」
「もうすぐ犬丸先輩も帰ってくるぜ」隼人が気を遣う。
「あ~あ面倒くせえな。先輩、弁当買ってきませんか?」ヘルメットを放り出した優が言った。キャビンに火をつけ、ベンジャミンを抱き寄せる。
 飼い猫ベンジャミンは迷惑そうな顔をするも、一声、鳴いてみせた。
「弁当ねえ。それでもいいけどさ、カネが続かないよ君たち。共同生活で自炊してる意味がないんでないの?」
 川崎の腹立ちはおさまったようだ。弁当の話題に興味が移っている。
「いつものドカベン喰いましょうよ、ギョーザとハンバーグ入りの」優が提案する。
「う~ん、しかしなあ」
「そんで、デザートにババロアはどうですか。プリンではなくてババロアなのがポイントです」
「う~んう~ん」
「あっそうだ! 先輩はギターを買うんでしょ。贅沢しちゃダメですよ」隼人が甲高い声で言った。
「んだ! ババロア食ってる場合じゃねえべ!」川崎がお国訛りで叫んだ。「馬鹿野郎、優は早く飯作れ!」
「そんんじゃ、シーチキンご飯でも炊ぎますか」優が重い腰をあげた。
「ああ、それでいいや。ショーユ多めに入れてな」
 川崎の頭は、今度はギターのことでいっぱいになっている。音楽雑誌をめくって広告を眺め始めた。
 川崎は、一度に多くのことを考えるのが不得手だった。新たな事柄が頭の中を占めると、その前のことはすぐに忘れられるという妙技を持っていた。
「くっそー、俺たちも早くデビューして、武道館でライブやろうぜ。な、お前ら!」
「そ、そうですね...」
(いつかはプロのミュージシャンに...)。
 ここで生活している4人は、とても大きな夢を持っていたのである。
 まっ、しかし。そんな夢物語は実現しないのであるが。

 昭和59年、武蔵小金井にて つづく


 ビンボーシーチキンご飯レシピ 4人分
1,米を4合研ぐ(一人1合食べるのだ)
2,シーチキン缶を1缶分、サラダオイルごと釜に入れる
3,醤油をどばどば入れる
4,炊きあがったら争うように食べること

 追:デジカメが修理に行ってしまったので暫く画像なしです。どうかこの不道徳不謹慎な企画をお許し下さい。