H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

利尿薬のスライディングスケール

2021-06-22 | 臨床研修


以前に少し書いたことがあったかもしれませんが,利尿薬を体重によって調節するやり方についてまとめておきます。呼吸困難はまだないけれど下肢浮腫や胸水貯留など溢水のある高齢者で,どうしても入院治療が困難なときに何とかやり過ごす方法です。(もちろんそれ以外の心不全の治療は併用してのことです)

これまで何人もこれでしのいだ経験があります。おおむね上手くいくことが多かったです。(こんなこと教科書やマニュアルには書いていません。あくまでも個人の印象ですので,すべての患者さんには勧められません)

もともとは研修医時代に,ベテランの循環器内科の先生に教えていただいた考え方です。
簡単に言ってしまうと,尿が普通に出る方であっても透析患者の「ドライ・ウェイト」のような考え方をするのです。

・現在の体重をスタートにして,およその目標体重(いわばドライ・ウェイト:DW)を見積もる
・そのDWを中心に体重の増減で,利尿薬の投与量を設定してみる
・一旦それで始めてみて,再診時に再調整する

例えば,下肢浮腫が著明で明らかに体液量が過剰な心不全の方がいるとします。
受診時の体重53kgだったとして,本来の体重(DW)は50kgくらいと見積もったとします。
目標とする体重から,増えていればラシックス服用。DWあたりであれば,およそ維持量に。
目標体重を下回ればラシックスは一旦中止,という原則にします。

例えば,
・Wt >52kg なら  ラシックス 40mg 朝・夕
・52>Wt>50kgなら ラシックス 40mg 朝のみ
・Wt<50kg なら  ラシックス 中止

といった感じでまずは服用してもらいます。そして体重,ラシックスの服用状況(可能なら尿量も)を記録してもらい1週間後に再診にします。これでどうなったか,その患者さんの至適体重がわかればそれを中心にして利尿薬の服用,中止を変動させます。ナースや施設の職員の方は原理を説明すると理解してくれます。そしてきちんと記録を持ってきてくれるので助かります(よく理解されたご家族でも大丈夫です)。
これで一旦その患者さんの「DW」が設定できると,その後の外来でも比較的安定して経過をみることができます。

最初の体重や服用量をどうやって決めるかって? それは・・カンというか適当です(笑)
まあ「著明な下肢浮腫があれば3−4kgの体重増加がある」のが基本原則なので,受診時の体重から3−4kg(体格によって適当に増減)引いた体重を暫定のDWと考えるわけですが。

症例数は多くないものの,以前からこのやり方で何度も助けられました。何よりも入院するだけで廃用や認知症が進んだり,せん妄になる可能性が高い高齢者の心不全患者には,プランBとしては意外に使えます。(もちろんちゃんと入院加療するのが第一選択です)

あくまでも私個人の経験なので,皆さんの役に立つかどうかは分かりません。ただ,どうしても他に方法がないときには試してみる価値はあります。もちろん「少しでも状態が悪ければ入院なので,すぐ連れてきてくださいね」と念を押しておくことは忘れずに。

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