さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法

2009年06月19日 21時45分42秒 | ループ説・カケラ世界
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/17(Wed) 23:52:59)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27141&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「ラムダデルタにチェックをかけろ」シリーズの2回目です。
 マリアの魔法とベアトリーチェの魔法の融合に成功。
 ep4の幻想側TIPSが解読できるようになりました。

 以下が本文です。


     ☆


 前回の続きです。

 今回は、前回の結論をふまえて、ep2~4がどうやって発生したかというお話をしてみます。


●「シュレディンガーの猫箱」のおさらい

「シュレディンガーの猫箱」というのは、量子科学の分野で発見された不思議な現象を、なんとかわかりやすく説明するために開発された、ものすごく乱暴で大ざっぱな「たとえ話」です。
 ……だそうです。
 わたしも専門外なので、よく知りません。
 が、だいたい、以下のようなたとえ話で説明されることが多いみたいです。

(あの、ご存じの方はとばしていただいて大丈夫です)

 たとえば、いま、これを読んでいる方は、たぶんPCの前にいらっしゃるでしょう。
 ということは、たぶんどこかの部屋の中でしょう。携帯でアクセスしていて外を歩いている人はごめんなさい。
 部屋の中ということは、ちょっと目を上げれば、壁があるでしょう。
 壁の向こうには、何がありますか?
 隣の部屋?
 隣の部屋が、本当にいま、この瞬間に、存在しますか?
 見えないのに、どうしてわかります?
 そう……もちろん、扉を開けて廊下に出て、隣の部屋のドアをガチャっと開ければ、隣の部屋があるでしょう。ほら、部屋はあるじゃないか、とおっしゃるかもしれない。
 でも、がちゃっと開けて、あなたが「見た」瞬間に、何もなかった空間に隣の部屋が急に出現したのかもしれない。
 ドアを閉じた瞬間に、「隣の部屋」は消え失せているかもしれない。またガチャっと開けた瞬間だけ、隣の部屋が現れているのかもしれない。
 隣の部屋に限らず、床下だってそうです。床の下にほんとうに地面があるかどうかは、見えない、さわれない以上、わからない。床板を剥がした瞬間だけ地面が出現するのかもしれない。
 壁のむこうにほんとに隣の部屋があるのか、ないのかは、わたしたちには、絶対に確かめられないのです。

 この世界のすべてのものは、わたしたちが、見たり、触れたり、匂いをかいだりした、その「瞬間」に、初めて存在しはじめたものだというのです。
「観測」したとき、初めて「かたち」ができる。
 観測するまでは、虚空に霧がたちこめたような、かたちのない、もやーっとした状態になっている。
 でも、パッと見た瞬間、フッと全部かたちが定まる。
 また目をそらすと、モヤーっとしたものになる。

 そんな極論がまかり通ってしまう科学分野が、量子力学だそうです。
 詳しい理論とか知りませんから、間違った部分があると思いますが、だいたい、イメージとしては、そんな感じでいいと思います。

 すなわち。猫箱のたとえに戻すと、
 部屋の壁が、「箱の外装」。
 隣の部屋が、「猫」。
 に相当するわけですね。

 箱の中に閉じこめて観測できなくなった猫は、霧のようなモヤーっとしたものになってるかもしれない。
「モヤーッとしたもの」というのは、「何にでもなれる可能性」だと思って下さい。

 箱の中の猫ちゃんは、わたしたちが見てないのをいいことに、犬になってるかもしれないし、サルになってるかもしれないし、エルメスのハンドバッグになってる可能性もあります(なったままでいればいいのに)。
 でも、フタを開けて観測した瞬間、すごい勢いでナニゴトもなかったかのように猫に戻ってしまうので、何になってたか、猫のままだったかは、わたしたちにはわからない。
 ただ、エルメスのハンドバッグになってる可能性は、天文学的な確率ではあるけれど、間違いなくあります。

 猫箱のフタを閉じて、猫ちゃんが「モヤーッとした」状態になる。
 その「モヤーッ」が、たまたま運良く、ぴったりエルメスのハンドバッグの形を取る可能性はゼロではない。

 ならば、厳重な箱のなかに猫を閉じこめて、
「ウフフフフ、いま、この中には素敵なエルメスのケリーバッグが……」
 といって、ニンマリしても良い。ぜんぜん間違ってない。


 さて、事件当時の六軒島も、外からは何が起こってるのか「見て確かめられない」という点で、猫箱や、壁のむこうの隣の部屋、と、同じです。

 ということは、
「部屋の壁」が、「外界から隔絶した2日間の六軒島」。
「隣の部屋」が、「右代宮家関係者のみなさんと魔女」。
 と置き換えても、良いっぽいです。

 だから、2日間のあいだ、右代宮邸の全質量が、大量のエルメスバッグに変化しててもよい。その可能性はあります。
 けれど、「全質量エルメスバッグ化」よりは、「礼拝堂でハッピーハロウィン、楼座ライフルを振り回して大立ち回り」のほうが、ずいぶん発生しやすそうです。「絵羽、黄金を発見。独り占めしたくて暴れる」も発生しやすそうですね。

 ということは、不思議なことに。
 実際に発生したのはep1なのに、「ep1が発生した」ことによって、「ep2やep3やep4がほんとは発生したかもしれない」という可能性が生まれてしまったということです。

 箱に入れたのは猫なのに、「猫を入れた」ということによって、箱の中では犬や猿やエルメスバッグが入っている可能性が生まれてしまった。
 ……ということですね。


●ep2~4を実在させる方法

 でも、このままだと、フタを開ける前はep2や3や4に変化しているかもしれないが、フタを開ければ、ep1に戻ってしまいます。
 ということは、やっぱり、ep2やep3やep4は単なる可能性にすぎず、事実上、存在しないまやかしでしかないのか?

 それって何となく悲しい気がするので、ep2~4を、「事実」にしてしまいましょう。
 事実にしてしまう方法をみつけました。

 世界中のあらゆるものは、見たり聞いたりといった「観測」をした瞬間に、そのかたちを手に入れるのだ。
 そうでしたよね?
 猫は見えない箱の中では、もわ~んとした得体の知れない状態になっている。フタを開けた瞬間に、パッと猫のかたちをとる。

 ということは。ひっくりかえすと、こうじゃないでしょうか。

 観測できたものは、存在するものである。

 観測できる以上、それは存在する。
 ということは、観測さえできれば、「それ」を存在させることができる。
 箱の中に、サルを見ることができれば、サルを取り出すことができる。

 ですよね?

 そこで、こんな大胆な仮定をしてみましょう。
「好きなものを、箱の中に見ることができる超能力があるとしたら?」

 その超能力者は、箱の中に猫を放り込み、ぱちんと指を鳴らして、フタを開ければ、そこにはなんとエルメスのバッグが出てくるのです(凄いぞ!)。

 そして、そんな超能力者がいて、ep2を観測したら、ep2はほんとうに存在することになるのです。もちろんep3も、ep4もそうです。

 うん、なるほど。
 でも、そういう超能力があるとしたらの話ですよね。

 その超能力とやらは、あるの?
 そんな超能力者が、いるの?


 いるじゃないですか。


 ベアトリーチェが「いる」と認め、真里亞が「いる」と認めれば、「さくたろう」が存在できるのです。
 そう。
 いもしない「さくたろう」を、観測できるんですよ。
 あまつさえ、楽しくおしゃべりさえできるんだ。
 サルやらバッグやらを観測することくらい、何でもない。

 つまり、その「超能力」は、ある。
 その超能力は、「魔法」と呼ばれていて、さくたろうを生み出したメカニズムのことです。

 では。
 そのメカニズムを利用して、ep2を存在させた能力者は誰だ。
 言い換えれば、
 ep2を「観測」したのは、誰か。

 それは、上位ベアトリーチェと上位戦人です。

 ベアトリーチェは、戦人にep2を見せました。同時に自分でも「見」ました。
 戦人は、確かにep2を「見」ました。

 戦人は「犯行が魔法で行われた」ことは認めていませんが、ep2という物語を「見た」ことは認めています。

 ベアトリーチェが「見た」と認めました。戦人が「見た」と認めました。
 つまり、「ep2」は、観測されました。
 観測されたものは、存在するものです。

 つまり、ep2をベアトと戦人が「見た」瞬間から、ep2は実際に存在しはじめたのです。


 もちろん、ep3も、ep4も同様です。
 ep3は、それがベアトと戦人によって観測された瞬間から、存在し始めました。
 ということは、ep3が観測される以前……まだep2までしか戦人が見ていなかったころには、ep3の後日談である1998年の縁寿という人は、存在していなかった。
 ep3が観測されたので、あの可哀相な縁寿は、やっと存在を始めた。
 だから、ep1やep2には、あの縁寿は絶対に登場できないのです。いや、たぶん。
 ベルンカステルは、ep3が終了してからでないと、彼女に会いに行けなかったのです。


●ep4のTIPSにあてはめる

 さて、以上の仮説を、作中の式にあてはめて検算してみましょう。

 ep4のベアトリーチェのTIPSに、以下のようなことが書いてあります。
 要約しますが、

「彼女は膨大な魔力を持つが、それは無意味だ」
「なぜなら、ゼロは何倍してもゼロでしかないからだ」
「だが、真里亞が1をもたらしたおかげで、無限の力が手に入った」

 だいたいそんな意味のようなことが書いてあります。

 これって、こういうことじゃないでしょうか。

 ベアトリーチェは、もともと、「猫箱をつくる」という能力を持っていた(つくる方法を知っていた)。
「猫箱の力」というのは、かたちあるものを、観測不可能な状態に置くことにより、「もやーっとした可能性」に還元してしまう力です。
 たとえば猫を、モヤモヤ状態にしてしまえる。
 モヤモヤというのは「何にでもなれる可能性」のことだから、それは犬にもなりうるし、サルにもなりうるし、高価なハンドバッグにもなりうる。
 でも、彼女にできるのは、ここまでだった。
「可能性」をつくることはできるのだけど、その可能性から、「1個のかたち」を取り出す能力は持ってなかった。
 だから事実上、まったく無意味な力だった。
 1を無限に割り算して、限りなくゼロに近づけることはできるのに、そこから別の1を作り出す力はなかった。
 猫を乾燥して砕いて粉にすることはできるんだけど、その粉を集めてこねて、犬をつくることはできなかったんだ。

 ところがそこに、真里亞が「さくたろう」を作り出す技術をもたらす。
 こんな方法があったとは!
 これを使えば、「可能性」でしかなかったものを、「1」個のかたちに凝集できる。
 犬も作れるし猿も作れるしバッグも作れる。
 想像力のおよぶ限り、何でも作れる。
「無限に」作れる……。
 別の世界だってつくりだすことができる。


 TIPSは、そういう意味のことを言っているのだと、読めなくもない……ような気がしませんか?

(まだ続きます)
 続き→ カケラ世界3・上位戦人の正体



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6 コメント

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エルメス…… (名無し募集中。。。)
2009-11-16 06:56:31
中の人って女だったのか……
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Re:エルメス…… (Townmemory)
2009-11-16 10:40:28
その可能性はありますし、そうかもしれないしそうじゃないかもしれないです。どちらにもあてはまらない第3の結論だってあるかもしれないですよ。フフフ。
返信する
なるほど (名無し募集中。。。)
2009-11-18 08:29:14
ブランド物大好きな男性かもしれないし、複数の男女が入り乱れて共同執筆しているかもしれないし、もしかしたらスクリプトで自動生成された文章なのに奇跡的に高度な考察をしているかのような文章になっている可能性も零ではないわけですよね。すべては箱の中の猫。オフ会でも開いて、御本人が姿を現さない限り、真相は永遠に分からない……。もっとも、たとえオフ会を開いたとしても、もしかしたら影武者かもしれないし、御本人だとしても服の中までは観測できないので、依然として猫箱であることには変わりはないですけどw
返信する
Re:なるほど (Townmemory)
2009-11-18 12:35:50
そのとおりです。話が早くて素敵だ。
返信する
シュレディンガーの猫について (不如意)
2010-02-04 11:29:08
 初めまして。友人の紹介でうみねこを知り、その友人の紹介でこのサイトを知り、考察の魅力にとり付かれた者です。


 考察ではないんですが、「シュレディンガーの猫」のもともとの意味についてうんちくをお話しさせて頂きたく思います。私も専門ではないのですが・・・ね。

シュレディンガーの猫というたとえは、もとは理論をかみ砕いたものではなく、批判を分かりやすくするためにシュレディンガーさんがとった喩えです。
その矛先はノイマン-ウィーグナー理論。これは、量子力学的には、一定時間中に粒子が崩壊する可能性は、観測するまで確率的でしかないという理論。
つまり、ミクロな世界では、そのまんまなのかぶっ潰れたのかのモヤモヤ状態があるんだよというわけです。


さあ、そんなのおかしいじゃんと言ったシュレディンガーさんの思考実験です。

まず、箱を用意します。この箱は、あらゆる観測をシャットアウトします。電磁波、化学物質、分子運動あらゆる観測が無効化されます。
そこに、猫と毒の瓶を一緒に入れます。
毒の瓶に、物質の崩壊を観測して、瓶を割っちゃう仕掛けを入れます。
毒の瓶が割れると、100%猫は死んじゃいます。(ねっ、ねこぉぉぉぉぉっ)

さて、ここで仮に、ある時間以内に粒子が崩壊する確率50%、そのまんまの確率50%だとしたら、
ここで奇妙なことが起こるわけです。

そう、ミクロの世界では、「ふーん、確率的なのか―、まあそうなんかもねー」と納得できるかもしれませんが、
このままでは、壁一枚隔てたところにいる「猫が生きてる確率と死んでいる確率が50:50になる」ことになるわけです。
 これが、「シュレディンガーの猫」です。まとめると、「ミクロ世界で常識だとしても、マクロ世界とつなげる方法がある限り、マクロ世界の常識と食い違うことはあってはならない」ということですね。
現在では一応このパラドックスは解決をみているようです。そして解決をみたからこそ、皮肉にも「シュレディンガーの猫箱」は、量子力学の直観的理解に役立つ優れた喩え話になったわけですね。



ちなみに、批判したつもりが理論の端的な名称になっちゃったという有名な話には、「ビッグバン」があります。宇宙誕生の話ですね。これも、馬鹿にしたような感じで「ビッグバンとかいっちゃってるけどさー」と言った人のそれが印象に強く、理論の呼び名になり、結局理論の浸透を助けた形になっちゃったらしいです。(現在は、ビッグバン理論も揺らいでるらしいです。物理は進化してますねぇ)


 まあ、この世の理も、天地創成も、ほとんどはまだまだ観測不可能。物理学自体が、巨大な「猫箱」といってもいいです。誰かが丸いことに気づくまで、地球は平面だったし、誰かが地球が動いてると観測するまで、地球は世界の中心でした。神様を存在させるのも自由。魔法を存在させるのも自由。
思考実験は青、科学的観測は赤、なのかもしれません。観測結果をみてもなお、無限に存在しうる理。科学理論は幻想を殺しますが、100%殺しきるには、絶対に一歩及ばない。殺しきる奇跡には無限に到達できない。でも、科学は魔法をどこまでも削ることができる。
 あのゲームは、ミステリーとファンタジーの戦いであるとともに、科学VS魔法の歴史の縮図なのかもしれません。その観点から見れば、また違った考察も、できる、か、も・・・?

 考察でもないのに、長文失礼しました。今度はこの観点からの考察も携えて、語らいに参ることを目標にしたいと思います。失礼致します。
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Re:シュレディンガーの猫について (Townmemory)
2010-02-11 03:31:34
●不如意さんへ
 解説、ありがとうございます。「あのゲームは、ミステリーとファンタジーの戦いであるとともに、科学VS魔法の歴史の縮図」という指摘がおもしろかった。たぶんそのとおりなのだと思います。きいた話ですが、日本でのごく初期の探偵小説というのは、怪談・幽霊話の代替物、というか「新時代(文明・科学時代)にマッチした怪談の一種」として読まれてきたような経緯があるそうです。
 だから、探偵小説でありながら怪異譚に回帰していくようなベクトルを持つ京極夏彦さんの小説が「ミステリ・ルネサンス」というキャッチコピーで呼ばれる。……ということなのか?(このへんはわたしのフカシです)でもそういえばダンテさんもルネサンス期の作家ですね。「ミステリ・ルネサンスの系譜としての『うみねこ』」というアプローチはおもしろいかもしれません。ちょっと考えてみよう。続きの考察、期待しております。
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