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再掲載…労働者派遣法違反(偽装請負)の構成要件は何か?

2012-11-15 10:32:55 | Weblog
 このところ訪問・閲覧数が増えており、当ブログの派遣法違反や職安法違反についての、小生の記述をご覧になっている人が多いと思われるので、再掲載したいと思う。


 以下は、2010年05月31日に書いたものを再掲載したものである(なお、当初の語句を若干調整してある)。あくまでも小生の考え方。

 設定としては、下記の事例に沿って検討してみたい。なお念のため今回設定する事例は架空のものである。 

 事例として、1回の委託料が「委託労働者1人」の所謂単価契約(つまり労働者1人の1日の料金)として自治体が考案して入札に掛け契約したものが、この契約は「労働者単価での料金清算部分につき不適切だ」として労働局から是正指導されたとしよう。
 つまり、適法に委託を行う場合には、投入する労働力は本来受託者の裁量であるところ、これを発注者が発注する行為が“不適切”だとして労働局による是正指導の対象になったもので、これを実施すれば結果として、発注者の自治体が受託者に対しその労働者に何人日作業させるかを指示することになることから、当局が是正指導に踏みきったもの・・・という設定である。
 なお、この他にも1年間のグロスで委託契約を結び、業務の増減があっても追加料金が無いというように、あたかもみなし労働時間制で自社の社員でまかなうような労働契約類似の場合や、業務の増減があった分だけ労働者1人単価により料金清算するという手法など手の込んだものもあるが、今回は、単純な単価契約における労働者派遣法違反の場合の検討をしたい。

 さて、狭義の指揮命令(仕事の割付けを請け負い労働者に直接指示)であれば即構成要件該当だと解されている(37号告示)。しかし、一般に理解されている「口頭での指揮命令」については、実例解釈により導かれていると言えよう。また、もろもろ労働者派遣法は、職業安定法4条(労働者供給)、同法44条(労働者供給違反)から、派遣元と雇用関係があるものだけを取り出して同条上は適法(=非該当)としたものであるので(同法の条文を読むと文理上そう理解できるから)、労働者派遣法における業務の独立性の判断基準である所謂「37号告示」、即ち「委託ないし請負の事業として独立して業務を処理できているか否か」というのは、職業安定法施行規則4条各号がそのままスライドして、委託ないし請負と、不自由労働とのメルクマールになっていると言えよう。


 参考資料:~

 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年4月17「労働省告示第37号」)
労働省派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を次のように定め、昭和61年7月1日から適用する。

 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
 第1条 
 この基準は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「法」という。)の施行に伴い、法の適正な運用を確保するためには労働者派遣事業(法第2条第3号に規定する労働者派遣事業をいう。以下同じ。)に該当するか否かの判断を的確に行う必要があることにかんがみ、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分を明らかにすることを目的とする。
 第2条
 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
 1. 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
 イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
  ① 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
  ② 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
 ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
  ① 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
  ② 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
 ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
  ① 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
  ② 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
2. 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
 イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
 ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
 ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
  ① 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
  ② 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
 第3条
 前条各号のいずれにも該当する事業主であつても、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が法第2条第1号に規定する労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない。

 職業安定法施行規則(法第四条 に関する事項)
 第四条  労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。次項において「労働者派遣法」という。)第二条第三号 に規定する労働者派遣事業を行う者を除く。)は、たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号の全てに該当する場合を除き、法第四条第六項 の規定による労働者供給の事業を行う者とする。
 一  作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること。
 二  作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。
 三  作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること。
 四  自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

 ~ 以上(37号告示)参考資料ならびに職業安定法施行規則4条1項各号:


 さて、元々は「業務の独立性」という同告示の2条各項が、質疑応答集にある例示「8.後段但し書き」による(行政実例と判例の積み重ねだと思われる)。法の立法意思が労働者保護にあるため、これを是正指導することで労働市場を守るための区分が告示されているものと解されよう。
 同告示の表示方法は、“請負に該当する要件”として書かれているので、これに該当しないものが偽装請負だと解されよう。つまり、この反対解釈として例示されたのが質疑応答集(「8.」のような偽装請負となる)。

 あくまで法源は、「37号告示に該当しないもの」=労働者派遣に該当=派遣法に規定の要件を満たさない「派遣法違反(偽装請負)」ということである。
 これは刑法典の一般的理解では少し(一見、罪刑法定主義に反するようにも・・)変に思える。しかし、そもそも他人の就労に介入して利益を得ること一般(労基法6条)や、労働者供給事業一般(職業安定法44条)が禁止され、これらを例外として労働者派遣法により抜き出して適法としたものであるので、当然、例外要件に該当しない場合にはすべて違法としているものである(列挙適法主義あるいはポジティブ規定と言えよう)。

 前述の疑応答集の「8.」の本件該当部分を抜粋すると、・・・①仕事の完成を目的とせず、②業務処理のために労働力(人数)を受発注し、③当該労働力単価を基に清算している場合、・・・の3つが要件となっている。
 
 ①+②+③=単なる労働力提供(偽装請負)

 思うに、①の場合、管理行為、委任、準委任などはすでに該当してしまう。そこで、労働力を受発注するところで違反の着手(因みに、ボランティア事業団体代表者による清掃活動の無償契約などはこの行為に該当であろう)で、労働者を送り込んだ者が利益を得るという結果を要件としたのだろうと思う(この場合、“労働者を送り込んだ”という事実だけでは結果ではない、ということになってしまう(この点、労働者供給という行為自体を禁止する職安法44条の規定とは異なっており、寧ろ中間搾取を禁止する労基法6条と同様に“利益”を得ることが違反要件になる)。←なお、後述で検討するが、この段階では一応この考え方を採用しておく。
 
 これを犯罪の各論として考えると、派遣の罪は派遣をした派遣元にのみ罪となる身分犯である。以前当ブログにも書いたとおり、贈賄罪があって収賄罪がない世界である。しかし本事例のように、派遣先が実質支配を行った場合、非身分犯による共同正犯は成立し得る(非身分者の共犯による特別背任罪となったイトマン事件のように)と考えられるので、労働局が派遣先(労働者を受け入れたのではなく労働者を送り出した共犯として)に是正指導に入ることはあり得るだろう。

 なお、上記3つの要件というのは、あくまで厚生労働省の作成した「37号告示に関する質疑応答集」(最近後付けされた例示)による見解であって、後述する「37号告示」による区分の趣旨である「事業の独立性」という基準の観点から見ると厳格過ぎるという問題があるように思われるので、以下に改めて検討したい。

 先ず、民法上の請負と、先の偽装請負の要件で述べたような「①」の“仕事の完成を目的としない委託(委任・準委任)”の違いについて下記に整理しておこう。
 民法上の請負と委託の違いは、契約内容が「仕事の完成」かどうかである。
 即ち、請負は、請負人が仕事を完成し、これに対し注文者が報酬を支払うことを約束するという「結果債務」であるとされる(民法632条)。
 これに対し、業務委託契約といった場合、一定の事務(なお、法律行為の事務か、それ以外の事務かにより、前者は委任、後者は準委任や委託とされる)を処理することを相手方に委託し、相手方がその目的の範囲内で自由裁量の権限をもって、独立して事務処理を行うことを承諾し、その対価としての報酬を支払うという形で労務を利用する形態の「手段債務」であると定義できよう(準委任・民法656条・643条、商法505条)。
 両者は、他人の労務を利用する点で共通しているが、この2つの民法上の契約類型の違いは、仕事の完成が契約の内容となっているか否かである。
 
 ところが“派遣労働か、請負か”が問われるような委託契約の場合には、民法632条でいう結果債務だけではなく、後者の手段債務である民法643条の委任契約や民法656条による準委任に基づいても行われており、このことから、労働者派遣法(37号告示による区分)から言えば、ここで言う『請負』とは、少なくとも民法で言うところの『請負契約と委任契約・準委任契約』も含まれることになる。

 因みに、委任契約は「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力が生ずる」(民法643条)とされ、受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者としての注意(善管注意義務)をもって、委任事務の処理をする義務を負う」(同644条)とあり、事務の処理は手段債務であるから目的物の完成ではない。

 以上のごとく、労働者派遣事業にいう事業区分としての「適正な請負」とされるには、『目的物の完成や成果物の引渡しは要件ではない』・・ということになる。

 そうすると、注文者との関係において、請負が独立した事業であるか否か、である。即ち、請負が適正に行われているか否かという区分は、この『事業の独立性の判断』ということになる。

 よって、疑応答集の「8.」の本件該当部分である、①仕事の完成を目的とせず、②業務処理のために労働力(人数)を受発注し、③当該労働力単価を基に清算している場合、・・・の3つの要件がなければ違反に該当しないとは言えず、寧ろ②、或いは③の何れかに該当していれば・・・

“事業の独立性が無い”=“労働者派遣法に規定の手続き無く
                 自己の労働者を他人の指揮命令の元に労働させる「偽装請負」”である・・

 ・・と解す余地があることになる。


 即ち、本エントリの表題「労働者派遣法違反(偽装請負)の構成要件は何か?」を問われれば、「37号告示」は、請負事業主としての「要件」を満たさなければならないという趣旨を明示しているとともにに、この適法な要件が列挙されているのであるから、これ以外の委託業務は違反(偽装請負)の構成要件に該当するということである。《6月7日追記》
 そうすると、労働者派遣法では5条(一般派遣)「~厚生労働大臣の許可を受けなければならない」や16条(特定派遣)「~届け出なければならない」、また24条の2(受入れ禁止)「~派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない」として無許可・無届の労働者派遣行為(労働者の提供行為自体)を禁止しているいるのに、「③」の“~清算している場合”でなければ違反ではないという解釈は不当だと思われる。私の考えでは、労働力単価での清算を予定して労働者を送り込めば(現に労働させれば)十分に違反であろう。この場合、業務の成果は無関係であり、単価清算を予定して労働者派遣を行ったことにより、既に違反行為は既遂となる。本罪となる違反行為が結果犯であるにせよ、料金の精算を行った場合でないと既遂ではないと解すことは不当であると思う。

 なお、行政法上の権限の委任(行政庁が他の行政庁や下位機関にその権限の一部を委任すること)とは制度的意味が異なるので、別途理解上の注意が必要である。
 参考までに、行政法上の権限の委任(・・法律の根拠が必要であり、全部の権限を委任することは出来ない・・)は、行政法学上の権限の代行の一種であるが、委任・代理・補助執行の違い(殊に権限の移動の有無、監督権限、権限行使機関の名義人)について整理する必要がある。


 参照:
 37号告示http://homepage1.nifty.com/lawsection/special/Parttime-Dispatch/haken_ukeoi_kubun.htm
 同質疑応答集http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai03.pdf

 「派遣と請負の区分基準」疑義応答集の何が問題か(2009年5月その4)
 労働調査会http://www.chosakai.co.jp/alacarte/a09-05-4.html

 なお「官公庁発注業務委託の課題と対応考察」(行政の立場からの提言として)も参考になるので参照されたい(下記URL)。
 http://www.bilshinbun.com/kiko/070709/index.html

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