前回のエントリで、労働局の調停に出てこないとは、日航、大したツワモノだと思うが、これよりも、さらにツワモノが居たようだ。
以下は産経(産経新聞 9月4日(金)16時17分配信 )より引用・・・
・・・妊娠を理由に女性職員を解雇し、国の是正勧告に従わなかったとして、厚生労働省は4日、茨城県牛久市のクリニックの実名を公表した。男女雇用機会均等法に基づきマタニティーハラスメント(マタハラ)をした事業主の実名を公表するのは初めて。
厚労省によると、是正勧告に従わなかったのは、牛久市のクリニック「牛久皮膚科医院」(安良岡勇院長)。安良岡院長は2月、正職員の20代の看護助手が妊娠したと報告したところ、約2週間後に突然、「明日から来なくていい。妊婦はいらない」と退職を迫ったという。看護助手は「妊娠したばかりで、まだ働きたい」と訴えたが、院長が認めなかったため、茨城労働局に相談。
労働局は妊娠や出産を理由に解雇することは男女雇用機会均等法に違反するとして、口頭や文書で3回にわたって是正勧告したが、院長は解雇を撤回しなかった。7月には塩崎恭久厚労相が大臣による初の勧告を行ったが、「妊婦はいらない」「(男女雇用機会)均等法を守るつもりはない」などと応じなかった。
男女雇用機会均等法は、妊娠を理由に女性労働者を解雇や降格などの不利益な扱いをすることを禁止している。違反した場合は労働局長や厚労大臣による勧告などの行政指導が行われるが、罰則はない。
同クリニックは「院長の体調不良により休診中」などとして、取材に応じていない。・・・
・・・というもの。
で、その厚労省の公表とは下記のもの。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000096409.html
報道関係者各位
男女雇用機会均等法第30条に基づく公表について
~初めての公表事案、妊娠を理由とする解雇~
男女雇用機会均等法(以下「法」という)第30条において、法第29条第1項に基づく厚生労働大臣による勧告に従わない場合、その旨を公表できる制度が設けられていますが、このほど、初の事案が生じましたので、下記のとおり公表します。
事業所名 : 医療法人医心会 牛久皮膚科医院
代表者 : 理事長 安良岡 勇
所在地 : 茨城県牛久市牛久280 エスカード牛久4階
違反条項 : 法第9条第3項
法違反に係る事実: 妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回 しない。
指導経緯 : 平成27年3月19日 茨城労働局長による助言
平成27年3月25日 茨城労働局長による指導
平成27年5月13日 茨城労働局長による勧告
平成27年7月9日 厚生労働大臣による勧告
【参考:男女雇用機会均等法第9条第3項について】
法第9条第3項では、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。
○妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの例
1 解雇すること。
2 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
3 あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
4 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
5 降格させること。
6 就業環境を害すること。
7 不利益な自宅待機を命ずること。
8 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
9 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
10 不利益な配置の変更を行うこと。
11 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
・・・以上、厚労省HPより引用。
なお、下記のような議論を同紙(産経デジタル)では掲載しているので引用させていただく・・・
・・・ 【日本の議論】http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/150421/lif15042110000001-n1.html
妊娠や出産を理由に職場で不利益な取り扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)が社会問題化する中、被害者支援団体に女性から賛否両論が寄せられている。「女性が安心して働ける社会になってほしい」といった激励がある一方、「同性としていい迷惑」という声や、企業の女性採用への影響を懸念する意見も。団体が3月に公表した調査結果では、マタハラを受けた相手として「女性上司」が22%に上っており、「同性の無理解」という一面が浮かび上がった。(滝口亜希)
■「権利ばかり主張」…被害者団体に厳しい意見
「妊娠したら今まで通りの仕事ができなくなるのが目に見えてるんだから、異動も降格も当たり前」
「妊娠したら問答無用で特別扱いすべきだ、と思う人を理解できません」
「私の夫の部下は妊娠して突然欠勤し、大変な目に遭いました」
「出産に対して理解のある企業に入る努力もせず、女性であることを利用して権利ばかりを主張するのは、同じ女性として恥ずかしい限りです」
マタハラ被害者らでつくる「マタハラNet」には女性からの厳しい意見が相次いで寄せられている。
きっかけは昨年10月に最高裁が判決で「妊娠による降格などの不利益な扱いは原則として違法」との初判断を示した訴訟だ。昨年7月の団体発足から約5カ月間で、女性を名乗り、活動を批判する声が少なくとも10件以上寄せられた。
マタハラ問題が注目されることで、企業が女性の採用を控えることを心配する意見もある。
性別は明記されていなかったが、娘を持つ親から寄せられたのは「今後の女性の働く場所や就職活動などに影響するのではありませんか」というコメント。娘が就職活動中という男性は最高裁判決について「正直言えば、それほど優秀ではない娘を持つ父親としては、こんなに大騒ぎしてほしくなかったというのが本音です」とつづった。
また、性別は不明だが「私の会社ではあなた方の活動が原因で女子社員の募集を当面打ち切ることになりました。本気で働きたいという女性にとっても迷惑千万な話だとは思いませんか?」という意見もあった。
■問題の根深さは「女性が一枚岩でない」
「女性が一枚岩でないところがマタハラ問題の根深さ」と指摘するのは、マタハラNetの小酒部(おさかべ)さやか代表(37)。小酒部さん自身も、マタハラ被害に遭った経験を持つ。
「契約社員は時短勤務ができない」
「時短勤務ができないわけだから、どうしても仕事したい場合はアルバイトで来るしかないんじゃないの」
契約社員として雑誌の編集に関わっていた小酒部さんは、2度目の妊娠中、上司から退職勧奨を受けた。
「また何かがあって、穴空けられたり、現に今回も迷惑掛けていることは掛けているわけよ。実際に」
約4時間に及んだ自宅での上司とのやり取りでは、当時、小酒部さんが切迫流産と診断され、約1週間、自宅静養していたことを「迷惑」と受け止めているかのような発言もあった。
1度目の妊娠は、担当業務が忙しく、周囲に妊娠していることを言い出せないまま、深夜0時近くまでの長時間勤務を続けるうちに流産。2度目の妊娠でも、「おなかの赤ちゃんがどうなるか分からない中、仕事か妊娠かの選択を迫られ、非常に酷だった」(小酒部さん)という。結局、契約を更新してもらうために無理をして通常出社を続けたところ、再び流産した。
■マタハラドミノ倒し
小酒部さんが立ち上げたマタハラNetでは、寄せられた被害体験を共有するため、ホームページ上などに公開。さらに、マタハラを(1)昭和の価値観押し付け型(2)いじめ型(3)パワハラ型(4)追い出し型-の4類型に分類し、被害実態を発信している。
中でも小酒部さんが強調するのが、マタハラに端を発した悪循環である「マタハラドミノ倒し」だ。
妊娠・出産を理由に職場を解雇されると、子供を保育園に入れることができなくなり、子供に手がかからなくなるまで10年近く働けない。収入が絶たれ、経済的にも困窮する…。
「マタハラを受けることで、生活基盤が揺らぐ。1人の女性社員にマタハラをすると、それを見た他の女性たちは『自分もやられる』と感じるため、晩婚・晩産・少子化につながっていく」とマタハラの“伝染”にも警鐘を鳴らす。
■批判は「葛藤の裏返し」
一方、マタハラは必ずしも「男性対女性」という構図ばかりではない。
マタハラNetが被害女性186人を対象に調査を実施し、3月に公表した結果では、被害を受けた相手(複数回答)として「直属の男性上司」が53%で最多だったのに対し、「直属の女性上司」が22%、「女性の同僚」が18%だった。
労働問題に詳しく、調査に携わった圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」と指摘する。
その上で、同性からの批判的な意見は「これまで、仕事と子育ての二者択一を迫られてきた女性たちの葛藤の裏返し」とみる。
こうした厳しい見方とは対照的に、米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した。 受賞後、批判的な意見は減りつつあるというが「高齢化が進み、今後、男性上司も含めて介護休暇を取る人が増えていく中、妊娠したというだけで女性を切っていては企業は立ちゆかなくなる」と小酒部さん。「マタハラ問題を解決することが、女性のみならず労働者全体の選択肢を広げることにつながると訴えたい」と話している。
・・・引用終わり。
「マタハラドミノ倒し」とは穏やかではないが、・・・「米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した」・・・というのは、皮肉なものだ。このような厳しい見方(同性や同僚からの批判)は、「葛藤の裏返し」というのは本当だろう。ただ、立法に際し、既に議論されたこと、当然その前には研究や調査、将来の労働力の問題、人口構成の問題など、あらゆる観点から立法の準備をして国会で成立したわけであって、このような事情を知らずに、批判の矛先を妊娠した当人に向けることは、幼稚で考えが浅い行為だと言える。
個々の労働者自身も、普段から既に様々な労働法制度と社会福祉制度の恩恵を受けているのであって、これを維持するためにも少子化問題や、稼げる者は稼いでその資源を少しでも生産すべきは誰でもわかる自明の課題なのである。要するに、世の中、各人全てが、自分の食べるパンだけを得るために稼ぐのではだめなのであって、絶えず剰余の利益を富として生み出さなければならないわけだ。これが、各人のうちの誰かが病気やその他の都合で一時的に労働に従事できないとき、場合によっては身体の重大な損傷により労働できなくなっても、この剰余があれば生きてゆけるわけである。
これを、単なる所得移転(ゼロサムゲーム)だとして足を引っ張る議論をするのか?、それとも、この相互の社会補完制度こそが社会全体の「富の増大」であるとして祝福されるべきなのかは、少し考えればわかると思う。そして、これは既に立法の際に織り込み済みなのである。
そして、これに反するような事業主や経済活動の責任者には批判の矛先が向けられずに、休んだり、時短を利用する本人に向くのは、見当違いも甚だしいし、不幸なことだと思う。
この点、・・・圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」・・・と指摘している通りである。
妊娠・出産・子育てを経験することになる労働者と、その労働者が持つスキルを利用しないことは大きな損失だと思う。だから、先ず企業が支える。その企業を消費を通じて社会全体で支えることが必要だと思う。この逆は、まさに「共有地のジレンマ(コモンズの悲劇ともいう)」というべきで、自分の事業だけ種まきをぜず、他人がまいた種と水と肥料で育った田畑で収穫だけをやっていることになる。よって破たんは目に見えている。
このようなフリーライダーを許すべきではないと思う。種と水と肥料代、それに労賃を支払え!。
追記(2015.11.17)
本日「マタハラ降格裁判」の広島高裁差し戻し審判決が出たようだ。以下は、産経新聞http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG17H92_X11C15A1CC1000/より引用・・・
広島市の病院に理学療法士として勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたことが、男女雇用機会均等法に反するかが争われ、最高裁が違法と初判断した訴訟の差し戻し控訴審判決が17日、広島高裁であった。野々上友之裁判長は降格を適法とした一審・広島地裁判決を変更し、精神的苦痛による慰謝料も含めてほぼ請求通り約175万円の賠償を病院側に命じた。女性が逆転勝訴した。
最高裁は昨年10月、「妊娠による降格は原則禁止で、自由意思で同意しているか、業務上の理由など特殊事情がなければ違法で無効」との初判断を示し、社会問題化しているマタニティーハラスメント(マタハラ)をめぐって行政や事業主側に厳格な対応や意識改革を迫った。
差し戻し控訴審で病院側は、特殊事情として、女性に協調性がないなどと適格性を問題視したが、野々上裁判長はいずれの主張も退け「女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と病院側の対応を厳しく批判した。
また、復帰後の地位の説明がなかった点などを挙げ、降格を女性が承諾したことについて「自由意思に基づいていたとの客観的な理由があったとは言えない」と述べた。
判決によると、女性は、広島中央保健生活協同組合(広島市)が運営する病院のリハビリテーション科で、2004年から管理職の副主任を務めていた。第2子を妊娠した08年、軽い業務への配置転換を希望すると副主任を外され、復帰後も管理職でなくなった。
産休育休中を除き、降格後から11年の退職までの間の副主任手当計約30万円と、「職業人の誇りを傷つけられ、降格による職場での孤立やあつれきが退職を招いた」として慰謝料100万円などを認めた。
一審や差し戻し前の控訴審では、ともに女性の請求が退けられていた。
同組合は「上告するかどうか検討するが、最高裁が示した基準を重要な指針として病院運営に当たる」とコメントした。〔共同〕
・・・引用終わり。
なお、判決文が検索できたらアップしたいと思う。