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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

妊娠を理由に女性職員を解雇し是正勧告に従わなかった茨城県牛久市のクリニックの実名を、厚労省が公表

2015-09-06 23:14:04 | Weblog

 前回のエントリで、労働局の調停に出てこないとは、日航、大したツワモノだと思うが、これよりも、さらにツワモノが居たようだ。
 以下は産経(産経新聞 9月4日(金)16時17分配信 )より引用・・・

・・・妊娠を理由に女性職員を解雇し、国の是正勧告に従わなかったとして、厚生労働省は4日、茨城県牛久市のクリニックの実名を公表した。男女雇用機会均等法に基づきマタニティーハラスメント(マタハラ)をした事業主の実名を公表するのは初めて。
 厚労省によると、是正勧告に従わなかったのは、牛久市のクリニック「牛久皮膚科医院」(安良岡勇院長)。安良岡院長は2月、正職員の20代の看護助手が妊娠したと報告したところ、約2週間後に突然、「明日から来なくていい。妊婦はいらない」と退職を迫ったという。看護助手は「妊娠したばかりで、まだ働きたい」と訴えたが、院長が認めなかったため、茨城労働局に相談。
 労働局は妊娠や出産を理由に解雇することは男女雇用機会均等法に違反するとして、口頭や文書で3回にわたって是正勧告したが、院長は解雇を撤回しなかった。7月には塩崎恭久厚労相が大臣による初の勧告を行ったが、「妊婦はいらない」「(男女雇用機会)均等法を守るつもりはない」などと応じなかった。
 男女雇用機会均等法は、妊娠を理由に女性労働者を解雇や降格などの不利益な扱いをすることを禁止している。違反した場合は労働局長や厚労大臣による勧告などの行政指導が行われるが、罰則はない。
 同クリニックは「院長の体調不良により休診中」などとして、取材に応じていない。・・・

・・・というもの。

 で、その厚労省の公表とは下記のもの。
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000096409.html
報道関係者各位

男女雇用機会均等法第30条に基づく公表について
~初めての公表事案、妊娠を理由とする解雇~
 男女雇用機会均等法(以下「法」という)第30条において、法第29条第1項に基づく厚生労働大臣による勧告に従わない場合、その旨を公表できる制度が設けられていますが、このほど、初の事案が生じましたので、下記のとおり公表します。

事業所名 : 医療法人医心会 牛久皮膚科医院

代表者 : 理事長 安良岡 勇

所在地 : 茨城県牛久市牛久280 エスカード牛久4階

違反条項 : 法第9条第3項

法違反に係る事実: 妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回 しない。

指導経緯 : 平成27年3月19日 茨城労働局長による助言
        平成27年3月25日 茨城労働局長による指導
        平成27年5月13日 茨城労働局長による勧告
        平成27年7月9日 厚生労働大臣による勧告

【参考:男女雇用機会均等法第9条第3項について】

法第9条第3項では、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。

○妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの例

1 解雇すること。

2 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

3 あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

4 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

5 降格させること。

6 就業環境を害すること。

7 不利益な自宅待機を命ずること。

8 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

9 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

10 不利益な配置の変更を行うこと。

11 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。


・・・以上、厚労省HPより引用。

 なお、下記のような議論を同紙(産経デジタル)では掲載しているので引用させていただく・・・

・・・ 【日本の議論】http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/150421/lif15042110000001-n1.html

 妊娠や出産を理由に職場で不利益な取り扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)が社会問題化する中、被害者支援団体に女性から賛否両論が寄せられている。「女性が安心して働ける社会になってほしい」といった激励がある一方、「同性としていい迷惑」という声や、企業の女性採用への影響を懸念する意見も。団体が3月に公表した調査結果では、マタハラを受けた相手として「女性上司」が22%に上っており、「同性の無理解」という一面が浮かび上がった。(滝口亜希)

■「権利ばかり主張」…被害者団体に厳しい意見

 「妊娠したら今まで通りの仕事ができなくなるのが目に見えてるんだから、異動も降格も当たり前」

 「妊娠したら問答無用で特別扱いすべきだ、と思う人を理解できません」

 「私の夫の部下は妊娠して突然欠勤し、大変な目に遭いました」

 「出産に対して理解のある企業に入る努力もせず、女性であることを利用して権利ばかりを主張するのは、同じ女性として恥ずかしい限りです」

 マタハラ被害者らでつくる「マタハラNet」には女性からの厳しい意見が相次いで寄せられている。

 きっかけは昨年10月に最高裁が判決で「妊娠による降格などの不利益な扱いは原則として違法」との初判断を示した訴訟だ。昨年7月の団体発足から約5カ月間で、女性を名乗り、活動を批判する声が少なくとも10件以上寄せられた。

 マタハラ問題が注目されることで、企業が女性の採用を控えることを心配する意見もある。
 性別は明記されていなかったが、娘を持つ親から寄せられたのは「今後の女性の働く場所や就職活動などに影響するのではありませんか」というコメント。娘が就職活動中という男性は最高裁判決について「正直言えば、それほど優秀ではない娘を持つ父親としては、こんなに大騒ぎしてほしくなかったというのが本音です」とつづった。

 また、性別は不明だが「私の会社ではあなた方の活動が原因で女子社員の募集を当面打ち切ることになりました。本気で働きたいという女性にとっても迷惑千万な話だとは思いませんか?」という意見もあった。

■問題の根深さは「女性が一枚岩でない」

 「女性が一枚岩でないところがマタハラ問題の根深さ」と指摘するのは、マタハラNetの小酒部(おさかべ)さやか代表(37)。小酒部さん自身も、マタハラ被害に遭った経験を持つ。

 「契約社員は時短勤務ができない」

 「時短勤務ができないわけだから、どうしても仕事したい場合はアルバイトで来るしかないんじゃないの」

 契約社員として雑誌の編集に関わっていた小酒部さんは、2度目の妊娠中、上司から退職勧奨を受けた。

 「また何かがあって、穴空けられたり、現に今回も迷惑掛けていることは掛けているわけよ。実際に」

 約4時間に及んだ自宅での上司とのやり取りでは、当時、小酒部さんが切迫流産と診断され、約1週間、自宅静養していたことを「迷惑」と受け止めているかのような発言もあった。
 1度目の妊娠は、担当業務が忙しく、周囲に妊娠していることを言い出せないまま、深夜0時近くまでの長時間勤務を続けるうちに流産。2度目の妊娠でも、「おなかの赤ちゃんがどうなるか分からない中、仕事か妊娠かの選択を迫られ、非常に酷だった」(小酒部さん)という。結局、契約を更新してもらうために無理をして通常出社を続けたところ、再び流産した。

■マタハラドミノ倒し

 小酒部さんが立ち上げたマタハラNetでは、寄せられた被害体験を共有するため、ホームページ上などに公開。さらに、マタハラを(1)昭和の価値観押し付け型(2)いじめ型(3)パワハラ型(4)追い出し型-の4類型に分類し、被害実態を発信している。

 中でも小酒部さんが強調するのが、マタハラに端を発した悪循環である「マタハラドミノ倒し」だ。

 妊娠・出産を理由に職場を解雇されると、子供を保育園に入れることができなくなり、子供に手がかからなくなるまで10年近く働けない。収入が絶たれ、経済的にも困窮する…。

 「マタハラを受けることで、生活基盤が揺らぐ。1人の女性社員にマタハラをすると、それを見た他の女性たちは『自分もやられる』と感じるため、晩婚・晩産・少子化につながっていく」とマタハラの“伝染”にも警鐘を鳴らす。

■批判は「葛藤の裏返し」

 一方、マタハラは必ずしも「男性対女性」という構図ばかりではない。

 マタハラNetが被害女性186人を対象に調査を実施し、3月に公表した結果では、被害を受けた相手(複数回答)として「直属の男性上司」が53%で最多だったのに対し、「直属の女性上司」が22%、「女性の同僚」が18%だった。

 労働問題に詳しく、調査に携わった圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」と指摘する。

 その上で、同性からの批判的な意見は「これまで、仕事と子育ての二者択一を迫られてきた女性たちの葛藤の裏返し」とみる。

 こうした厳しい見方とは対照的に、米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した。 受賞後、批判的な意見は減りつつあるというが「高齢化が進み、今後、男性上司も含めて介護休暇を取る人が増えていく中、妊娠したというだけで女性を切っていては企業は立ちゆかなくなる」と小酒部さん。「マタハラ問題を解決することが、女性のみならず労働者全体の選択肢を広げることにつながると訴えたい」と話している。

・・・引用終わり。

 「マタハラドミノ倒し」とは穏やかではないが、・・・「米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した」・・・というのは、皮肉なものだ。このような厳しい見方(同性や同僚からの批判)は、「葛藤の裏返し」というのは本当だろう。ただ、立法に際し、既に議論されたこと、当然その前には研究や調査、将来の労働力の問題、人口構成の問題など、あらゆる観点から立法の準備をして国会で成立したわけであって、このような事情を知らずに、批判の矛先を妊娠した当人に向けることは、幼稚で考えが浅い行為だと言える。
 個々の労働者自身も、普段から既に様々な労働法制度と社会福祉制度の恩恵を受けているのであって、これを維持するためにも少子化問題や、稼げる者は稼いでその資源を少しでも生産すべきは誰でもわかる自明の課題なのである。要するに、世の中、各人全てが、自分の食べるパンだけを得るために稼ぐのではだめなのであって、絶えず剰余の利益を富として生み出さなければならないわけだ。これが、各人のうちの誰かが病気やその他の都合で一時的に労働に従事できないとき、場合によっては身体の重大な損傷により労働できなくなっても、この剰余があれば生きてゆけるわけである。
 これを、単なる所得移転(ゼロサムゲーム)だとして足を引っ張る議論をするのか?、それとも、この相互の社会補完制度こそが社会全体の「富の増大」であるとして祝福されるべきなのかは、少し考えればわかると思う。そして、これは既に立法の際に織り込み済みなのである。

 そして、これに反するような事業主や経済活動の責任者には批判の矛先が向けられずに、休んだり、時短を利用する本人に向くのは、見当違いも甚だしいし、不幸なことだと思う。
 この点、・・・圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」・・・と指摘している通りである。

 妊娠・出産・子育てを経験することになる労働者と、その労働者が持つスキルを利用しないことは大きな損失だと思う。だから、先ず企業が支える。その企業を消費を通じて社会全体で支えることが必要だと思う。この逆は、まさに「共有地のジレンマ(コモンズの悲劇ともいう)」というべきで、自分の事業だけ種まきをぜず、他人がまいた種と水と肥料で育った田畑で収穫だけをやっていることになる。よって破たんは目に見えている。
 このようなフリーライダーを許すべきではないと思う。種と水と肥料代、それに労賃を支払え!。


 追記(2015.11.17)

 本日「マタハラ降格裁判」の広島高裁差し戻し審判決が出たようだ。以下は、産経新聞http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG17H92_X11C15A1CC1000/より引用・・・

 広島市の病院に理学療法士として勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたことが、男女雇用機会均等法に反するかが争われ、最高裁が違法と初判断した訴訟の差し戻し控訴審判決が17日、広島高裁であった。野々上友之裁判長は降格を適法とした一審・広島地裁判決を変更し、精神的苦痛による慰謝料も含めてほぼ請求通り約175万円の賠償を病院側に命じた。女性が逆転勝訴した。

 最高裁は昨年10月、「妊娠による降格は原則禁止で、自由意思で同意しているか、業務上の理由など特殊事情がなければ違法で無効」との初判断を示し、社会問題化しているマタニティーハラスメント(マタハラ)をめぐって行政や事業主側に厳格な対応や意識改革を迫った。

 差し戻し控訴審で病院側は、特殊事情として、女性に協調性がないなどと適格性を問題視したが、野々上裁判長はいずれの主張も退け「女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と病院側の対応を厳しく批判した。

 また、復帰後の地位の説明がなかった点などを挙げ、降格を女性が承諾したことについて「自由意思に基づいていたとの客観的な理由があったとは言えない」と述べた。

 判決によると、女性は、広島中央保健生活協同組合(広島市)が運営する病院のリハビリテーション科で、2004年から管理職の副主任を務めていた。第2子を妊娠した08年、軽い業務への配置転換を希望すると副主任を外され、復帰後も管理職でなくなった。

 産休育休中を除き、降格後から11年の退職までの間の副主任手当計約30万円と、「職業人の誇りを傷つけられ、降格による職場での孤立やあつれきが退職を招いた」として慰謝料100万円などを認めた。

 一審や差し戻し前の控訴審では、ともに女性の請求が退けられていた。

 同組合は「上告するかどうか検討するが、最高裁が示した基準を重要な指針として病院運営に当たる」とコメントした。〔共同〕

・・・引用終わり。

 なお、判決文が検索できたらアップしたいと思う。

日本航空の客室乗務員が同社を「マタハラ」で提訴

2015-09-02 22:03:02 | Weblog
 日本航空の客室乗務員、「マタハラ」で提訴 会社は争う姿勢と(フジテレビ系(FNN) 9月2日(水)20時50分配信)報じられている。以下は、その記事を引用。

 日本航空の客室乗務員・神野知子さん(40)は、2014年8月に妊娠が発覚すると、会社から一方的に休職を命じられる、「マタニティーハラスメント」を受けたとして、およそ340万円の慰謝料などを求め、東京地裁に提訴した。
日本航空には、妊娠した客室乗務員は、会社が認めた場合に限り、負担が少ない地上勤務へ異動できる制度があるが、神野さんの地上勤務は「ポストがない」との理由で、認められなかった。
神野さんは、法廷で「母を扶養している中、突然の無給で経済的に厳しくなった」と述べた。
神野さんは「これから妊娠・出産続く女性たちが、つらい思いをしないでいければいいなと思います」と話した。
日本航空は、「客室乗務員の本来的業務は、航空機に乗務することで、地上勤務は特別な対応」と争う姿勢。・・・引用終わり。

 少し調べたが下記のような報告があるので紹介したい。なお、関連個所だけを抜粋引用させていただく。
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/004/006/shiryo/05020301/002.pdf
 航空機乗務員の疫学研究
(妊娠関連)
第5回 航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する検討ワーキンググループ2005年1月25日日本宇宙航空環境医学会 飛鳥田一朗

 客室乗務員の妊娠に関する疑問点
• 胎児死亡(流産率・死産率)は一般人に比
べて高いのか?
• 他の職業婦人と比べて高いのか?
• 妊娠中に被ばくする宇宙放射線量は?
• 妊娠している客室乗務員はフライトを中断
すべきか?、継続してもよいか?

文献から見た客室乗務員と妊娠
• 客室乗務員は非職業人に比べて胎児死亡の危険が高い。
‐ RR 1.9 (95%CI:1.3-2.7)
・Daniel, W.E. et al Aviat. Space Environ. Med., 61, 840-844, 1990
– RR 1.8 (95%CI:1.3-2.4)
・Vaughan, T. L et al J. Occup. Med., 26, 676-678, 1984
• しかし、職業婦人と胎児死亡率に差はない(RR1.3, 95%CI:0.9-1.9)。
・Daniel, W.E. et al Aviat. Space Environ. Med., 61, 840-844, 1990
• 低体重時(RR1.3、95%CI:0.6-2.6) 、未熟児(RR1.0、95%CI:0.7-1.5) 、アプ
ガースコア-1分値(RR0.8, 95%CI:0.7-1.3)、男女比(RR0.9、95%CI:0.8-1.1)
は、一般人と差を認めなかった
・Daniel, W.E. et al Aviat. Space Environ. Med., 61, 840-844, 1990
• 流産した客室乗務員は、出産した乗務員に比べて乗務時間が長かった。
(student’s t=-3.30, P=0002)
• Cone JE, Occup Environ Med. Mar;40, :210-6 1998
・妊娠確定後全員乗務停止
・妊娠結果の検討
- 1995年4月から2年間に妊娠が確定した474人の客室乗務員
- 全員既婚の日本人国際線乗務員
- 対象妊娠数480件(6人は2回妊娠)
- 妊娠確定時の平均年齢: 30.9 歳(22-42歳)
・35歳未満:392人(81.6%)
・35歳以上:88人(18.4%)
- 乗務から離脱した時期
・平均妊娠週数: 6.5 週(3週から24週)
- 乗務離脱後
・産前休職:415(86.5%)
・地上業務: 65(13.5%)

妊娠の結果(JAL)
• 胎児死亡率は14.8%( 71件)
• 胎児死亡と切迫胎児死亡の多くは妊娠12週未満で発生
– 全胎児死亡の中で早期流産の占める率は87.3%
– 全切迫胎児死亡中で切迫流産は75.6%(96件)

胎児死亡に関する報告
• 自然流産率(妊娠20週未満の胎児死亡)は
全妊娠の10-15%
– メルクマニュアル17版1999
• 自然流産全率(妊娠20週未満の胎児死亡)
は妊娠の15%
– 新女性医学体系23 異常妊娠1997

<中略>

妊娠確定後の地上勤務の影響
・対象:464人
- 妊娠確定と同時に流産したケースは除外
・胎児死亡率の比較
- 地上勤務群:11% (7/65)
- 産前休職群:12% (48/399)

まとめ(JAL)
・客室乗務員の自然胎児死亡率は14.8%(71件/480件)
で、早期流産は胎児死亡全体の87.3%を占めていた。
・妊娠確定時の年齢が35歳以上の対象者は全体の18%を
占め、胎児死亡の相対危険度は35歳未満の乗務員に比
べ2.92倍であった。
・流産の既往と喫煙は胎児死亡と関連性は認められな
かった。
・妊娠中の宇宙放射線被ばく量を最大に推定しても、対
象者の99%がICRP勧告の2mSv以下であった。
・産前地上勤務は妊娠の結果に影響を与えていなかった。

妊娠している乗務員はフライトを中断すべきか?
• 宇宙放射線被ばく量の観点
– ICRP勧告(2mSv/妊娠中) :妊娠18週まで乗務可能
– NCRP勧告(0.5mSv/妊娠中1ヶ月あたり):通常の太陽フ
レア活動であれば、超過する危険はほとんどなし
• 産業医学的観点
– 切迫流産のほとんどは妊娠初期に起こるため、妊娠確定
後、速やかにフライト停止すべきである。
– 産前地上勤務は、妊娠結果に影響を与えない。
• 希望者には、産前地上勤務は可能

・・・・以下省略。

・・・ということで、妊娠確定後は速やかにフライトを停止すべきだが、産前地上勤務については妊娠結果に影響を与えていないそうである。但し、上記報告には、切迫流産の危険が最も高いとされる妊娠初期における、他の業種とフライト業務との比較については、宇宙放射線被爆に限って報告され、なお且つ当該被爆と妊娠結果については報告がない。唯一、産業医学的観点として「切迫流産のほとんどは妊娠初期に起こるため、妊娠確定後、速やかにフライト停止すべきである」としているだけなので、この「フライトを中止すべき」とする、他の業務の危険と異なるような、フライト業務に関連する危険については、宇宙放射線被爆以外は何ら言及されていない。この点で当該「産業医学的観点たる『妊娠確定後、速やかにフライト停止すべき』との結論には疑問が残ることになる。
 尤も、飛行機に限らず、公共交通機関の船・車・航空機の乗務員には、密閉された空間における不特定多数の人員に対する、保護責任や警察権という特別行政権(船長や機長の指揮権から)をも含む保安要員(場合により逮捕等の有形力の行使も考えられる)としての業務があるわけなので、これら業務に内在する制約が法律上存在すると解すべき余地はあるだろうと思う。問題は、この内在する制約があるとすれば、その射程がどの程度なのか?ということになる《9.8追記》。

 ところで、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第9条第3項や育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第10条等では、妊娠・出産、育児休業等を「理由として」解雇等の不利益取扱いを行うことを禁止しており、その例外としては、平成26年10月23日の最高裁判所判決があるのでそのポイントを下記に整理すると・・・

・・・降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、
○その必要性の内容・程度、降格による有利・不利な影響の内容・程度に照らして均等法の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき
○軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利な影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向等に照らして、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき・・・

・・・ということであるので、この判例が既に確定しており、これを厚生労働省もHPなどに掲載していることからすると、少なくとも行政解釈としても通用(少なくとも啓蒙のための資料として用いていることは間違いない)しているとみられる。http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089158.pdf

 そうだとすると、少なくとも地上勤務に配置転換することは、母子保護(勿論、労働安全も)の観点からも、業務随行上の観点からも、必要な措置であることは間違いなさそうである。

 問題は、「地上勤務の枠がないから」という理由のみで、休職(これは、百歩譲っても「会社都合休業」にすべきところ休業ではない休職)扱い、即ち給与が無くなるか著しく減額という、明らかな不利益扱いが認められるかどうかということだが、この点、上記判例(判例に加えて行政解釈も同じと言ってもよい)に従えば、降格させる場合でも、①均等法の趣旨・目的に実質的に反しないこと、②軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利の影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向等に照らして、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由・・・が必要なのである。
 なお、j前述の厚労省資料では下記のような違法の事例を示している。
不利益取扱い(「違法」となる例)
・解雇
・雇い止め
・契約更新回数の引き下げ
・退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要
・降格
・減給
・賞与等における不利益な算定
・不利益な配置変更
・不利益な自宅待機命令
・昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う
・仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をする

 日航には、上述の通り『妊娠した客室乗務員は、会社が認めた場合に限り、負担が少ない地上勤務へ異動できる』とあるが、しかしこれでは、冒頭報じられたような・・・「地上勤務の枠がないとの理由による休職」・・・は、減給・不利益な配置変更・不利益な自宅待機命令・仕事をさせないという各例に当たる他、労働者の自由な意思に基づくと認められるに足る合理的理由がない降格=不利益扱いとなる(なお、降格には、一時的な配置換えや減給も含まれると解される)。
 また、もう一つ根拠法として、労基法の規定もある。即ち、労基法65条3項には、「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。」 とあるから、事業者は、無給の休職扱いではなく、使用者の義務として、その他の軽易な作業を与えたうえ、引き続き所定の賃金を支払わなければならない、と、条理上は解されよう(http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=5&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S22HO049&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1)。《9/12追記》
 よってこのような社内規定そのものが公の秩序に反していると思われるから、日航は、この点、誤った社内規定に基づいた(如何なる規定・労使合意があろうとも公序に反し無効な規定により)労務管理をしているように思われるが如何か。
 また、日航は、「客室乗務員の本来的業務は、航空機に乗務することで、地上勤務は特別な対応」と争う、というが、日航の事業(商行為)は、航空機に乗務する仕事だけではないから、この反応は普通ではないというか、公共の労働市場(=社会一般)に対する答えにはなっていないと思う。

 何れにしても、この裁判は注視していきたいと思う。
 なお、原告ご本人のコメントを含めて下記に掲載されているので参照されたい。
 http://www.kohkuren.org/99_blank032.html#CCU
・・・ はじめに相談に行ったのは市役所。雇用機会均等室の連絡先を教えられました。次に労基署。担当者は、「妊娠したらいきなり無給というのは社会問題じゃないですか」。労基法第26条には「会社都合で休職させた場合は、平均賃金の6割を支払わないといけない」とあります。さっそく会社に6割の賃金保障を請求することにしました。
 日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)執行委員でもあった神野さんは同じような悩みを抱えている人がいるかもしれないと考え、組合ニュースに経過を報告しました。すると沢山の人たちから励ましの声が寄せられました。ところが喜びも束の間、いきなり始まった無給生活がズシリとのしかかります。給与天引きだった生命保険料は一括請求され、住民税の請求もウン十万円。社外の友人は「妊娠したら無給にして仕事も与えないなんて、ありえない会社だね。それってマタハラじゃない」。社内の友人は「無給では出産費用や生活費がまかなえないので、退職して退職金を費用に充てる人が少なくないようよ」。
 経営協議会では植木社長に訴えました。植木社長は「女性に少しでも輝いてほしい。希望すれば全員にというのは非常に難しいが、皆さんの期待に添えるような努力をするのが会社の務めだと考えています」。
 しかし一向に改善の兆しが見えないことから、神野さんは厚労省の雇用機会均等室に調停を申し込みました。調停はすぐに受理されました。そのまま進めば調停日に本人と会社側が呼ばれ、両者の言い分を調停委員が判断し和解案などが出されるはずでした。神野さんの要求は①出産日ギリギリまでの地上勤務、②妊娠がわかってから今まで本来働いていればもらえるはずの賃金満額。ところが会社は調停への出席を拒否。均等室の担当者は何度も会社を説得したようですが会社は拒み続け、結果、調停は打ち切りになりました。まれに、調停に呼び出されても出席しないブラック企業があるとのことですが、JALのような大企業が出席しないケースは驚きだったようです。
 神野さんは言います。「2010年の破綻後、2000名の客室乗務員を採用していますが、一方で年間600人も退職しています。女性が多く活躍するJALという会社で、本気で女性の活躍を考えているのであれば、妊娠による不利益などあってはならないと思います。多くの方が私と同じつらい思いをしないように、泣き寝入りをしないで、会社や厚労省に解決を求めていきます」・・・。

 しかし、労働局の調停に出てこないとは少々呆れた。まあ、日航としての姿勢は、会社と各労働者における個別紛争には自主的に取り組む姿勢がない、ということだと思う。これでは何れ社会から淘汰されるのではないかと思う。何故なら、個別的労働紛争の解決は、先ずは当事者同士の話し合いが基本である。調停をすっ飛ばして、「裁判でど~ぞ」というのは、普通の大企業では考えられないと思う。
 また、たくさんある日航の他の労組はどう考えているのかな。