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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

労働者派遣法改正に際して「職安法44条と労働者派遣法24条の2」についての問題整理点

2008-11-05 00:34:40 | Weblog
 本稿は、労働者派遣法改正に際し、現行制度の矛盾点と思われる事項について当ブログの5月に掲載したものを整理して掲載するものである。

 文章整理に先立ち、現行の労働者派遣法は「反貧困」(岩波新書)の著者である湯浅誠氏の言葉を借りれば、「“派遣労働においてもっとも問題なのは・・・派遣労働者は、工場の前で労働者としての権利、生存権を置き去りにしてから、(工場へ)入る”」との表現をさせるほど深刻であり、この法律(現行制度)は、派遣労働者・請負・下請労働者等アウトソーシング勤労者全てにとって、戦後最悪なものである。

 即ち、派遣労働者が、日々の労働のなかで圧倒的弱者の立場に甘んじているのはなぜか。思うに、昨年来問題になったグッドウィルの「データ費徴収」に代表されるごとく、派遣労働者が派遣(供給)会社の搾取に抵抗できない理由は、その就労職種が単純労働であり、いくらでも労働者の代替が効く職種であるために、労働者各人にしてみれば、仕事を失う恐怖に縛られているからであるという点を、先ず確認しておく必要があろう。

 また、職安法・労働者派遣法とも、労働者保護と労働市場における需給調整を保護法益としているものではあるが、一方で、これを“刑事罰という威嚇”により実現しようとしているからには、その処罰範囲については、該当条文の明文規定によることはもちろん、立法意志に基づき適正(厳格且つ保護法益に対して有効)に解されなければならない。<11月10日加筆>
 そのような意味でも、両法律の罰則条文の適用にあたっては、処罰範囲と処罰根拠を、法条競合の有無も含めて明らかにした上で、これまでの取締りや指導が公正(公平かつ比例原則に基づくもの)であったか否かを検討する必要があると考えられるのである。<11月10日加筆>


 1.労働者派遣、労働者供給とは法的にどういうものであろうか?

 「派遣法第2条第1号・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」。
 これに対し「職安法第4条第6項・労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」。

 それでは、派遣元と雇用関係が認められる労働者(事実、労働局は派遣法に違反していても派遣元と労働者との雇用関係は認められるとている)を2重派遣した場合は如何であろうか。即ち、労働者派遣の免許を持たない「A」が、労働者「X」を2重派遣する意思を持ち雇用契約を結び、これを「B」に派遣し、この「B」がさらに「C」に2重派遣した場合である。
 労働局は、これを“職安法44条違反”とするのである。理由は、Bと労働者Xが雇用関係に無く(つまり他人)、Cに供給した「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事」させたとするのである。
 そうであろうか?・・・私は違うと思う。

 もし上記理論に従えば、BとCとの供給契約が“職安法”に違反する行為であって、Xと雇用関係のあるAは共犯か、もしくはAが故意に企てたとすれば、このAが職安法違反でBは共犯となろう(なお、職安法44条は、1条の規定で供給した者と、供給を受けた者との行為を分けて2罪を規定していると考えられる。これは例えば、刑法で贈賄罪と収賄罪とを構成要件で分け2罪規定しているのと同じである。その意味で、Cは、独立した1罪としてカウントできるであろう)。
 ところが、ここで派遣法の条文が問題となる。即ち、派遣法2条1号で、雇用関係があれば職安法ではなく派遣法が適用されると言っていおり、条文中段で「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい」というからには、“他人”と“当該他人”が一致さえしていれば、多重派遣も労働者派遣なのである。
 かくして、上記理論に基づく限り、Xの雇用主たるAを職安法44条違反とすることは不可能ということとなる。Cにあっては違法に派遣を受けた派遣法24条2項違反ではあるが、派遣を受けた者には罰則規定すらない。
 これでは「比例原則」に反するからと言って、ではAやCを、他人であるBの犯罪を実現した共犯として裁くか、または、Bを“故意ある道具”として使った正犯としてはどうか、というと、これは派遣法が“雇用関係の下に・・・他人のために”働かせるのは労働者派遣である、としているから、Aを、労働者供給の行為者として裁くことは、罪刑法定主義に反するし、Cについても特別関係ないし択一関係により(←ここは難しい・・労働局から2重派遣の告発を受けた検察官に是非聞いてみたいところだが、何れにせよ“かすがい現象”となり・・)Aからの労働者派遣である以上、処罰規定は存在しないこととなる。私は、労働局が言うような“雇用関係”を認める限り、補充関係でもなければ、包括1罪でもないと思う。
 なお念のため、職安法は「派遣に当たる場合は派遣法を適用せよ」と、派遣法は「雇用関係があれば派遣である」としているから、労働者と雇用関係がある限りにおいては、職安法違反を問うことは不可能となる。

 派遣法も問題だが、これまでの法律運用にも問題があったと私は考えている。そして、そもそも違法な人貸しを前提とした雇用契約・労働契約は、もともと無効だと考えている。

 もっと労働者の保護に資するように、派遣法の改正はされなければならないが、運用にも問題があったのなら、労働者派遣法という法律の成文規定のみに責任を押し付けた改正議論は危険だろう。

 このまま、『法律の適用(処罰法の適用)の問題』というものを洗い出さずにやってしまうと、又もや、改正された法律の運用でも失当を犯すこととなる。


 2.二重派遣の罪数はどうなるのか?

  ところで、労働局が言うように派遣元と労働者に雇用関係を認めた上で、2重派遣を職業安定法44条違反であるとした場合、罪数はどうなるのであろう?

 先ず、1罪と複数罪の区分という問題がある。これいついては、構成要件充足の数を基準とする「構成要件標準」説(通説)を採用するとして、入り口論では2罪成立の可能性を残すと言う判断だろう。
 そうすると続いて“法条競合”という問題があるように思われる。
 1.特別関係
 数個の構成要件が一般法と特別法の関係に当たるもの(例としては、横領罪と業務上横領罪が挙げられる。)。特別法に当たる構成要件に該当する場合には一般法に当たる構成要件には該当しない。
 2.補充関係
 数個の構成要件が補充・被補充関係に当たるもの(例としては、未遂罪と既遂罪が挙げられる。)。被補充的な構成要件に該当する場合、補充的な構成要件には該当しない。
 3.択一関係
 1つの行為に適用可能な構成要件が複数存在するが、それらが両立しないもの(例えば横領罪と背任罪)。そのうちの1つの構成要件のみに該当する。

 私は、雇用関係が認められる場合、多重派遣でも派遣法違反であると考えているから「1.」の特別関係と理解している。が、労働局は職安法違反とするのであるから、最初の1次派遣が派遣法違反、次の2次派遣が職安法違反であろうか?・・・

 労働局による告発を受けた検察官は、果たしてどのように処理するのであろうか、聞いてみたいところだ。

 派遣法と職安法・・・必要的共犯について

 「豊田兼彦」氏は、『必要的共犯についての一考察(2) 』において「二/特殊問題 -複数の法益を保護する犯罪への関与」の節で、以下のように指摘している。<以下はその引用>

  (1)「構成要件該当結果の惹起」に共犯の処罰根拠を求めるならば、「可罰的な共犯は、正犯行為の不法を構成する利益の『すべて』が共犯者に対しても保護されている場合にのみ存在する(4)」と解するのが、一貫した解釈であろう。一部の法益に関してのみ被害者である関与者も、完全な被害者と同様に、他の法規範に違反しないかぎり、共犯として処罰されることはない。

 (2)複数の法益を「択一的」に保護する犯罪については、被害者的な地位にある関与者も共犯として可罰的と解される余地がある。

 さらに、『第三節/特定の者を構成要件から除外している犯罪-犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪』の節で、以下のように整理している。

 (1)判例は、「防禦権の濫用」などを根拠に、これまで一貫して犯人に教唆犯の成立をみとめてきた。
 犯人蔵匿・隠避罪について「単に犯人が逃げ隠れするのと、他人を身代わり犯人に仕立てるのとでは、刑事司法作用を害する程度にかなりの差がある。それ故、自ら行えば不可罰の行為を教唆することが可罰的となり得るのである(7)」とし、証拠隠滅罪について「『被疑者・被告人として政策的に保護すべき範囲』を超えた行為に出た場合には、処罰されることになるのである(8)」とされているのが注目される。<中略>

 しかし、これらの見解に対しては、犯人は正犯として期待可能性がない以上、共犯としてもやはり期待可能性はない。したがって、犯人は教唆犯としても不可罰と解すべきである、とする見解も有力である。<中略> 大谷教授も、「自己が他人を教唆して犯人蔵匿・証拠隠滅罪を犯させるのは、みずからを蔵匿させるについて他人を利用するにほかならず、また、自己の刑事事件につき他人を教唆して証拠隠滅を犯させるのは、自己の証拠隠滅行為について他人を利用するに他ならないから、犯人・逃走者みずからが犯人蔵匿・証拠隠滅を行った場合と同一の根拠で、この場合の共犯を不可罰とするのが妥当である。通説は、犯人・逃走者みずからが犯人蔵匿・証拠隠滅を行う場合と他人にこれを行わせる場合とでは情状が異なるとするが、期待可能性が乏しいという点では同じであると解すべきである」と主張されている。<中略>

 「惹起説」(「共犯者からみた構成要件該当結果の惹起」に共犯の処罰根拠を求める見解)からは、どのように解決されるのであろうか。
 (2)「惹起説」からの帰結    
 「惹起説」とは、共犯固有の不法、つまり「共犯者からみた構成要件該当結果の惹起」を共犯処罰の必要条件とする見解である。共犯の処罰根拠を「共犯自身の攻撃からも保護されている法益の侵害」に求める見解が「惹起説」である、といってもよい。このような見解に立つならば、犯人による自己蔵匿・証拠隠滅の教唆は不可罰となる。これが「惹起説」からの帰結である。 
 もっとも、このような説明の仕方に対しては、「刑事訴追および刑の執行という法益はやはり犯人に対しても保護されているのではないか」との疑問が、ヴォルターとゾヴァダから提起されている。たしかに、法益を「司法作用一般」ととらえるのが正しい理解であるとすれば、彼らのいうとおりかもしれない。しかし、ここで問題となる法益は、彼らが理解するような「司法作用一般」ではなく、あくまで「犯人蔵匿・証拠隠滅罪によって保護されている司法作用」である。そして、犯人蔵匿・証拠隠滅罪の構成要件から犯人が除外されている以上、この法益は犯人の攻撃からは保護されていないと解すべきではなかろうか。<以上引用・・立命館法学 1999年2号(264号)より> http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/99-2/Toyota.htm  <長いので以下省略。>・・・

 上記指摘は非常に重要だと思う。職安法と派遣法について、2つの法律に規定される条文の関係が、特別関係か?、それとも択一関係か?を検討する際に考慮されるべきだろう。

 つまり、職安法で労働者派遣が除外されていることをもって単純に“択一関係”だとしてよいとするのには疑問があり、仮に択一関係であっても、共犯者についての取り扱いは必ずしも単純ではないと言うことだろう。

 派遣元(供給元)と派遣先(供給先)。昨今、世間で騒がれている偽装請負は、どのように処断されるべきなのだろう。そして、派遣法改正議論の中で、これまでの違反ををどのように整理すべきであろう。


 以上の問題点を国会議員は先ず知る必要があり、そして国民にむけ、これを自らの寄って立つ理論により解明し、説明する必要があるだろう。
 立法(改正)議論は、その後にすべきである。
 なお、政府が平成20年10月29日(厚生労働省)発表した“労働者派遣法の一部を改正する法律案要綱”(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/10/h1029-1.html)は、上記について、まったく整理されていない。


 修正・加筆履歴《11月10日》