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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

職安法44条違反(労働者供給)と労基法6条違反(中間搾取)・・・牽連犯

2010-04-12 23:48:17 | Weblog
 職業安定法は、職業の紹介・募集・供給を規定する法律である。その機能は、①公共職業安定所やその他の職業安定機関を国家(=行政国家という概念)が独占して職業紹介事業等を行うこと、②民間の行う職業紹介事業等の適正な運営を確保すること等を厳しく規制すると同時に、③各求職者の能力に適合する職業に就く機会を与え、④産業に必要な労働力を充足することで、職業の安定を図り、経済と社会の発展を目指すことである、と定義づけられよう。

 ところで、職業選択の自由は、基本的人権の一つであり、日本国憲法第22条第1項に規定される。これは自由権(経済的自由権)の一つである。
 しかし、憲法には「公共の福祉に反しない限り・・・職業選択の自由を有する(22条)」とあり(なお、後述の職安法は「2条 何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる」とし、“公共の福祉”を理由にこの自由を規制され得るということが予定されている)、ここでは社会権と対立する部分も多く、むしろ“公共の福祉”による規制がかけられ、このような職業選択の自由の制約として、例えば、退職後の競合禁止特約(←但し適法であればと言う前提・・即ち、法律により保護される具体的利益であって、単なる会社の利益保護を目的とした契約によって自由権が剥奪されることを許すわけではない)なども見うけられる。《4月15日一部修正》
 社会権を保護するためには、労働市場を私的自治に任せておくだけでは護れない「弱い個人」の利益を具体的に保護することが人間労働の発展した近代国家においては不可欠であるとの要請から、“法律により保護されるべき具体的利益”の一つとして『職業安定法』が制定されるに至ったのだと考えることが出来る。
 これは、「力」や「地位」の不均衡のために“失われようとしている平等を護る”という福祉国家の理念である(実質的平等という概念)。《4月29日語句追加》

 さて、労働法の教科書には(罰条の解説が殆ど無い・・・尤も、刑法を勉強すれば何となくは解るが・・・)、刑法各論のような構成要件的行為論が殆ど述べられていないので、自分なりに整理する目的で以下に考えてみたい。
 なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれないが・・。

 本エントリの表題(・・の一部)である職安法44条は「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」とし、法定の理由に基づく場合以外の“労働者供給事業”を禁止しており、“労働者供給”とは、同法4条の6項「この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号 に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。」としている。罰則は同法64条「一年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」、同条の9「44条の規定に違反した者 」として、同法の罰則中2番目に重い規定である。

 さらに、もう一つ労基法6条においても「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」と規定する。本条は、第三者が労働者と使用者の直接的労働関係の開始または存続に介入し、手数料などの名目で中間搾取を行うことを禁止しているものである。
 本条は、「個人の人格の尊重」・「基本的人権の確立」を旨とする憲法の理念にのっとり、我が国の労働関係に残存する封建的弊習である親分子分の従属関係や、労働者の人格を無視した賃金の“ピンハネ”等を排除し、「労働関係の開始・存続を労働者と使用者の直接関係によって決定する」ことを目的としている(昭23.3.2 基発381)。
 「何人も」とは、他人の就業に介入して利益を得る第三者であって、本条の適用を受ける事業主に限定されず、個人・団体または公人であるか私人であるかを問わず(昭23.3.2 基発381)、法人の場合には、当該法人のために実際の介入行為を行った行為者である従業員が処罰される(昭34.2.16 基収8770)。
 「業として」とは、営利を目的として、同種の行為を反復継続することをいい、1回の行為でも、反復継続して利益を得る意思があれば業に該当する(昭23.3.2 基発381)。
 「利益」とは、手数料、報償金、金銭以外の財産等の如何なる名称であるかを問わず、有形無形であるかを問わない。また、使用者から利益を得る場合だけに限らず、労働者または第三者から利益を受ける場合も含む(昭23.3.2 基発381)。
 「法律に基いて許される場合」とは職業安定法および船員職業安定法の規定に基づき、厚生労働大臣または国土交通大臣の許可を得て行う有料職業紹介業、委託募集、労働者供給事業のことをいう。なお、職業安定法および船員職業安定法により許された場合であっても、それぞれの法律で認められている手数料、報酬等の他に利益を受けるときは、本条に違反する。
 ところで、労働者派遣は、違法とされた労働者供給事業の一部を取り出して適法化したものであるが、派遣元と労働者との間の労働契約関係、派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体としての労働関係となり、労働関係の外にある第三者が他人の就業に介入するものではいから中間搾取とはならない(・・・というのが当局の解説である)。
 本条に違反した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金(118条)に処され、労働基準法で2番目に重い罰則が適用されることとなる。

 上記二つの条文の関係(即ち本エントリのお題である「職安法44条違反」と「労基法6条違反」)は、競合する場合があると考えられる。
 即ち、利益を得る目的で職安法44条に違反(労働者供給という結果犯)し、この因果関係により実際に利益を得た場合(利益という結果)には、同条は労基法6条違反(中間搾取という結果犯)の構成要件的行為の一部に含まれることになる。これは、例えば住居侵入罪と窃盗罪、文書偽造罪と同行使罪などと同じような牽連犯である。

 牽連犯は、元来数罪が成立するところ、科刑上一罪として取り扱うもの(判例・通説)。

 判例は、刑法54条1項後段にいう「犯罪の手段」とは、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられる行為をいい、また「犯罪の結果」とは、ある犯罪より生ずる当然の結果を指すから、牽連犯となるには、両者の間に密接な因果関係があることが必要であり、犯人が現実に犯した2罪がたまたま手段結果の関係にあるだけでは牽連犯とならないとしている(最判S24年7月12日)。
 また、牽連犯が成立するためには、犯人が主観的に数罪の一方を他方の手段又は結果の関係において実行したというだけでは足りず、その数罪間に、その罪質上、通常手段結果の関係が存在することを必要とするものと解している(最判S24年12月31日)。
 さらに、その趣旨について、数罪間に、その罪質上、通例その一方が他方の手段または結果となるという関係があり、しかも具体的にも犯人がかかる関係においてその数罪を実行したような場合には、そのうち最も重い犯罪について定めた刑をもって処断すれば、それによって軽い罪に対する処罰をも充足し得るのが通例であるから、それら数罪の犯行目的が単一であることをも考慮すれば、もはや数罪として処断する必要がないと認められることによるとする(最判S23年12月21日)。

 判例参照:http://www.weblio.jp/content/%E7%89%BD%E9%80%A3%E7%8A%AF (Weblio辞書よりウィキペディア「牽連犯」)

 上記を当てはめれば、・・・“その数罪間に、その罪質上、通常手段結果の関係”・・・が存在する限り、労働者供給(偽装請負など)を行って利益を得た場合には、その意思と行為は中間搾取を禁止した労働基準法6条の構成要件の一部となり、“利益の存在”によってその結果犯である労働基準法6条違反であることになる。
 
 なお、罪数のカウントとしては二罪が成立することになろう。但し、科刑上この二罪には『鎹(かすがい)現象』があって、後者の構成要件に吸収される「労働者供給罪(職安法44条違反)」の方が、「中間搾取(労基法6条違反)」よりも科刑上重い罪となっていることは興味深い。
 牽連犯は、その最も重い刑により処断されるところ、判例は、この規定を数個の罪名中最も重い刑を定めている法条によって処断する・・・という趣旨とともに、他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むもの・・・と解している(最判S28年4月14日)。《4月29日追記》

 なお、職業安定法44条違反(労働基準法6条違反)の最近の判例(高裁)について、解りやすく解説している弁護士がおられるので、興味のある方は是非下記を参照されたい。


 参照:

 弁護士阪口徳雄の自由発言
 http://blogs.yahoo.co.jp/abc5def6
 偽装請負に厳しい大阪高裁判決(司法・裁判34)
 http://blogs.yahoo.co.jp/abc5def6/54961232.html


 《追記》

 労働基準法第6条本文
 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介
入して利益を得てはならない。

 通達要旨を箇条書きにいて整理すると(以下は「総務の森http://www.soumunomori.com/column/article/atc-174/より引用)・・・

 ★何人も
→ 事業主に限定されず、
→ 個人、団体又は公人、私人であるかを問わない。
(S23.3.2基発381号)

 ★法律に基いて許される場合
→ 職業安定法や船員職業安定法の規定で許される場合をいう。
(S33.2.13基発90号)

★業として
→ 営利を目的として、
→ 同種の行為を反復継続することをいう。
(S23.3.2基発381号)

★就業
→ 労働者が、
→ 労働関係に入り
→ 又はその労働関係にある状態。
(S23.3.2基発381号)

★利益
→ 名称・有形無形を問わず、
→ 使用者より利益を得る場合のみに限らず、
→  労働者又は第三者より利益を得る場合も含む。
(S23.3.2基発381号)

★法人の従業員が「第6条違反」を行った場合、
→ 法人が利益を得ていた場合においても、
→ この従業員について
→ 「第6条違反」が成立する。
(S34.2.6基収8770号)

 ・・・引用終わり。


 修正・追記履歴 《4月15日一部修正》.《4月17日追記》.《4月29日語句追加・追記》