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このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

東山梨消防長が不祥事告発職員捜し「携帯履歴提出を」求める・・「亡国の道」は大げさかもしれないが・・

2013-03-20 00:49:02 | Weblog
 報道(毎日新聞 3月18日(月)21時37分配信)によれば、東山梨消防本部(本部・山梨県甲州市)が報道機関に不祥事の内部告発をした職員を捜すため、全職員112人に私有携帯電話の通話履歴を提出するよう求めていたことが18日、分かった。消防本部は「やり方が強引だった」として同日、提出要請を撤回した。
 同消防本部は今年1月、男性職員が果樹園でアルバイトをしたとして地方公務員法の兼業禁止規定に違反したとして訓告処分。非公表だったが、2月中旬、報道で明るみに出た。
 同本部などによると、報道直後に楠照雄消防長が「内部告発者は転職をお勧めする」と訓示で発言。消防長名で今月12日、携帯電話の通話履歴を任意提出するよう求める文書を回覧した。文書には「潔白を証明するいい機会」などと記されていた。各職場で上司が、提出に応じるかを職員に個別に確認、106人が同意し一部は既に提出したという。
 楠消防長は「公務員が情報を漏らすのは問題。組織を守り再発防止するため」と説明したうえで、「方向性は間違っていないが、やり方が強引だった」として提出要請を撤回した。
 青山学院大の大石泰彦教授(メディア倫理法制)は「プライバシー侵害の恐れがあり、内部告発者捜しは常軌を逸している。通話履歴提出も事実上の強制で、職員の人権を考えても問題だ」と話している。【片平知宏】・・・引用終わり

 「公務員が情報を漏らすのは問題。組織を守り再発防止するため」・・とな?

 何の再発防止のためだ?

 そのうえ「方向性は間違っていないが、やり方が強引だった」・・とな?

 誰の方向性は間違っていない? 

 このような言動を“恥の上塗り”というのだろう。法令違反が刑法の秘密漏示罪や公務員法の守秘義務により守られるべき法益ではないことは明白であり、法令違反を告発した職員をあぶりだす行為が、公益通報者保護法による保護法益の侵害であることも自明の理であるところ(公益通報者保護法「1条」、「3条」、「5条」)、自治体消防長がこれを理解していないことは、誠に残念。
 さて、労働者が行う同法2条の行為を、公務員が同法3~5条の不利益を職権を騙って妨害した場合、刑法の公務員職権乱用罪との関係はどうなるであろうか。

 当該行為について、民間企業だと上記違反で済むが、行為者が職権を有する公務員である場合だと、職権乱用罪の保護法益を犯しているようにも思われる。職権乱用罪の成立があるかどうかは未だ不明だが、その余地もあるように思うが如何か。とにかく、その組織腐敗が問題である。
 なお、同罪が不適用であっても、当該行為については、公益通報者保護法には違反するだろう。同法は、その名の通り、公益通報した労働者を守るための法律であって、法令違反をした者(その組織の隠ぺい行為や通報者のあぶり出し行為等の不正)を守るためのものではない。尤も、組織の自浄能力を高め、最終的に組織を守る間接機能はあるのであるが。

 報道が真実(消防長のコメントも)とすれば、東山梨消防本部は不正である。多くの公務員の顔に泥を塗る、誠に残念な公務員(機関)である。このような組織腐敗が、大阪地検や富山県警だけではなかったのが、これまた残念である。

 「武経七書」のひとつ三略『柔よく剛を制す』の章に次のようなのがあった。・・故曰、莫不貪強、鮮能守微、若能守微、乃保其生(故に曰く「強を貪らざるなく、よく微(び)を守ること鮮(すく)なし」。もしよく微を守らば、すなわちその生(せい)を保たん)。・・ということ。
 また『亡国の道』の章に・・軍讖曰、善善不進、惡惡不退、賢者隱蔽、不肖在位、國受其害(善を善と知りながら進めず、悪を悪と知りながら退けず、賢者は隠して、不肖の者が位にいるなら、国はその害を受ける)・・というのもあった。

 送検でもされ、少しは頭を冷やされるのも、やむを得ないかもしれないと思う。


 なお、本日こんなような例も報道されている。

 元課長が大王製紙提訴=「内部告発後の解雇不当」―東京地裁時事通信 3月19日(火)13時5分配信

 内部告発後に解雇された大王製紙元課長の男性(50)が19日、解雇は告発を理由としたもので不当として、地位確認や賃金支払いなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。
 訴状などによると、同社経営企画部の課長だった昨年12月、タイの現地法人での法令違反などを内容とする告発文書を金融庁や東京証券取引所に送付した。
 その後、2月に「業務上知り得た会社の秘密を第三者に漏らした」として降格され、関連会社の営業所への出向を命じられた。男性は異議を申し立てたが、今月11日付で出向命令に従わなかったことを理由に懲戒解雇されたという。 

 会社が言っていることは「業務上知り得た会社の秘密を第三者に漏らした」である。つまり、監督庁にその保護すべき法令違反を申告したことを、会社の秘密を第三者に漏らした、としているわけである。これも異常な考え方だと思う。このような公序良俗違反は、少なくとも実質秘には該当しないから秘密を守る契約や公務員の守秘義務の保護法益がないことは明白であろう。
 これでは、社長が殺人を犯したことを業務上知り得た場合、“漏らしてはいけない会社の秘密”だということになり、社会や第三者に対する法益侵害があった場合にも、従業員はこれを隠ぺいすることが当法人の方針だということである。誠にブラックな(自分の会社が違法集団だと言っているも同然の)お話だ。

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