ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「二重らせんのスイッチ」

2022年08月30日 | 書籍関連

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2015年2月、桐谷雅樹(きりたに まさき)の“日常”は脆くも崩れた。渋谷区松濤の高級住宅地で、飲食店経営者が殺害され、現金凡そ2千万を奪われる事件が起きた。凶器が購入された量販店の防犯カメラに映っていたのは、紛れも無く自分自身の姿。犯行現場から検出されたDNA型は、雅樹の物と一致する。紙で切ったの手の傷跡、現場付近で寄せられた目撃証言等、全ては雅樹による犯行を示唆していた。

矢張り、俺が犯人なのか?」。自らの記憶、精神をも疑い始めた矢先、雅樹のアリバイが、偶然にも立証される。然し、待ち受けていたのは、更なる苦難だった。
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辻堂ゆめさんの小説二重らせんのスイッチ」を読了。辻堂さんは第13回(2014年)『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を「いなくなった私へ」で受賞し、文壇デビューを果たした。自分が此の作品に付けた総合評価は「星2つ」と非常に低く、以降、彼女の作品を読む事が無かった。

優秀な大学を卒業し、大手企業でシステムエンジニアとして働く桐谷雅樹は、自他共に認める恵まれた人生を送っていた。そんな或る日、彼は強盗殺人容疑で捕まってしまう。全く身に覚えの無い罪を着せられ、当惑する雅樹だったが、刑事から見せられた防犯カメラの映像に絶句。凶器の包丁を持った男は、雅樹本人だったので。又、犯行現場に残された遺留品からは、雅樹のDNA型が検出される等、彼が犯人で在る証拠が次々と見付かっていた。自身のアリバイが何とか証明され、処分保留釈放される事になった雅樹だが、彼の周りで「自分では無い、雅樹本人としか思えない男。」の目撃情報が相次ぐ。「一人っ子の自分に、瓜二つな男が存在する訳が無いのに・・・。」と益々当惑してしまう雅樹。そんなストーリーだ。

「そっくりなんていうレヴェルを超え、自分と瓜二つの男が存在する。見た目だけでは無く、DNA型一致。でも、自分は一人っ子の筈なのに。」となると、其の絡繰りは想像が付く。タイトルに「二重らせん」という用語付されているし。でも、絡繰りが判った所で、ストーリーの面白さは減じず、寧ろストーリーの中にどんどん引き込まれて行

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日本は、先進国の中では異例の「赤ちゃん輸出国」なのだという。近年も年間で三十人ほど、海外に養子としてもらわれていく日本人の子どもがいる。正確な統計が残っているわけではないが、基樹(もとき)の国際養子縁組が成立した1990年前後だと、おそらく今の倍の年間六十人程度。もらわれる先は、ほとんどがアメリカ

なぜ、日本人同士養子縁組をせず、わざわざ海外に送り出すのか。

それには、歴史的な経緯があるらしい。他人の子を実子として迎え入れることのできる特別養子縁組制度が日本で成立したのは遅く、1987年のことだった。その発端となったのが、1973年に明るみに出た菊田医師事件宮城県石巻市産婦人科が、赤ちゃんの命を救いたい一心で、中絶希望の妊婦から子どもができない夫婦へと生まれたばかりの赤ちゃんを斡旋し、それに伴い出生証明書偽造していたのだという。

これが発覚して以降、民法改正により特別養子縁組が認められるようになるまでの間、産んでも育てられない子どもを、犯すことなく養子に出す方法として活発化したのが、国際養子縁組だった。

国内では違法だが、アメリカに送り出すなら合法

そんな矛盾抱えた時代が、この日本にあったのだ。
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著者は何故、物語の舞台を2015年に設定したのか?実は其の事が、大きな意味を持っている。「御見事!」としか言えない。

どんでん返し次ぐどんでん返しも良く、“最後に思えたどんでん返し”に「うわー、後味悪いなあ。」と思わされたら、更なるどんでん返しが設けられており、「良かった・・・。」とホッとさせられた

“偶然に頼った設定”が無い訳では無いが、全体を通して言えば面白い作品。総合評価は、星4つとする。


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