ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「峠うどん物語」

2024年05月08日 | 書籍関連

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中学2年生の野島淑子(のじま よしこ)は、市営斎場の真ん前に建つ祖父母の饂飩店「うどん」の手伝いを続けていた。或る日、父親の中学時代の同級生が急死、淑子のクラスで一番五月蠅い男子も暴走族親戚が事故で亡くなり、通夜が行われる事になった。遣り切れない気持ちで暖簾潜る人達がそっと伝えてくれる、温かくて大切な事。
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重松清氏の小説峠うどん物語」は、人里離れた峠に在る祖父母の饂飩店を手伝う主人公・野島淑子が、祖父母や両親、そして店を訪れる人達と触れ合う中で、“死”という物を深く考えさせられたりと、“人”として成長して行く話。で在る。祖父母の饂飩店は元々「長寿」という店名だったが、或る日、真ん前に市営斎場が出来た事で、「葬儀を行う市営斎場の真ん前で、『長寿庵』というのは不謹慎だろう。」という判断から、店名を今の「峠うどん」に変えたという経緯が在るのだが、何しろ場所が場所だけに訪れる客は“沈んだ気持ちの人”が殆どだし、又、リピーターというのも中々見込めないという、実に複雑な環境。経営的にはとても芳しいとは言えないが、葬儀が重なるとそこそこ忙しくなる店を淑子は時折手伝う。でも、高校受験を控えているという事も在り、彼女の両親、特に父親は余り良くは思っていない。そんな設定。

著者・重松清氏は1963年生まれで、自分と世代的に近い。なので、彼の作品で描かれる“過去の風景”、特に“1960年代~1970年代の風景”には、どうしても郷愁覚えてしまう。代表作のとんび」や「流星ワゴン」では、余りに懐かしく、そして悲しくて、読んでいて涙が止まらなかった程。

「峠うどん」では郷愁に駆られる事は無かったが、ハートウオーミング作風は相変わらず。「無口で頑固という、典型的な職人肌の祖父。」と「気が強くて御喋りだけど、優しい祖母。」も然る事乍ら、「そんな祖父母の息子で淑子の父親でも在る、少々御調子者な父親。」と「真面目で、確り者な母親。」という組み合わせが良い。

全部で10の短編小説から構成されており、何れも読ませる内容では在るのだが、特に良かったのは「二丁目時代」と「アメイジング・グレイスという作品。「淑子の遠い記憶に在る“母親の奇妙なポーズ”(後になって大昔に流行っイヤミの“シェ―のポーズ”【動画】だと判るのだが。)が、彼女の少女時代の楽しくて、そして悲しい記憶と結び付いている事を知る。」という「二丁目時代」。又、「大きく道を違えてしまった親友が亡くなった事で、祖父が取った行動。」が描かれた「アメイジング・グレイス」は、何とも切ない気持ちになってしまった。

総合評価は、星3.5個とする。


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