シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

青い飛沫(14)

2017-04-09 09:03:17 | Weblog
案内されて部屋に入ると正義と邦夫が談笑しながら待ち受けていた。
「ごめん、ごめん、一寸飛行機が遅れてな」
「おっ、正義も邦夫も元気そうだな」
「治兄さんん、お疲れ様です」
「取り敢えず皆でお風呂を頂きましょうか」邦夫が立ち上がり、先導する。
17年ぶりにあったというに特別の挨拶はない。やっぱり兄弟である。
そんな他人行儀な挨拶など無用の事、お互いがお互いの顔を見れば全て納得である。
歩く姿をちらちらと観察しながら「随分老け込んできたな」と3人それぞれが思っている。
頭の白くなった御仁、禿頭になった御仁、杖ついてよたよた歩く御仁。
77歳、75歳、73歳の老人たちである。我等を他人が見たらどう映るであろうかと思う。
それなりに評価するであろうと思うとやはり寂しい。

「三翠園は懐かしいね、何といったって皆さんここで式を挙げ、披露宴をやったものね」
「そうだよね兄弟三人ともが同じ場所というのは珍しいのではないだろうかね」
「邦夫には随分お世話になった。いや、奥さんの方かな」
「そうだよな、邦夫の奥さんのお世話がなかったらまだ独身で鼻水垂らしてよろよろしているかもしれんわ」
「まさにそうだよ。邦夫の奥様には幸福を送っていただいた。奥様の肝いりで僕も正義も同郷の女性をお嫁さんにすることができたものね。これは良かった。仕事から帰っても同郷の妻がいるからね。平気で高知弁でやれるだろう。気楽も気楽。なに、子供なんて頭柔らかいからすぐに両方の言葉を覚える。何も気にしないね。邦夫、有難う」
「僕は何もしていないよ。女房が世話好きなものだから…それに、兄さん達なら安心だと思い込んでいたみたい。そうでなきゃあんなに一所懸命にならなかったと思う」
「ここは邦夫の人徳ということにしておこう。ねえ治兄さん」
「やっぱり夫婦で集まった方がよかったかな。でもなあ、我々3人には特別の思い出や苦労話もあるしなあ。それにこんな会食、これが最後になるかもしれないものなあ」

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