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国民の不可解な憲法意識

2013-05-03 15:35:19 | 日本国憲法
 朝日新聞が昨日の朝刊で報じた全国郵送世論調査によると、憲法9条を「変えない方がよい」とする意見が過半数だったという。

憲法記念日を前に朝日新聞社は全国郵送世論調査を行い、憲法に関する有権者の意識を探った。それによると、憲法96条を変え、改憲の提案に必要な衆参各院の議員の賛成を3分の2以上から過半数に緩める自民党の主張について、反対の54%が賛成の38%を上回った。9条についても「変えない方がよい」が52%で、「変える方がよい」の39%より多かった。

〔中略〕

 9条については、昨年4月下旬に実施した電話調査でも「変えない方がよい」が55%、「変える方がよい」30%だった。調査方法が違い、質問文もやや異なるため単純に比較できないが、「変えない方がよい」という人が多い傾向は続いている。

 参院比例区の投票先で自民を挙げた人は49%に達したが、自民投票層でも、9条を「変える」が45%、「変えない」が46%とほぼ並んだ。自民党は9条を変えるべきだと主張しているが、変えない方がよいという人でも「景気や雇用」などを重視して自民に投票するという構図だ。

 また、今の憲法を「変える必要がある」は54%、「変える必要はない」が37%だった。質問文がやや異なるが、過去の電話や面接調査では1990年代後半以降、改憲派が多い。


 9条に関する質問と回答は以下のとおり(数字は%)。

◆以下は、憲法第9条の条文です。(憲法9条条文は省略)憲法第9条を変える方がよいと思いますか。変えない方がよいと思いますか。

 変える方がよい  39

 変えない方がよい 52

◇(「変える方がよい」と答えた39%の人に)それはどうしてですか。

 今の自衛隊の存在を明記すべきだから        37〈14〉

 自衛隊を正式な軍隊にすべきだから         17 〈7〉

 日米同盟の強化や東アジア情勢の安定につながるから 41〈16〉

◇(「変えない方がよい」と答えた52%の人に)それはどうしてですか。

 戦争を放棄し、戦力を持たないとうたっているから 48〈25〉

 今のままでも自衛隊が活動できるから       34〈18〉

 変えると東アジア情勢が不安定になるから     14〈7〉

〔中略〕

◆憲法第9条があったから非核三原則や武器輸出の原則禁止の政策がつくられ、戦後の日本で軍事の分野が強くなることへの歯止めになった、という意見があります。その通りだと思いますか。

 その通りだ   69

 そうは思わない 25

◆憲法第9条の条文が多少現実と違っていても日本のとるべき姿勢として変えないでおく方がよい、という意見があります。その通りだと思いますか。

 その通りだ   59

 そうは思わない 35

◆いまの自衛隊は憲法に違反していると思いますか。違反していないと思いますか。

 違反している  17

 違反していない 74


 この調査結果に対して、森達也はこう述べている

■映画監督・作家で明治大特任教授の森達也さん

 憲法9条を変えない、という意見が多かったのは、意外だった。

 総選挙では予想通りというか、予想を上回るほどの自民党圧勝だった。小選挙区のマジックを差し引いても、自民党や安倍政権への支持が強いのは間違いない。票を入れた人の多くは、憲法9条改定にも賛成なのだろう、と思い込んでいた。だが、調査結果では、景気浮揚策への期待から政権を支持しても、憲法9条改定までは支持していないことが浮かび上がる。自民党や安倍晋三首相には、軌道修正を期待したい。

 ただし僕は、がちがちの護憲派ではない。半世紀以上たっているのだから、時代に合わない要素があればマイナーチェンジしてもいい。でも9条も含め、基本理念は安易に変えるべきではない。

〔後略〕


 私も意外に思った。全く同様に、安倍政権支持者の多くは9条改正にも賛成なのだろうと漠然と思っていたからだ(同じ世論調査で、安倍政権の支持率は66%)。

 世論調査では、意図した結果が出るように誘導的な質問が用いられることがしばしばある。
 この調査でも、

◆衆議院や参議院の一票の格差が是正されない状態で選ばれた議員が改憲の提案をするのは、問題だと思いますか。問題ではないと思いますか。

 問題だ    54

 問題ではない 38


こんな質問がある。
 問題か問題でないかと問われれば、問題があると考える人は多いだろう。
 しかし、問題があることと、改憲の提案をしてはならないこととは別である。
 何故、「改憲の提案をしてよいと思いますか。してはならないと思いますか。」と問わないのか。
 それは、紙面に掲載されている、こんな識者のコメントを得るためだろう。

 96条の改憲手続きを緩和する自民党案に賛成の人でも、一票の格差が是正されていない状態で選ばれた議員が改憲の提案をするのは問題だという人が44%いた。この結果が示す通り、今の議員は国民の代表としての資格がない。認められているのは選挙制度改革をして選挙を実施することと、国民生活に支障を及ぼさないよう必要最小限の国政をすることだけだ。それ以上の資格はなく、まして憲法をいじる資格はない。(浦部法穂・神戸大名誉教授)


 「問題がある」という意見が多かっただけで、改憲の「資格はない」と断じている。
 仮に「提案をしてよいと思いますか。してはならないと思いますか。」という質問だったら、果たしてどうだっただろうか。

 また、木走正光氏が指摘しているように、天皇を元首と定めることが、戦前のような人権が制限された社会になることにつながるとの印象を与える質問もある。

 しかし、この9条関連のいくつかの質問は、そのようなトリッキーなものではない。
 にもかかわらず、このような結果となったことが私には意外だった。

 紙面によると、自民支持層で9条を「変える」が49%、「変えない」が43%。この夏の参院選で自民に投票するとしている層では「変える」45%、「変えない」46%とのこと。

 そして自衛隊を違憲とするのが17%、合憲とするのが74%。
 さらに、「憲法第9条の条文が多少現実と違っていても日本のとるべき姿勢として変えないでおく方がよい、という意見」に対して、「その通りだ」が59%、「そうは思わない」が35%。この数字は9条を「変えない」52%、「変える」39%に近いから、かなり重複しているのだろう。
 つまり、国民の半数強は、9条と自衛隊の現実との乖離を支持しているということだ。

 私はこうした結果と、それを何ら問題視しないマスコミの報道姿勢が恐ろしい。
 何故なら、これは、憲法は理想を掲げていればよく、現実に守られなくてもよいということにほかならないからだ。
 法は守られなければならず、現実にそぐわない法は改めるべしという意識がない。

 9条全文を素直に読めば、自衛隊のような組織ですら持てないことは明らかであろう。現に憲法制定時には、政府もそのような解釈をしていた。しかし、自衛隊の前身の前身である警察予備隊が押しつけにより創設された後、これは自衛のための必要最小限度の「実力」であって、憲法で禁止された「戦力」には当たらないと解釈を変更した。これは基本的には現在も変わっていない。
 しかし、「必要最小限度」とはどの程度か。そして現在の自衛隊は果たして「必要最小限度」と言えるのか。
 「条文が多少現実と違っていても」どころか、全然現実と合致していないのではないか。

 こうした解釈改憲は苦肉の策であり、邪道であった。
 だから鳩山一郎内閣は改憲を志向したが、3分の2の壁に阻まれた。
 当時の情勢ではやむを得なかったかもしれない。
 しかし、いったい何十年、このような不正常な状態を続けるつもりなのか。

 古くから拝読している日記サイト「AE~攻撃側全滅」で、昨年の憲法記念日に全滅屋団衛門さんはこう書いていたが、

2012/5/3(木)

憲法記念日か

まあ、明らかに日本のおかれた現状からは矛盾する条項のある憲法を一字一句変えることは許しません
って主張するのはどうなんだろうなあ
例えば憲法9条は普通に読めば自衛隊の存在を認めない内容の文章に読めるよね
けど自衛隊は実際に日本国内に存在しているわけだ

普通に考えたら「自衛隊は違法だから解散させろ」という世論になるわけだが
実際のところ日本国民にアンケートをとれば
自衛隊は必要
という答えが圧倒的だ
つまり民意は自衛隊は必要だと思っているとかんがえていいわけだ

となれば世論は当然「自衛隊の存在を認めるように憲法を改正しよう」ということになるはずなのだけれども
実際にアンケートをとってみれば「憲法は今のままでいい」という答えが大半だったりするわけで
自衛隊は必要だが自衛隊の存在を否定する憲法は変えてはいけない
非常に矛盾する答えだが
これを私なりに意訳すると
「日本国憲法は守る必要が全くない」というのが民意だということらしいので

そんな守る必要がない憲法を記念する祝日とか存在しないほうがいいと思います

まったく、どいつもこいつも無責任な考え方しかできねえってのはなあ・・・


まさにわが意を得たりの思いだった。

 憲法は理想を掲げていればよく、現実に守られなくてもよいのであれば、諸々の国民の権利規定についても、同様のことが行われればどうなるか。
 中国や北朝鮮の憲法にも、国民の諸権利が明記されている。しかし、それらは決して守られていない。
 「条文が多少現実と違っていても」「変えないでおく方がよい」というなどという姿勢は、結局は憲法を有名無実化するものではないか。
 国民が自ら作り上げた憲法でないから、それを愚直に守る気概も、時代に合わせて改正すべきという気概も生まれず、邪道による現状維持にとどまりたいと思うのだろうか。

 憲法は国民が国家を縛るものであり、権力者が都合に合わせて改憲を図るべきではないなどと、立憲主義の観点から安倍政権の改憲への動きを批判する人々が、こうした憲法の有名無実化を容認する国民の姿勢には何ら言及しないのが不思議でならない。

 9条だけが改憲のポイントではない。
 しかし、9条だけをとっても、速やかな改憲が必要なのは明らかだと私は思う。



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3 コメント

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うそも方便・・いいうそも有る。 (ししまる)
2013-05-03 20:38:43
これを私なりに意訳すると「日本国憲法は守る必要が全くない」というのが民意だということらしいので

・・・とおっしゃっていますが、その意訳は少し強引だと思います。私がちがちの護憲派ではありません。憲法にしても、出来た当時は戦争が終わったばかりで、日本という国は加害者と言う立場しか思い浮かなかったわけです。だから、二度とあのようなバカな戦争を引き起こしたり、国民に圧制を強いる国にしないということで憲法は出来ました。そこには、加害者としてだけではなく、被害者(防衛)にもなりうるという視点が欠けていました。それでも、今まではそれでたいして問題もありませんでした。しかし、最近、中国の領海侵犯などで、日本も加害者だけで無く、被害者としての防衛と言うことが持ち上がりました。だから、防衛と言う観点がすっぽりと抜けた9条の2項などは、防衛力を保持するとしてもいいと思います。(前文はそのまま保持)

しかし、護憲派の人たちの気持ちも良く分かります。それだけあの戦争は国民や近隣諸国を不幸のどん底に叩き込んだのです。その恐れの記憶が、簡単に改憲を唱えてしまう人たちに危惧を感じさせるのです。世の中がきな臭くなるときの動物的な嗅覚による防衛反応みたいなものです。だから、私にはアンケートがあのような一見、矛盾を含んだものになるのは分かります。まったく不可解だとは思いません。むしろ、何の疑問も持たずに改憲を唱える人々よりも、”健全な矛盾”だと思います。なかなかいい国民だと思います。この矛盾は、簡単に理屈でおかしいと思うのではなく、それほど戦前のような抑圧的な世に、日本国民がアレルギーを持っているということです。

矛盾を抱えながらも、解釈で自衛隊も容認している現状を、一概に憲法をないがしろにしているということで片付ける意訳は、ちょっとこの国民の真意とは違うと思うんです。私としては、9条2項は改憲してもいいと思いますが、何が何でもとは思いません。うそも方便と言いますか、逆に日本が間違った道に踏み出そうとする時の歯止めに置いておきたいが、現状、日本を侵そうとしている勢力にも対抗しなくてはという賢い解釈・矛盾が、自衛隊だと思うからです。
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Re:うそも方便・・いいうそも有る。 (深沢明人)
2013-05-04 00:29:42
>>これを私なりに意訳すると「日本国憲法は守る必要が全くない」というのが民意だということらしいので

>・・・とおっしゃっていますが、その意訳は少し強引だと思います。

 本文中にも述べていますが、それは「AE~攻撃側全滅」というサイトの主「全滅屋団衛門」さんの記述であり、私深沢明人のものではありません。お間違いなきよう。

 で、おっしゃりたいことはわかりますが、同意はできません。

>そこには、加害者としてだけではなく、被害者(防衛)にもなりうるという視点が欠けていました。それでも、今まではそれでたいして問題もありませんでした。しかし、最近、中国の領海侵犯などで、日本も加害者だけで無く、被害者としての防衛と言うことが持ち上がりました。

 そんなことはないですよ。「被害者にもなりうるという視点」は制定当初からありました。
 例えば拙記事↓
http://blog.goo.ne.jp/GB3616125/e/ad9f2708018197ed98778b64f73f0eb3
をご参照ください。

>だから、防衛と言う観点がすっぽりと抜けた9条の2項などは、防衛力を保持するとしてもいいと思います。(前文はそのまま保持)

 私もそう思います。
 というか、そうしたことを明記しておかないと、むしろ危険だと思います。

>うそも方便と言いますか、逆に日本が間違った道に踏み出そうとする時の歯止めに置いておきたいが、現状、日本を侵そうとしている勢力にも対抗しなくてはという賢い解釈・矛盾が、自衛隊だと思うからです。

 私は、国家の基幹たる憲法において、「うそも方便」などということはあってはならないと考えます。
 そうした対応は、結局、立憲主義自体の否定につながりかねないからです。

 「日本が間違った道に踏み出そうとする時の歯止め」は国民自身であるべきであり、そんなものをいつまでも占領憲法に頼っていてはいけないと思います。

返信する
国民を信用できるか出来ないか。 (ししまる)
2013-05-04 01:16:37
「日本が間違った道に踏み出そうとする時の歯止め」は国民自身であるべきであり、そんなものをいつまでも占領憲法に頼っていてはいけないと思います。

・・・と言うことでいらっしゃいますが、結局ここなんですよね。改憲に積極的な方との違いは。維新の橋本さんも国民を信頼するから改定要件を簡単にすべきだと言っていましたが、私は日本国民をあまり信用はしていません。時の情勢によって、日本人は世間や他人の顔色を見て動くところがあり、自分の判断より世間のムードに流される面が非常に多いからです。一旦、ある流れが付くと、一気に流される傾向があります。例えば、戦前の軍事政権や、戦後のバブル、たまごっち、AKB、ハイブリッドなどなど。まあそれは他国も同じと言えばそうですが、日本人は特に顕著です。ハイブリッドなど、よく考えてみれば、けっしてエコでもなんでもなかったりするんですが、日本では猫も杓子もハイブリッドです。

また、世襲議員が多く当選するように、この国では政策で議員を選ぶということがあまり無いように思います。政策で多少なりとも選び始めたのは、ついこの前の衆院選からじゃないでしょうか。そのような点からも、まだまだ正しい選択をするような民度に達しているとは思えません。例えば、テレビの視聴率・・必ずしも良質なドラマがしょうもないドラマより言い訳ではありません。という具合に、人は必ずしも信用なるものではありません。だから、3分の2という関門を設けているのです。

また、最低でも、一票の格差を是正して、世襲議員ではなく、政策で選べるぐらいの見識を国民がもてるようにならなければ、現状の民度では、簡単に憲法を変えられるようにするなど恐ろしい限りです。国民に憲法を取り戻すと言う欺瞞の元に、戦前を彷彿とさせるような抑圧的な憲法改正に利用されるだけだと思います。

様々な矛盾を抱えながらも、大筋はこの国の憲法はいいと思います。とにかく、改定することを問うことは自由ですし、改定もすべきところはすべきだと思います。しかし、それは現行の96条で行うべきで、憲法を変えやすくするような、改定には反対します。

いずれにしても、靖国参拝賛成派と反対派の違いが、戦前肯定か否定かであるように、憲法・・特に96条改憲派と反対派の違いは、国民を信じるか信じないかだと思います。私は信じない・・性悪説です。kここの出発点が違うから、おそらくどこまで行っても平行線だと思います。

また、深沢さんは本当に国民を信じていらっしゃるから違うと思いますが、改憲派議員の多くは、国民を信用するということを隠れみのにして、自分の心情に都合の良い憲法に簡単に改正したいだけのように見えます。
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