立体授業―指導展開の目標と意図
「渓流滑り台」の消失(廃棄)の可能性に気づいたころから、「課外学習への保護者参加」も、めっきり少なくなってきました。7~8年前までは、10家族いれば6~7家族は「親子で参加」ということがふつうでした。ところが、子どもだけ参加させる「単独参加」が多くなってきたのです。
また、「立体授業の核」として「課外学習がもっている意味」も、その重要性が十分理解できているというふうには感じられなくなりました。単なる「蛍観察」や「石拾い」、「虫とり」という、子どもが「よろこぶ外遊び」という理解のまま、キャンプやレクリエーションの一環という「軽い想定」から離れることができないようです。そうではありません。立体授業は「総合的な指導」という目的から、企画・立案しています。
「立体授業」の流れです。
テキストによるスライド学習の意味
立体授業は、まず課外学習出発前の、テーマごとのテキストによるスライド学習から始まります。これは、単にテーマに対する「ビジュアルの補強」だけを意識したものではありません。
「対象」やテーマの歴史的背景や学習内容との関係、またテーマの「関連テーマ」などを念頭に構成します。一回の体験で、対象をできるだけ「総合的に(立体的に)」捉えてほしいからです。それによって、興味の喚起と好奇心の広がりを期待するものです。学習内容に限らず日常生活の中でも、今まで目を留めなかったような様々なものが「目に留まる」ように企図します。環覚の育成です。
それらの対象が多くなればなるほど、学習対象・学習内容が身近になり、関連がとらえられ、考察が深化します。学習が受験勉強に終わらず、学習に対する『疎外感』が緩和されていきます。つまり学習が面白くなり、学習する意味がわかる「きっかけ」づくりです。
さらに、実際の課外活動に参加して観察し体験することで、机上の学習では気づかない「対象の周辺や奥行き」がわかります。これらは、先週偉人の発明・発見の考察で紹介した『思わぬ関係性』に目覚め、イメージする力や想像力を養う礎です。
「ファインマンの父とエジソンの母」のブログで紹介したように、エジソンが教室でおとなしく抽象だけを学習する存在であったならば、竹のフィラメントをはじめとする広範で斬新なアイデアの広がりは生まれなかったでしょう。これらが、学習面から考える「立体授業」のテキスト・スライド学習と課外学習の両立、実践の意味です。
日常生活でのルールの確認
次に行動面です。自動車での移動が多くなってきた昨今、子どもたちが交通道徳や社会生活上のルールやエチケットを学習する機会・タイミングは激減していきます。さらに、「ことな」や「おども」の保護者が増えてきているなか、社会人としての行動の規範や当然の常識を身につける環境は期待できません。電車やバス等の交通機関での往復や宿舎での宿泊体験は、それらを指導できる(指導しなければいけない)貴重な機会になってくれます。
OB諸君がやさしく、さわやかな青年に育ってくれるのは、これらの指導も大きな意味をもっていると考えます。サポーターとして手伝ってくれるOB諸君は学力や進学先だけではなく、その行動を宿舎や課外活動で行きつけの食堂の皆さんに激賞される存在に育っています。
ハプニングの効用
また、実際の課外活動は「ハプニング」がつきものです。現象面では、夜中に川底を歩くオオサンショウウオの散歩や妖精のような蝉の脱皮、高い木の上を独特の姿で飛翔する玉虫の生態、山道で生意気な戦闘態勢をとるマムシの赤ちゃんなど、子どもたちにとってはすべて「未知との遭遇」・発見の連続です。印象に残る記憶は、机上の学習を補完するイメージの宝庫になります。
昔ながらの腕白遊びも、格好の指導の場です。行動上の様々なハプニングは、日常生活における注意や準備や対策の大切さを、子どもたちの前に表面化します。それらに対処するための工夫や努力は、生きる力と生き抜く自信のバックボーンです。
また、面白いことほど危険が付き物で、細心の注意を払わなくてはならないこと。様々なハプニングは「ルールを守らなければ取り返しのつかないことになることを、取り返しがつかなくなる前に」教えてくれます。これで、少なくとも『ことな』や『おども』にはなりません。
継続と連続で意味がある立体授業
これらの展開の年間を通した「総合」が「立体授業」です。ハプニングの起きる回数(季節もそれぞれ関わります)や、子どもたちが習得・納得するタイミング・期間を考えれば、単発ではなく積み重ねによってこそ、大きな効果を発揮することがわかるでしょう。
遊園地やテーマパークへの「遠足」ではありません。また、単発やピックアップでは、「指導の一端を伺う」意味しかありません。指導の継続性が生まれず、伝えておくべきたいせつな「やりとり」が抜けてしまうわけです。
さまざまなシチュエーションの中でこそ、予期せぬハプニングに遭遇でき、学習面・行動面ともに指導の格好のタイミングも生まれます。それぞれのテキスト・スライド学習の繰り返しと課外学習の積み重ねがあって、環境に対する興味や好奇心に目覚める機能(環覚)が養われ、心身ともの健やかな成長が成就します。
紹介しているように、「学ぶおもしろさ」や「学習する意味」まで伝えようとし、「その学習の結果が受験対応で終わらず、成長後の本人の『糧』となること」を目標にすれば、生活・行動全体を通じた指導と教育は欠かせません。学力の向上はもちろん、人間教育も生活・行動・全般を通じたなかで整います。全体を通じて、子どもたちの性格や人格の陶冶が行われます。
名称を当初の課外学習から『立体授業』に変えたのも、その場限りで、あまり意味のない取り組みとは一線を画したかったからです。
お父さん・お母さんの理解と協力さえあれば、頭も心も体も健やかな青年に育ってくれる、開設以来のOB諸君の成長ぶりの確信から「立体授業」の指導方法が生まれました。フォアグラ学習指導で受験能力に優れた受験生は育つかもしれません。しかし、その過程で忘れがちな最も大切なこと。「人間であること」。どうでしょうか? 期待できるでしょうか? 立体授業ではそれらも視野に入れ、指導できれば・・・。いつもそう願っています。
来週は、こうした指導で子供たちがどう成長するか、実況報告をします。