風月庵だより

猫関連の記事、老老介護の記事、仏教の学び等の記事

ナガサキ

2006-08-09 23:59:59 | Weblog

8月9日(水)台風7号去る。朝雨激しい。日中時々雨降る。夕方雨上がり青空。夜また一時雨。夜半空晴れ渡る【ナガサキ】

今日は一日中東京の空は変化し続けていた。今夜は満月。なんとか満月のお月様を拝めないかと願っていたら、先刻までの雨雲がすっかり消え、今ようやく皎々たる満月が顔を見せてくれた。

1945年8月9日11時2分。

一瞬にして7万5千人以上の長崎の人々が命を失った。広島に原爆を投下した3日後、再びアメリカは日本を舞台にして実験を行ったのだ。連合国軍の勝利はすでに確実であり、二度も原爆を使う必要はなかったにも拘わらず、マリアナ諸島のテニアンから原爆を搭載したB29、ボックス・カーは長崎をなぜ目指してきたのだろうか。

ヒロシマの原爆の悲惨さが大本営に十分に認識され、日本が白旗を挙げないうちにもう一つの原爆の威力を試したかったのであろうか。巨額の経費を投じた原爆を開発するための「マンハッタン計画」をアメリカ国民に納得させるためにも、その効果をみせなくてはならなかったのであろう。

「マンハッタン計画」は1942年の8月にスタートし、1945年7月には世界初の原爆実験に成功した。早速それをヒロシマとナガサキで実地試験したのである。ソ連の参戦が8月9日にあり、ソ連よりも何処の国よりも、アメリカが優位にたたねばならないという意図もあったようである。

そして多くの人々の命が奪われ、それぞれが営んでいた生活がそれこそ一瞬にして消えてしまったのだ。命は助かっても被爆した人々は、その後ずーっと苦しみ続けて今に至っている。核兵器が人類を滅ぼすことを十分に知っている世界なのにも拘わらず、核保有国の名乗りを挙げている国々、中国、イギリス、インド、パキスタン、イラン?、イスラエル、ロシア、フランス、北朝鮮?、アメリカ!

黒木和夫監督の『TOMORROW / 明日』は、8月8日の長崎から8月9日の長崎の市井の人々の生活を描いた作品である。井上光晴の小説『明日ー一九四五年八月八日・長崎』が原作の、岩波ホール創立20周年記念作品として1988年に作成された。

戦時下での慎ましやかな結婚式、そこには若い二人の門出を祝おうと人々が集まってきていた。その中の一人は途中で陣痛が始まり、ようやく9日の朝無事に男の子を出産した。結婚式の後も、参列した人々のなんでもないいつもの日常が描き出される。そして9日の朝。晴れ渡った空にB29がキラリと光った。

当時の長崎の樣子を実際には知らないが、このような映像を通して、当時を想像することができる。人々がささやかながらも肩を寄せ合い、笑ったり、泣いたり、恋したり、いつもの生活を送っていたのである。そして子供たちは元気に外で遊んでいたのである。その頭上に原爆は落とされた。

「人間は、
父や母のように
霧のごとくに消されてしまって
よいのだろうか」
(若松小夜子「長崎の証言・5」より)

『TOMORROW / 明日』の冒頭の字幕である。

ナガサキもヒロシマも、人類の犯した最大の愚行の証明である。核兵器の使用を二度と許してはならない。悲惨な事実を、戦争を知らない世界の子供たちに伝えていかなくてはならないだろう。

満月が美しく空を渡っていく。1945年8月8日の夜はどうだったのだろうか。翌日静かな空の下で一瞬にして消されてしまった人々の日常。山河の慟哭を忘れまい。