12月11日(日)曇り【供養記 霊の訪れ】
今日は不慮の事故で亡くなった青年の七回忌の法事である。この青年は心の優しい、聡明な人物であった。どなたの死も惜しまれない死はないけれど、本当に惜しまれる死であった。
ご家族の皆さんとともに経を誦した。故人を偲ぶ思いの強いご家族の誦経ほど、亡き人にとって有り難いものはないと思う。 私はできるだけご家族とともに誦経することを旨としている。そのような僧侶は多いと思う。ただ何年たっても家族の涙は新たである。特に母の涙は生涯乾くことはないであろう。やはり涙で経本の文字が読めないことを背中に感じた。
それは、ともに『修証義』を唱えているときであった。
仏壇の前に供えていた花の一輪がふんわりと揺れた。白い霞草だった。経典に目を落としていたが、その気配は私の目を花に釘付けにするほどの力があった。青年からのサインのように思えた。
しかし、私の気のせいか、と思い、どこかから風でも入ってきたか、また揺れるだろう、と思い直して、お経を唱えながら、花を見ていた。
だが二度とは揺れなかったし、どこからも風の入ってくる部屋の造りではない。
やはり、青年の気が訪ねてきたように思えてならなかった。
ご供養が終わった後で、花が揺れましてね、とさりげなく言ったら、青年の弟が僕も見ました。兄さんが来たように感じました、と言った。
彼も経典に目をやっていたはずであったが、経典から目を離させるほどの強い気配であったのだろう。
「前の法事の時は、真っ赤な火の玉のようなものが見えました」と、弟さんは言った。彼は小さいときから繊細で、霊感が強いたちである。私には火の玉は見えなかったが、今日のお花の揺れにはハットするものを感じた。
やはり立証できることでもなく、気のせいと言えばそれまでのことであるが、それぞれへのメッセージと受けとめてもよいだろう。
不慮の事故ではあったけれど、もう落ち着きました、大丈夫だから安心してください、青年はそう言いたかったのかもしれない。私に直接のメッセージの言葉は聞こえなかったが、家族それぞれへの言葉を感じることができる揺れであった。
「お母さん、僕大丈夫だから、もう安心してね。」
それは青年が一番伝えたい言葉であろう。
帰路のハンドルを握りながら、私は不意に涙におそわれた。生前の青年を思いだしていた。そしてその死を止められなかったことの無力さを詫びた。
「庵主さん、僕もう大丈夫だから、安心してね。」
青年は私にも、そんな優しいメッセージを、ふんわりと届けてくれたのかもしれない。
今日は不慮の事故で亡くなった青年の七回忌の法事である。この青年は心の優しい、聡明な人物であった。どなたの死も惜しまれない死はないけれど、本当に惜しまれる死であった。
ご家族の皆さんとともに経を誦した。故人を偲ぶ思いの強いご家族の誦経ほど、亡き人にとって有り難いものはないと思う。 私はできるだけご家族とともに誦経することを旨としている。そのような僧侶は多いと思う。ただ何年たっても家族の涙は新たである。特に母の涙は生涯乾くことはないであろう。やはり涙で経本の文字が読めないことを背中に感じた。
それは、ともに『修証義』を唱えているときであった。
仏壇の前に供えていた花の一輪がふんわりと揺れた。白い霞草だった。経典に目を落としていたが、その気配は私の目を花に釘付けにするほどの力があった。青年からのサインのように思えた。
しかし、私の気のせいか、と思い、どこかから風でも入ってきたか、また揺れるだろう、と思い直して、お経を唱えながら、花を見ていた。
だが二度とは揺れなかったし、どこからも風の入ってくる部屋の造りではない。
やはり、青年の気が訪ねてきたように思えてならなかった。
ご供養が終わった後で、花が揺れましてね、とさりげなく言ったら、青年の弟が僕も見ました。兄さんが来たように感じました、と言った。
彼も経典に目をやっていたはずであったが、経典から目を離させるほどの強い気配であったのだろう。
「前の法事の時は、真っ赤な火の玉のようなものが見えました」と、弟さんは言った。彼は小さいときから繊細で、霊感が強いたちである。私には火の玉は見えなかったが、今日のお花の揺れにはハットするものを感じた。
やはり立証できることでもなく、気のせいと言えばそれまでのことであるが、それぞれへのメッセージと受けとめてもよいだろう。
不慮の事故ではあったけれど、もう落ち着きました、大丈夫だから安心してください、青年はそう言いたかったのかもしれない。私に直接のメッセージの言葉は聞こえなかったが、家族それぞれへの言葉を感じることができる揺れであった。
「お母さん、僕大丈夫だから、もう安心してね。」
それは青年が一番伝えたい言葉であろう。
帰路のハンドルを握りながら、私は不意に涙におそわれた。生前の青年を思いだしていた。そしてその死を止められなかったことの無力さを詫びた。
「庵主さん、僕もう大丈夫だから、安心してね。」
青年は私にも、そんな優しいメッセージを、ふんわりと届けてくれたのかもしれない。