Entrance for Studies in Finance

債券取引-債券レポ取引・現先取引 ver.2

bond trading
債券取引は、取引所ではなく店頭取引が中心。債券市場では、債券の種類が大変多様である(同じ種類の債券でも満期までの期間が違えば異なる商品となる)ため、その取引は相対取引(OTC market)が中心。
 しかし店頭取引となるより本質的な理由は、債券取引の担い手が金融機関を中心とする機関投資家だからだ。個人の比率は極めて小さい。債券取引の中心にある国債取引は、これら機関投資家の資金の一時的な滞留場所、運用の場所となっている、なにより取引単位が巨額化している。つまり業者間売買中心という意味でも、店頭取引になじむ。

日本の場合
日本相互証券(Japan Bond Trading)というbroker's borkerが実質的に債券取引所の機能を果たしてきた。ただし完全に業者間市場inter dealer marketであり、国債取引市場である。そのJBTが提供している電子取引システムがBB Super Trade。
BB super trade
東京証券取引所では、国債をはじめとする債券市場が形式的に開設されたが、現在その機能はほとんど停止している。なお活発に機能してものに長期国債先物市場がある。この間、いろいろな試み(中期・超長期先物、長期国債先物オプションなど)が行われた。なお東証では株式に絡んだ債券である、転換社債(新株予約権付き社債転換社債型)の取引にが存在感がある。

なお日本のMDPとして登場は以下。日興、大和、野村が手を組んでスタート。取引は国債に絞っている。意識的にmulti dealer marketを構築した。エンサイドットコム証券 富士通Symfowareの導入事例としてのエンサイドットコムの紹介

このように国債について活発な業者間市場が存在する一方、それ以外の債券については、業者との相対取引となるのが実情である。その結果、債券価格について、投資家からすれば不透明さが残っている。最大手の野村は日本経済新聞、金融工学研究所、野村総合研究所と組んでJSPrice(債券標準価格)の算定と公開を2002年3月26日から日々行っている。
JS Priceは、日本証券業協会が行なっている公社債店頭売買参考統計値(現在は指定21社の報告による毎日、前日の集計が出されている)とともに、債券時価評価の基準となっている。JS Priceは出だしで1万4000銘柄とされ逐次対象を拡大するとしていた。参考値の方の対象はこのおよそ半分以下である。ただしこちらは実際の取引価格の集計としての意味合いがある(post trading system)。
JS Priceについて
このJS Priceはさきほどのsingle dealerの問題とともに、大きな影響を市場に与えている。それはやはり野村が最大手であることと無関係ではない。なお野村は2007年2月にInstinetを買収している。しかしその使い方は、株についてのcrossing networkのそれであって、JapanCrossingやCBX Asiaといった市場の提供にとどまっている。

singleの意味の変質
singleの意味(single dealer)とも係るが、さまざまな商品ごとにバラバラに分散した市場を統合したこと(さまざまなmulti asset市場の統合という意味にmultiあるいはsingleの意味付けがdealerからassetに変化している)、取引のSTP化を実現したことなどが最近は強調されるようになっている。dealerが1社か複数かという市場の本質にかかわる問題が少し見えにくくなっている。
what single dealer platform isn't
single dealer platform white paper

欧州で本格化する電子債券取引(2000夏)
欧米で定着する債券電子取引(200704)
欧州における債券電子取引の現状(200705)
single dealer platform wikipedia
corporate bond trading system directory
Fidessa
Sybase RAP The Trading Edition intraday risk management

国債取引
 債券取引の中心は国債取引。取引種類には、現物取引のほかに債券レポ取引、債券貸借取引。さらに様々な派生商品取引(先物取引 オプション取引など)がある。
日本証券業協会 公社債の売買取引について 2007年10月3日
日本国債清算機関における債券レポ取引の現状について 2007年5月9日
 国債は比較的長期の資金運用の場所としても、一時的な資金の運用場所としても使われる。国債の高い信用力、高い流動性が、国債投資・取引をさらに促す関係にある。国債保有は、そのリスク管理のための市場の発展も促す。 国債が大量に発行され、金融機関などの運用手段、余剰資金の滞留場所となっている。そこからリスク管理や、裁定、投機など様々な取引のニーズが広がっている。金融機関からみると、国債投資の目的は資金運用と資金調整とが混在 国債投資は資金繰りに用いることができ、バランスシートの調整にも役に立ち、トレーディングツールにもなるなど都合がいいとされる。週刊エコノミスト2010.6.29, p.28参照。
 国債の発行市場をまず検討しよう。

国債の入札
新規国債の入札のところ、国債の発行市場では、中長期的な資金運用先としての国債のニーズが議論される。
 超長期物:生命保険会社、年金基金など(長期保有による金利確保に狙い 高値になると利回り下がるため需要減少)
 新発10年物:長期金利の指標 米国の金利と比較(金利差があるとドル高・円安 金利差小さくなると円高い・ドル安) 国際的な金融不安⇒流動性の高い米国債に資金集まる⇒米国金利下がり日米金利差縮小 金利差が小さくなると日本国内にマネー滞留しやすい
 新発5年物:銀行(預金期間に合わせて中期債運用を重視 その主たる運用先)、証券(銀行などに売るため応札)。TIBOR(東京銀行間取引金利3ケ月物)との比較でTIBORを下回ると高値警戒。銀行の余剰資金:買い圧力。
 新発2年物:証券会社など(余剰資金抱える金融機関のニーズ)見込み応札
 国庫短期証券:証券会社など(余剰資金抱える金融機関のニーズ)見込み応札

 銀行の預貸率は75%程度と過去最低。一時的に大量の資金を運用する先としては国債は便利だが金利変動リスクがある(国債残高682.7兆円のうち、銀行などの保有が293.9兆円43.1% 生損保などが136.7兆円20.0%  公的年金が79.1兆円11.6%。しばしば問題になる日銀は50.2兆円7.4% 海外は35.6兆円5.2% 家計は35.0兆円5.1%である。資金循環統計 2009年末速報値 週刊エコノミスト2010.6.29, p.22より)。銀行は預貸ギャップを埋めるため、国債投資を拡大している(金融財政事情2010.10.18,p.10)。
 なお生保資産の76.7%が有価証券 内訳は国債40.2%、外国証券13.5%、社債8.3%、株式5.9%、地方債3.4%。貸付は14.7%であった(2010年3月末現在 週刊エコノミスト2010.6.29, p.27より)。ALMの浸透により超長期の負債に対応するために。なかでも超長期の投資を増加させている(金融財政事情2010.10.18, pp.10,23)。
 GPIF年金積立金管理運用機構

 平均落札価格と最低落札価格の差(テール):小さい=落札は好調
                      拡大⇒需要縮小、弱い
                      縮小⇒需要拡大、強い、堅調
 TIBOR(銀行の資金調達コスト)の動き:TIBORが企業貸出金利の目安 TIBORさがると貸出収入が減り銀行は国債投資をふやす。
 日銀は金融緩和で企業向け貸出を増やそうとするが、銀行は貸出収入が減ると国債投資に向かってしまう。
日銀は共通担保資金供給オペ(公開市場操作)を行っている。落札額が予定額下回ることは札割れと呼び、資金ニーズの低さを示す。新型オペ(2009年12月導入 供給枠10兆円)が導入されたが、これは国債などを担保に期間3ケ月の資金を固定金利で貸し付けるもの(相手は銀行が中心)。2010年3月供給枠20兆円に倍増。日銀がオペを活発にするとコール(銀行間市場での資金調達)は減る。
公開市場操作の仕組み(日銀)
オペレーションの概要(日銀) 
長期金利の決まり方(日銀)
オペ明細(東京短資)
国債関係資料(財務省)
証券業協会 公社債売買参考値(日次)
証券業協会 公社債売買参考値制度について 2010年5月6日
10年国債利回り(終値 直近1ケ月) 日本相互証券
10年国債流通利回り(6ケ月) traders web
主要国国債利回りの比較 日本 米国 オーストラリアなど、72日 1年 2年 3年(三井住友銀行)

 国債市場で成立する金利は、長期金利の基準基準になる。その変化は、企業の長期資金調達コストに影響して企業行動に影響するだけでなく、住宅投資など個人の消費行動にも影響を与える。
 国債発行では、景気悪化に伴う税収減少のもとでの景気対策のための支出拡大が考えられる。景気が悪化すると貸出需要が減るので、金融機関の国債運用ニーズが高まる。また企業の信用力の低下、企業の資金調達ニーズの低下は、企業の借入や債券発行のニーズを抑制する。金融機関は貸出需要の減少を受けて資金の滞留先を必要とする。それゆえ国債発行が一時的に増加してまた景気回復とともに縮小するなら、国債発行は、景気の振幅を和らげる効果が期待できる。実際には国債発行は景気回復期に十分抑制されず発行残高が累積しがちである。

国債の保有リスク 
 投資にリスクはつきものである。債券投資のもっとも基本のリスクは償還リスク(債務不履行リスク 信用リスク)だと考えられる。これは債券発行者に原因があるリスクである。国債については、信用リスクはもっとも低いという大前提がある。もうひとつのタイプのリスクは、経済環境が変化することによる金利変動リスクである。金利変動は、債券の価格を大きく逆の方向に変動させる。そのリスクの大きさの測定にはdurationのほかbpv, VaRなどがある。

債券の金利変動リスクの大きさを示すduration
  金利変動で債券価格がどの程度変化するかの大きさがdurationである。
duration 残存年数が短いと小さい 年数表示
       5年 1%の金利変動で5%動く
      10年 10%の金利変動で10%動く
durationの解説(PIMCO)
immunization
起こりうる損失額の大きさを算定する方法にはVaR(value at risk)やbpv(basis point value)もある。
 VaRの解説(野村証券)
 bpvについて
 問題は各金融機関が同じようなリスク測定方法と行動基準にしたがっていると、連鎖的に国債売却+国債購入見合わせ⇒国債急落⇒金利急上昇⇒各金融機関のリスク許容度低下⇒国債売却+国債購入見合わせ の連鎖を招くことだ(例 2003年6月のVaRショック)。

注目されるアウトライヤー基準outlier criteria
このように銀行による国債保有が高まることで、銀行が保有する金利変動リスクも高まっている。そこで管理指標として近年注目されているのがアウトライヤー基準outlier criteriaである。これは金利変動が金融機関の財務に与えるダメージの大きさを示す。20%が基準でこれを超えると金融庁が指導する。
 アウトライヤー基準について(ニッキン)
 新BIS規制の解説(三菱UFJ信託銀行 2007年9月)
これは、ストレスシナリオのもとで利回りが2%上下したときに、銀行が受ける損失がtier 1およびtier 2の20%を超えてはならないというもの。これが日本の銀行の国債保有を最終的に制約する("That bloated feeling"in The Economist, July 17, 2010, p.69)。

国債の流通市場
 国債取引は、特定銘柄に売買が集中している。資金調整的な売買も投機的な売買もある。長期保有(長期投資)による期間収益の確保する投資家もいる。一般に売買の目的としては、裁定(アービトラージュ)、投機(スペキュレーション)、ヘッジ[リスク管理]が指摘されるが、資金の調整(流動性の確保手段)、資金の運用(期間収益の確保)、といった側面にも注意する必要がある。
 裁定は同一商品についての、同一時点での市場間の価格差を利用して確実に利益を得ようとする取引だ。裁定を、将来時点との間で使うと、裁定と投機の違いは曖昧になる。可児さんは社債から国債に資金が移る質への逃避(信用リスクの低いものに資金が移ること)、その過程で国債の価格があがり、社債の価格は下がるのだが、それを予想して国債買い上がってから売る、社債を売り下がってから買い戻す、行為をクレジットスプレッド取引と呼ばれる裁定取引だとする。可児滋『金融リスクのすべてがわかる本』日本評論社, 2006年, pp.33-35.しかし確定しない予想の問題を裁定取引にいれると、投機との言葉の使い分けが崩れてしまう。

債券レポ取引bond repurchase agreements or transactions
債券貸借取引bond lending and borrowing transactions
現先取引gensaki agreements

 債券レポ取引と日本の現先取引の違いもよく指摘される。いずれも資金取引(短期資金の調達運用)である。別名、現金担保債券貸借取引ともいう。厳密には債券貸借取引(bond borrowing and lending transactions)のうち、とくに現金を担保に入れるものを債券レポ取引という。資金調達側は資金を必要とする証券会社とされる。
 しかし債券レポ取引には、どの債券を借りるかは問題でなくて現金(資金)を入手することに目的があるケース(cash driven transactions)のほかに、特定の債券を借りるための取引、たとえば空売りする特定の債券を入手するためのケース(securities driven transactions)がある。後者では債券の貸借料が、前者では資金の金利が問題にされる。金融機関の間では資金取引として活発に利用されている。
 債券を用いた資金取引としては、もともと債券担保現金取引がある。これは言葉通り債券を担保に現金を調達するつまり資金を調達する方法で別名現先取引(gensaki agreements)である。証券会社はたとえば国債代金の手当てにこの市場を活用してきた。
 日本では以上のように何が担保であるかを重視するが、英米の市場では、売買取引として理解されており、買戻し条件付きの売り付け(repo=repuchase agreements)とされる。ポイントは売りと買いが一組の取引として実行されることである。また包括契約master agreementが存在する点にある。なおsell buybacksという取引は売り買いを同一時点で同じ相手に行うが、売り買いは独立した取引で、master agreementは存在しない。
 日本社会の理解では、売り付けをする側は債券を担保に資金を借りている。反対の売り戻し条件付きの買い付け(reverse repo)をする側は、債券を担保にとって資金を貸している。利息は、債券売買の価格差として現れる。このような取引によって債券を保有している側は資金を調達して、売買価格差という形で利息を支払うことになる。資金を貸す金融機関間においても、国債のように信用度の高いものを実質的に担保に取るとはリスクの軽減になる。
 現先取引は、資金調達の形態であるので、価格差にはそのときの金利水準が反映する。日本の現先市場と海外のレポ取引(repurchase agreements)とは実質的には同じものだ。Japanese repo marketがJapanese gensaki marketである。*
*現先市場がレポ取引と実質同じなら(1989年5月に)債券貸借市場を作る必要がなかったはずだといわれればそのとおりである。しかし債券貸借市場をつくったのは有価証券取引税を回避するため。つまり有価証券取引税の有無の違いがあった。また現先市場には、債券ディーラーに買い現先を禁止する規制もあった(1995年12月に規則不存在の確認)。また債券貸借で現金担保を入れるときの付利に上限規制があった。この規制が1996年1月に撤廃され、1996年3月に債券貸借取引に関する基本契約書(参考例)がまとめられて、債券レポ市場は確立する。つまり実質は近いのだが、売買か貸借かという法形式の問題、背景にある法的な裏付けの問題に違いがある。相沢幸悦「わが国の債券レポ取引」西尾夏雄ほか編著『世界経済危機と日本経済』時潮社, 2010年, pp.217-233.
レポ取引によって証券会社に可能になったのは短期資金取引である。短期借り長期貸しのポジションは、預金を資金源とする銀行の基本的な問題として知られる。レポ取引により、短期資金が証券会社やヘッジファンドなどに利用可能になり、これらの金融組織が、銀行と同様のリスクを抱えるに至ったとの考え方がある。そのリスクを拡大したメカニズムとされるのが、担保として預かっている債券や株券を再担保に出せる再担保契約rehypothecationである。以下にBearSternsの倒産により、信頼によって成り立っていたレポ市場崩壊の描写がある。Scott, McCleskey, When Free Markets Fail, Wiley, 2010, pp.13-14.

取引の動機
 長期保有
 益出し
 リスクヘッジportfolio insurance
 入れ替え商い

証券会社への影響effects of the development of bond trading on securities companies
 なお、証券会社が投資銀行的な業務を拡大すること(プライマリーからセカンダリーへ)は、このような国債取引を通じた資金供給によっても促進されたと考えられている。
 1980年代 自己資金で短期売買で収益の大半を稼ぐ
 1990年代 セカンダリ-での顧客のヘッジファンド化→セカンダリーでの収益性低下→ヘッジファンドに与信を与える
 2000年代 →自らヘッジファンド同様のビジネスを展開
(今井光「米投資銀行モデルの蹉跌」『金融財政事情』08/10/13, 15)

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Mar.29, 2008
corrected and reposted in August 30, 2010 and November 7, 2010.

電子取引システムの拡大と本邦市場へのインプリケーション 2001-j-1
証券市場論講義
債券とは何か
国債の消化問題
債券取引 債券レポ取引 債券現先取引 ver.1
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