中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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樹氷が見事な丹沢:塔ノ岳

2007年12月21日 07時02分47秒 | 丹沢の山旅

                <塔ノ岳山頂から富士山が良く見える>  

            樹氷が見事な丹沢:塔ノ岳
             (第43回単独山行)
           2007年12月20日(木)


■朝から気分が悪い
 昨日の天気予報で,今日は絶好の登山日和になることが分かった。ならば,暫く訪れていない塔ノ岳に登ろうと思い立つ。
 早朝,4時に起床する。
 天気の良い日は,放射冷却のために夜明け時の気温は随分と下がる。兎に角,太陽が出るまでは,寒さ対策を十分にしなければならない。私は,一昨年,ニュージーランドのハーミテージホテルで,入手した毛糸の帽子を被って,出掛けることにした。
 この帽子を入手した経緯を話し出すと長くなるので,ここでは省略するが,羊毛で編んだ男女兼用の格好いい帽子である。
 5時10分に家を出発する。まだ外は真っ暗である。住宅地の中の自動車道路をモノレールの湘南町屋に向かう。歩き出してすぐに,後から「バリ,バリ・・・」と凄い音を出しながら乗用車が通り過ぎる。私の後ろ姿を見てから急ブレーキを踏んで,50メートルほど先に急停車する。ヘッドライトを付けたまま,ジッと停まっている。辺りには私以外に人は居ない。一瞬,私は,
 「これはヤバイ・・・真っ暗な中で,毛糸の帽子を被った私を,多分,女性と勘違いしたんだろう・・・」
と推測する。このまま自家用車に近付くのは危険だと判断した私は,道路を横断して反対側の歩道に渡る。そして,不審な動きがあったら,直ぐに近くの家に飛び込むつもりで,先に進む。ついでにどんな輩が自動車を運転しているのか確かめる。運転席は良く見えないが,どうやら若い男性のようである。
 案の定,ヘッドライトの光の中に,老いぼれの私の姿が現れると,自動車はもの凄いスピードで走り去る。
 この頃,私の住む住宅地でも空き巣や痴漢が頻出していて,治安が悪化している。 実に不愉快な気分のまま,湘南町屋駅からモノレールに乗って大船駅に向かう。

■自慢も程々に
 何時ものように,小田急線渋沢駅から大倉行の2番バスに乗車する。2番バスの乗客は,10名足らずである。その内,登山客は6名である。ご常連お一人を除くと,普段見掛けない顔ばかりである。
 ベンチで身支度を整えていると,同じバスに乗り合わせた女性が,
 「私,今日が今年の登り納めです。どちらへお登りですか?」
と私に話しかける。私は少々どぎまぎしながら塔ノ岳へ登ると返事する。すると女性は,
 「バカ尾根は大変ですよ」
と私に注意する。女性は今年3回も塔ノ岳に登ったと自慢する。私は,今回43回目の塔ノ岳詣でである。でも,43回目ですよとは,ついつい言いそびれる。やや苦笑しながら,
 「そうですか・・まあ行けるところまで登ってみます」
と返事をする。

■ロウギヤー型とトップギヤー型
 バスに乗り合わせたご常連の男性登山客,仮にKさんとしておこう。Kさんは,私と同じぐらいの年格好。長身で物静かな紳士である。かなり頻繁に塔ノ岳に登られているらしくて,月に数回はお目に掛かっている。お互いに名前は知らないが,合えば必ず会話を交わしている間柄である。
 Kさんも,私も,大倉尾根を,おおむね2時間20分前後の速度で登っている。ところが二人の登り方が,かなり違うから面白い。
 まず大倉を出発する時間が違う。Kさんは,大倉でバスから降りると,ほんの2~3分で身支度を整えて,ゆったりと歩き出す。私は10分程度ストレッチをするので,Kさんから数分遅れて歩き出す。
 Kさんは,平坦な場所でも,急坂でも,何時も定速で歩いている。それに比較して,私は歩く負担をなるべく一定にするために,傾斜がなだらかなところは速く,急坂はどうしても遅く歩くことになる。 
何時ものことながら,Kさんより数分遅れて歩き出す私は,丹沢ベース辺りで,一旦,Kさんを追い抜く。そのまま飛ばして,見晴茶屋付近では,後にいるKさんが見えなくなるほどの距離が空く。ところが,堀山の家を過ぎてからの急坂で,Kさんが,後から,だんだんと近付いて来る。そして,花立山荘に到着する付近で,Kさんに追い抜かれてしまう。その後,金冷しから山頂に至る間に,Kさんとの差がますます開く。そして,Kさんが山頂に到着してから,数分後に私が山頂に到着する。この定番のパターンを何時も繰り返している。
 一言で,Kさんと私の違いを言えば,Kさんは「ロウギヤー型」,私は「トップギヤー型」なのだろう。登り坂に滅法強いKさんにあやかりたいなと何時も思っている。

■山岳ガイドの指摘を遵守する
 素晴らしい天気である。
 7時39分に大倉を出発した私は,ラップタイムを記録しながら,何時ものペースで登り続ける。登山口,克董窯,丹沢ベース,観音茶屋と進むが,不思議なことに,毎回,ラップタイムが全く同じになる。1分の狂いもない。8時14分に観音茶屋を通過する。同じバスに乗り合わせた方々は,この辺りまでで,全員追い抜く。
 私は,ストーンマジックで先日行われた練習で,山岳ガイドのサンダーウエストさんから,歩き方について注意を受けていたことを思い出す。
 「flower-hillさんは,脚力にものを言わせて力任せに登っていますよ・・・もう少し身体の重心を前方に持っていけば,もっと楽に登れますよ・・・」
 私は,この指摘を思い出しながら,重心の移動に留意して登り続ける。
 8時27分に一本松を通過する。なるほど,ガイドの指摘に留意しながら登ると,心なしか足が前に良く出るような気がする。

■中年の夫婦
 山を歩くには,今日の気温は少々高いが,太陽が冬の透明な空気の中を射し込んでくる。進行方向右手には,三ノ塔が良く見える。三ノ塔山頂の建物が朝日を反射して眩しく光っている。
 8時55分に堀山の家を通過する。堀山の家のベンチで数名の男性が休憩を取っている。その後,このグループを見掛けることがなかったので,どうやら途中で下山したようである。ここから花立山荘までが,大倉尾根の核心部になる。サンダーウエスト氏のご指摘を念頭に置きながら登り続ける。足が円滑に前に出てしまうので,ついついオーバーペースになりそうになる。私は,自制しながら,足裁きに留意して,急坂を登り続ける。
 途中,萱場平辺りから上は,道路が凍てついている。日中に溶けた霜柱が夜中に凍結してカチカチになっている。登山者が付けた無数の足跡が,そのまま凍り付いている。萱場平のベンチに座っている中年の夫婦を追い抜く。この夫婦は,私のすぐ後を追いかけるように歩き始める。その内に夫婦との間隔が,だんだんと開いて,いつの間にか夫婦の姿が見えなくなる。

■素晴らしい樹氷
 9時45分に金冷しを通過する。一段と寒くなる。山頂付近の木々は霧氷で花が咲いたように美しい。樹氷が余りに美しいので,ついつい立ち止まり,樹氷の写真を撮りまくる。こんな道草をしないで,サッサと登れば,2時間10分台で山頂に到着できるのに・・・ でも,下山する頃には,気温が昇って,この樹氷も溶けてしまうだろう。こうなると,もうラップタイムなど二の次,兎に角,この樹氷を堪能しようと腹をくくる。
 道草をしたものの,10時01分に塔ノ岳山頂に到着する。今日の登攀所要時間は2時間22分02秒。まあまあというところだろう。あと2秒早く到着すれば,2時間21分なのに・・・でも,2時間21分と記録したのでは,自分に嘘を付いていることになるので,気色が悪い。
 山頂からは,相変わらず富士山が綺麗に見えている。素晴らしい眺望に見とれながら,写真を撮っている。すると,ほどなくKさんが山頂に到着する。途中,後を見ても見えないぐらい間が空いていたのに・・・こんなに早くKさんが山頂に到着するとは・・・正にビックリである。
 Kさんは山頂で合掌してから,直ぐに下山してしまう。私は尊仏山荘に向かう。



                   <山頂付近の樹氷>

■尊仏山荘にて
 尊仏山荘に入る。今日の小屋番はエリアマップ『丹沢』の執筆者,Oさんである。先客は1人。Oさんとカントリーミュージック談義の真っ最中である。この方,進駐軍のFEN放送でウエスタンやカントリーに聞き惚れていたというから,かなりの年輩のようである。
 「レコード聴くために,針を沢山買ってありますよ・・・」
 「新宿の××へ行くと,カントリーのレコード沢山売ってますよ」
とOさん。
 10時現在の塔ノ岳山頂の気温は+2℃。この時期にしてはかなり暖かい。例によりお茶を所望する。早速,Oさんが,
 「2番バス,何人ぐらい乗ってましたか? ご常連,居ましたが? カメラマン乗っていませんでしたか?」
と矢継ぎ早に私に質問する。
 お茶を飲みながら,少々早い昼食を摂る。暫くすると,萱場平で追い越した夫婦が尊仏山荘に入ってくる。私の姿を見ると,
 「先ほど追い越されちゃいましたね・・・後ろから見ていると歩き方が違いますね」
とくすぐったいことを言う。暫くの間,居合わせた客とOさんを交えて雑談に興じる。
 「ところで,今日は営業部長,お休みですか?」と
Oさんに伺う。すると,Oさんが,
 「お~い・・ミーや,出てお出で・・」
と猫を呼ぶ。するとミー君が眠そうな顔をして,のっそりと姿を表す。
 先客の男性が私に話しかける。
 「ところで,塔へはどのくらい登っているんですか?」
 「今日が,今年43回目です・・・目標は年間50回と思っていたんですが,無理のようです。」
 「そんなに・・!」
 「いえ,いえ,ここでは鼻も引っかけられませんよ・・・何しろ1日に2回も登ってる人も居ますから・・・」
 Oさんが話し出す。
 「凄い人がいるんですよ・・・71才になるのに,大倉尾根を2時間切る時間で登って来る方も居ますよ・・」

■山旅スクールの同窓生2人にバッタリ会う
 私は大倉発12時52分のバスに乗りたい。下りで無理をして怪我をしてもつまらないので,十分時間を取って,10時38分に尊仏山荘を出発する。山頂で休憩を取る人の数が随分と増えている。
 次から次への登ってくる登山客とすれ違いながら,のんびりと下り続ける。
 10時50分,金冷しを通過する。そしてヤセ尾根を歩いていると,突然,前方から来た女性に,
 「flower-hillさ~ぁん」
と呼び止められる。逆光なので,近付くまで誰だか分からなかったが,山旅スクール6期のXさんである。樹氷の美しい日にすれ違ったので,仮に「樹氷さん」と呼ぶことにしよう。実は樹氷さんには,これまで塔ノ岳で何回か会っている。
 「やあ,今日は・・今朝,山頂付近の樹氷が綺麗でしたよ・・・もう溶けてしまいましたが・・・」
 「そうでしたか・・・今朝,寝坊してしまい,出発が遅くなっちゃいました。今日は何とか2時間40分ぐらいで山頂まで行けそうです・・・flower-hillさんはどのくらいかかりましたか?」
 「今日は,2時間22分でした・・」
 樹氷さんに,2時間40分の記録がかかっているのでは,長話はできない。また会いましょうと挨拶して,そそくさと別れる。
 11時02分,花立山荘に到着する。この付近からの駿河湾の眺望は実に素晴らしい。富士山も良く見えている。ついつい足を止めて景色に見とれてしまう。
 急な階段を下り続け,11時25分に戸沢分岐を通過する。ここで,今朝方,私に「バカ尾根は大変ですよ」と注意した女性とすれ違う。
 「あれ!・・・もう山頂まで行って来られたんですか!」
とビックリしている。私は心の中で「貴方が偉く遅すぎるんですよ」と悪態をつく。
 11時35分に堀山の家に到着する。するとここで,山旅スクール5期のスケルトンさんとバッタリ会う。スケルトンさんとは,一昨日,三浦アルプス北尾根を縦走したばかりである。お互い山に狂っているなと苦笑する。スケルトンさんは,
 「今日は時間が取れたので,山頂まで登ってこようと思っています・・」
と張り切っている。前回,戸沢分岐辺りでスケルトンさんにお会いしたときは,再び塔ノ岳山頂まで登り返したが,今日は,夕方4時から始まるテレビ「水戸黄門」を見たい。そこで。数分雑談した後,お別れする。

■ちょっと感傷的になる
 11時58分,駒止茶屋を通過する。物音ひとつ聞こえない静かな尾根道を歩き続ける。この時間になるとすれ違う登山客も殆ど居なくなる。表尾根の山々が静かに見えている。素晴らしい風景を眺めている内に,突然,昔々,大学生だった頃,ドイツ語の授業で教えてもらったゲーテの詩を思い出す。
  Über allen Gipfeln
  ist Ruh’
  In allen Wipfeln
  Spürest du
  Kaum einen Häuch;
  Die Vögeleine schweigen im Walde
  Warte nur! balde
  Ruhest du auch
    山々の頂に
    憩いあり。
    木々のこずえに
    そよ風の気配もなし。
    森に歌う
    小鳥もなし。
    なれもまた憩わん
              [高橋健二(訳)]
 私も高齢である。野球に例えるならば,私は今9回裏である。ただ1アウトか2アウトか,もうすぐゲームセットか良く分からない。ただ,この詩の最後「なれもまた憩わん」が妙に気になる。言うまでもなく「憩う」は「永遠の死」を意味する。
 そんなことを,モニャモニャと考えながら下り続ける。

■走る!
 リュックが邪魔 12時22分に見晴茶屋を通過する。時計を見て「ハッ」とする。このままだと12時52分のバスに間に合わない。別に次のバスに乗っても構わないのだが,兎に角,急ぐことにする。12時40分に丹沢ベースを通過する。後,12分しかない。登山口から小走りになる。走ると,背中のリュックが左右に揺れて始末が悪い。それでも,登山口から大倉バス停まで3分で駆け抜ける。
 12時52分のバスに乗車する。乗車した登山客は,私1人。
 小田急線の相模大野を経由して,15時頃帰宅。
 ゆっくりと「水戸黄門」のテレビを鑑賞する。私はこの番組の素晴らしいマンネリズムが好きである。

[ラップタイム]

 7:39  大倉歩き出し(290)
 7:44  登山口(325m)
 7:47  克童窯(350m)
 7:52  丹沢ベース(390m)
 7:58  観音茶屋(465m)
 8:02  高原の家分岐(500m)
 8:12  雑事場ノ平(595m)
 8:14  見晴茶屋(605m)
 8:27  一本松(745m)
 8:40  駒止茶屋(855m)
 8:48  堀山(910m)
 8:55  堀山の家(925m)
 9:10  戸沢分岐(1075m)
 9:12  萱場平(1090m)
 9:32  花立山荘(1260m)
 9:45  金冷し(1330m)
10:01  塔ノ岳山頂 着(1465m)
-----------------------------------
10:38    〃   発(+1.0℃)
10:50  金冷し(1330m)
11:02  花立山荘(1260m)
11:21  萱場平(1090m)
11:25  戸沢分岐(1075m)
11:35  堀山の家着(925m)(11:41まで休憩)
11:49  堀山(910m)
11:58  駒止茶屋(855m)
12:10  一本松(745m)
12:22  見晴茶屋(605m)
12:24  雑事場ノ平(595m)
12:31  高原の家分岐(500m)
12:35  観音茶屋(465m)
12:40  丹沢ベース(390m)
12:45  克董窯(350m)
12:47  登山口(325m)(ここから走る)
12:50  大倉 着(290m)

■登攀・下降高度
 塔ノ岳山頂    1491(m)
 大倉        290
  (高度差    1201m)
■登攀所要時間
 大倉発      7:39
 塔ノ岳山頂着  10:01
    (所要時間2時間22分(2.37h)
■登攀速度
  1201(m)/2.37(h)=506.8(m/h)
■下降所要時間(休憩時間を含む) 
 塔ノ岳山頂発  10:38
 大倉着     12:50
    (所要時間 2時間12分(2.20h))
■下降速度
  1201(m)/2.20(h)=545.9(m/h)
                            (おわり)



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