鍼灸師「おおしたさん」のブログです

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前向きの抱っこ紐について

2023年09月20日 | 子育て
前向きの抱っこ紐を使って子どもを連れている親御さんをしばしば見かける。私の時代にはなかったし、お腹とお腹の触れ合いの方が大切だとの思いもあるので多少違和感を感じるが、子どもは色々なものを見る事ができるし、これはこれでありなのかと特に気にも留めないでいた。

先日子どもの発達や療育を専門に活躍する理学療法士、中原規予さんの勉強会に参加した。その中でゴンドラ猫の実験の話があった。実験は自分の意志で自由に身体を動かせる猫と、ゴンドラに入れられた状態で動かされる猫の比較実験で、ゴンドラに入れられた猫は正常な空間認識能力が形成されなかったというものだった。この実験の事を全く知らず恥ずかしい限りだが、これは前向きの抱っこ紐にも通じるもので、抱っこができるほどの小さな子どもに他動的な動きを多用するのは少し控えた方がいいかもしれない。

それで思い出したのが昨今の視覚偏重時代の事。今や子育てにYouTubeやゲームアプリが欠かせないものになっているが、五感を育むには近くから遠くが基本。触れる、舐める、匂うといった体に近いところの感覚をまずは養い、視覚や聴覚に移行する事が大切だ。まだ体に近い部分の感覚が育っていないのに、視覚を多用する生活が増えれば、空間認識能力だけでなく、心の根の育ちに影響があるのではないだろうか。

中原さんも私も前向きの抱っこを頭ごなしに絶対にダメだと言っているのではない。以下のリンクにその長所として、「それは、なんといっても赤ちゃんの脳に刺激を与える事です」とあり、月齢によっては、また赤ちゃんによっては、この背中を合わせるといった不思議な刺激もたまには良いかもしれない。

これを書きながら、農薬や殺虫剤による環境汚染の実態をいち早く警鐘した生物学者レイチェル・カーソン女史の「知る事は感じる事の半分も重要ではない」という言葉を思い出した。なんでもそうだが、分かった感じになるのと実際の体験では、その五感全てを使った諸々について、インプットの在り方が全く違う。視覚へのあからさまな依存は弊害しかなく、まずは赤ちゃんのお腹合を母親と合わせる普通の抱っこやおんぶを辛抱強く行い、もっとも近い皮膚への刺激をこれでもかと繰り返す。このゴンドラ猫の実験等も参考に、視覚を刺激するのを後回しにしつつ、子どもと歩むのが心の根を育てる上でも良いと思う。


見ること聞くことは、触れること味わうこと嗅ぐことに比べて体から遠く離れてます。だから子どもにとって実体化するのがとても難しいです。まずは触覚や味覚、嗅覚を育て、それから視覚や聴覚を養う。幼少期より視覚や聴覚を刺激し続ける生活を送ってきた子どもは、服を着させず冬山に放り出すようなものと解釈して良いほどだと私は思っています。 

ゴンドラ猫の実験
2匹の猫がつなぎ縦縞の実験室に入れる。片方の猫は自分の意志で自由に身体を動かせ、もう片方の猫はゴンドラに入れられた状態にする。

2匹の猫は点対称の動きをするので、基本的に「同じもの」を見ることができる。こうした環境で育った二匹のうち、自分で身体を動かしていたほうの猫は、モノとの遠近感覚などの正常な「認識能力」を身に付けた一方、もう一方のゴンドラに入れられた方のネコは、正常な空間認識能力が形成できなかった。

赤ちゃんの好奇心を育てるという、とても素晴らしいメリットがあります。
デメリットを考慮したうえで、腰がすわる6か月頃から短時間、前向きで抱っこ紐をつけてお母さんと同じ目線で物を見ることで、赤ちゃんの好奇心を育ててみてはいかがでしょうか。

大人が動画に依存している時代だから仕方ないかもしれないが、小さい時に「見る事ができても触れられないもの」に依存した生活を送ると、現実世界から離れた場所に居場所を探すようになる。

<レイチェル・カーソン>
著書『沈黙の春』で農薬や殺虫剤による環境汚染の実態をいち早く警鐘したアメリカの生物学者。
これを読んだケネディ大統領が環境汚染に強く関心を示し、DDTという農薬の使用が全面的に禁止されたのは有名な話。
 
『「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない』
知識よりも感性を磨く事の大切さ、その感性を育てるためには自然から学ぶ事が一番大切!


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