平安夢柔話

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私家版かげろふ日記

2007-01-24 10:35:20 | 図書室2
 今回は、少し異色の「蜻蛉日記」の現代語訳の本を紹介します。

☆私家版かげろふ日記
 著者=杉本苑子
 発行=文化出版局(単行本) 講談社(文庫版)

☆本の内容紹介
 「私は身分違いの相手に想われ、玉の輿に乗った女である。」並外れた美貌と作歌の才に恵まれた平安朝の一女性が、浮気の絶えない夫との生活から女同士の確執、一人息子への溺愛ぶりまでを赤裸々に綴る。無類に面白い千年前の記録を、大胆かつしなやかな日本語で生き生きと再現させた現代人必読の日記。

*図書館で借りた本なので画像はありません。ご了承下さい。

 タイトルの通り、杉本苑子さんによる独自の、蜻蛉日記の現代語訳です。

 「蜻蛉日記(かげろふ日記)」は、藤原倫寧の女で藤原兼家の妻の一人となり、兼家との間に道綱を産み、のちに「藤原道綱母」と呼ばれることになる女性が、兼家との20年にわたる結婚生活をつづったものです。テーマはズバリ、「一夫多妻の世界」、夫の浮気に悩み、時には、時姫や町の小路の女や近江など、夫の他の妻たちに嫉妬する様子が赤裸々に描かれています。また、夫の病気により夫婦の愛情を確認したり、息子のことを心配したり…といった、愛憎と悲喜こもごもの日常が淡々と描かれており、その内容は、書かれてから千年経った現在でも共感できる部分が多い日記です。

 この本は、そんな「蜻蛉日記」を現代的にわかりやすく訳したものです。外来語も多く使われており、会話も現代的で親しみやすいです。

 この現代語訳の大きな特徴は、原文にはあまり書かれていない当時の政治情勢を、本文の中にうまく盛り込んでいることだと思います。兼家と言えば右大臣師輔の三男、つまり若い頃から政権の中枢の近くにいた人で、最終的には摂政にまで出世した人物です。なので、兼家と当時の政治情勢は切っても切れないものなのです。

 たとえばこの本では、冷泉天皇即位、その弟守平親王立太子の事情が詳しく描かれています。実は、冷泉天皇と守平親王は村上天皇を父に、藤原安子を母に持つ同母兄弟ですが、二人の間にはもう1人、為平親王という同母兄弟がいました。つまり、守平親王は兄の為平親王を飛び越えて皇太子に立てられたのです。
 これには、為平親王が、当時左大臣で実力者であった源高明の女を妃にしていた…という理由があったようです。「もし為平親王が天皇になったら、舅の高明が実権を持ってしまうかもしれない。」という、藤原氏の人たちの思惑があったのでしょう。そこで強引に、守平親王を皇太子にしたのではないか…とこの本に描かれています。
 さらにこの本には、道綱母の兄の「あんたの夫の兼家も、守平親王立太子に一役買ったかもしれないぜ」というせりふが出てきます。道綱母はそれを聞き、「男の世界はおぞましい」と思ったのでした。この場面を読むと、「兼家という人物は若い頃から野心家だったのだな」というイメージを強く受けます。

 その他、上で述べた為平親王の舅、源高明が左遷された事件「安和の変」のこと、兼家と兄の兼通の対立といった政治情勢についての事柄がたくさん出てきます。「道綱の加冠役は、醍醐天皇の皇子として生まれ、臣籍に下って源姓を賜り、政界では左大臣にまで昇りながら、後に兼通の陰謀によって実権のない一親王に戻されてしまった源兼明だったのか…という事実に改めて気づかされたりもしました。

 また、道綱母はわりと交際範囲が広いなとも感じました。兼家の妹で村上天皇の後宮に入り、「貞観殿尚侍」と呼ばれた藤原登子、兼家の異母妹で源高明の妻となった愛宮などとも交際があったようです。これらの人々との様々なエピソードも面白いです。

 しかし、何と言ってもこの本で一番光っているのは兼家です。確かに女好きで浮気者で、道綱母を悩ませる男ですが、とにかく明るくてユーモラスで、私はこの兼家という人、結構好きなのですよね。
 そして道綱母も、そんな兼家のことが大好きだったのではないか…と思います。
 もちろん、この本は道綱母の語りで話が進行しますので、彼女の行動や心の動きも生き生きと描かれています。 夫に対して素直になれず、その上いつまでも子離れできない道綱母、何か身近に感じます。そんな両親の間で右往左往する道綱くんもなかなかかわいい。この3人、とても魅力的です。

 そしてラストには嬉しいことに、「その後の蜻蛉日記」と題して、道綱母のその後の様子もまとめられています。彼女が養女にした「兼家が一時通っていた女に産ませた娘」がその後どうなったのか、ずっと気になっていたのですが、どうやら円融天皇に入内した藤原詮子の女房になったようです。もちろん、兼家や道綱のその後についても書かれています。

 ただ、この本では和歌の贈答部分など、省略されている部分も多いようです。今度はぜひ、正統派の「蜻蛉日記」の現代語訳も読んでみたいなあと思いました。

 なおこの本は、1996年に文化出版局から単行本として出版され、その後、講談社文庫からも刊行されましたが、現在では単行本・文庫本ともに絶版のようです。興味を持たれた方は図書館か古本屋で探してみて下さい。これから「蜻蛉日記」に触れようと思っていらっしゃる方、「蜻蛉日記」の時代背景を知りたい方には特にお薦めです。

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