今回は、斎王の人物列伝の本を紹介します。
☆斎宮志 伝承の斎王から伊勢物語の斎宮まで
著者=山中智恵子 発行=大和書房
目次
1. 伝承の斎王たち
2. 大来(伯)皇女
3. 文武朝の斎宮
4. 女帝時代の斎宮
5. 井上内親王
6. 酒人内親王
7. 淳和・仁明朝の斎宮
8. 晏子内親王
9. 恬子内親王
☆すでに絶版だそうです。ご興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。私も図書館で借りました。なので今回は画像はありません。
倭姫などの伝承の斎王たちから、「伊勢物語」69段のモデルとされる恬子内親王までの歴代斎王たちについての人物評伝です。当時の史料をもとに、斎王たちの生涯に迫った貴重な本という印象を受けました。
ただ、最初に書いておきますが、この本、「日本書紀」「続日本紀」「日本紀略」などの史料はすべて、漢文で引用されています。また、「古事談」や「伊勢物語」、和歌などの古典文学の現代語訳はついていません。なので、原文引用の部分は私にとってはちょっと難しかったです。勉強不足を痛感…。
特に、私は伝承の斎王たちの時代についての知識はほとんどないので、「1 伝承の斎王たち」の部分はかなり難解でした。
でも、大伯皇女以降は、漢文や古文の意味があまりよくわからないながらも、かなり楽しく読むことが出来ました。その理由はやはり、私が斎王に興味があるから、飛鳥~平安時代初期に関心があるからだと思います。興味があれば、わからないながらも何とか読めるものですね。
それにこの本、各斎王たちの母方の系譜が詳しく述べられていて、興味を引かれました。平安初期までの斎王には、母方の系譜をたどっていくと天武天皇に行き着く斎王が目立つような気がしました。
今までほとんど存在を知らなかった、文武・元明・元正天王時代の斎王や、淳和・仁明・文徳天皇時代の斎王のことを知ることができたのも、この本を読んだ大きな収穫ですが、最も興味深く読んだのは、三代の斎王と言われる斎王たちの項と、恬子内親王の項です。
でも、三代の斎王のうち、朝原内親王の項目がない…と思われた方、安心して下さい。朝原内親王については、酒人内親王の項で詳しく述べられています。
三代の斎王のうち、まず井上内親王ですが、斎王→白壁王の妃→白壁王が光仁天皇になったことによって皇后に→謀反の罪を着せられて廃后→獄死という、あまりにも苛烈で波乱に富んだ人生を改めて認識させられました。怨霊になったのも当然…とも思いました。
それと同時に、謎の多い女性という印象も受けました。
例えば、彼女が産んだ多戸親王について…。実は、井上内親王が多戸親王を産んだ年齢は45歳なので、不自然だという考えも根強いようなのですよね。それで、多戸親王は実は、井上内親王の母方の一族、県犬養氏の女性が生んだ子で、生後間もなく、井上内親王の養子になったという説があるそうでこの説のことは初めて知りました。
私は、多戸親王はやはり、井上内親王自身が産んだと思うのですが、1300年近く前のことですから、真相は謎ですよね。
酒人内親王に関しては、獄につながれてしまった母や弟のことを気にかけながら、伊勢に下っていったという経験が、その後の彼女の人生に大きな影響を与えたようです。でも、酒人内親王は生涯、母の井上内親王に守られ、幸福な一生だったのではないかと書かれていました。井上内親王に守られていたという点では、朝原内親王も同様です。酒人内親王も朝原内親王も、斎王として天皇の妃として、更に一人の女性として、たくましく生きたという印象を受けました。
そして、私がこの本で最も楽しみにしていた恬子内親王の項も、とても読み応えがありました。
恬子内親王は、斎王として伊勢に赴いている間に、母の紀静子、兄の惟條親王、それに、頼もしい後ろ盾になってくれるはずだった伯父の紀有常まで失っていたのですね…。親族との縁の薄い女性だと感じました。
そうそう、伊勢物語69段は史実なのか虚構なのかについても少し、触れられていました。著者の山中さんのご意見は、業平が、惟喬親王の消息などを携えて伊勢に来たことがあり、恬子内親王とも会っていたかもしれないが、恬子内親王が業平との間に子を産んだのは疑問だとされています。
そして、もしかすると、高階茂範の養子となった師尚は、実際に業平の子だったかもしれないが、業平が別の女性との間にもうけた子だったかもしれないとも書かれていました。
更に言えば、天武天皇の後裔である高階氏が、業平と恬子内親王の恋の噂によって、平城天皇の後裔とされたのだから、それだけ皇統と近くなったということだ。高階氏にとっては、この噂は歓迎すべき話だったのでは…と述べられていました。これはなるほどと思いました。
それにしても、もし、業平との逢瀬が真実だったとしたら、恬子内親王にとっては、この一夜の思い出が一生の宝物となっていたのでしょうね。
このように、「斎宮志」は、斎王たちについて、色々な興味深いことが書かれた本でした。斎王に興味のある方、斎王についてもっともっと知りたいと思っている方にはお薦めの1冊です。
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☆斎宮志 伝承の斎王から伊勢物語の斎宮まで
著者=山中智恵子 発行=大和書房
目次
1. 伝承の斎王たち
2. 大来(伯)皇女
3. 文武朝の斎宮
4. 女帝時代の斎宮
5. 井上内親王
6. 酒人内親王
7. 淳和・仁明朝の斎宮
8. 晏子内親王
9. 恬子内親王
☆すでに絶版だそうです。ご興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。私も図書館で借りました。なので今回は画像はありません。
倭姫などの伝承の斎王たちから、「伊勢物語」69段のモデルとされる恬子内親王までの歴代斎王たちについての人物評伝です。当時の史料をもとに、斎王たちの生涯に迫った貴重な本という印象を受けました。
ただ、最初に書いておきますが、この本、「日本書紀」「続日本紀」「日本紀略」などの史料はすべて、漢文で引用されています。また、「古事談」や「伊勢物語」、和歌などの古典文学の現代語訳はついていません。なので、原文引用の部分は私にとってはちょっと難しかったです。勉強不足を痛感…。
特に、私は伝承の斎王たちの時代についての知識はほとんどないので、「1 伝承の斎王たち」の部分はかなり難解でした。
でも、大伯皇女以降は、漢文や古文の意味があまりよくわからないながらも、かなり楽しく読むことが出来ました。その理由はやはり、私が斎王に興味があるから、飛鳥~平安時代初期に関心があるからだと思います。興味があれば、わからないながらも何とか読めるものですね。
それにこの本、各斎王たちの母方の系譜が詳しく述べられていて、興味を引かれました。平安初期までの斎王には、母方の系譜をたどっていくと天武天皇に行き着く斎王が目立つような気がしました。
今までほとんど存在を知らなかった、文武・元明・元正天王時代の斎王や、淳和・仁明・文徳天皇時代の斎王のことを知ることができたのも、この本を読んだ大きな収穫ですが、最も興味深く読んだのは、三代の斎王と言われる斎王たちの項と、恬子内親王の項です。
でも、三代の斎王のうち、朝原内親王の項目がない…と思われた方、安心して下さい。朝原内親王については、酒人内親王の項で詳しく述べられています。
三代の斎王のうち、まず井上内親王ですが、斎王→白壁王の妃→白壁王が光仁天皇になったことによって皇后に→謀反の罪を着せられて廃后→獄死という、あまりにも苛烈で波乱に富んだ人生を改めて認識させられました。怨霊になったのも当然…とも思いました。
それと同時に、謎の多い女性という印象も受けました。
例えば、彼女が産んだ多戸親王について…。実は、井上内親王が多戸親王を産んだ年齢は45歳なので、不自然だという考えも根強いようなのですよね。それで、多戸親王は実は、井上内親王の母方の一族、県犬養氏の女性が生んだ子で、生後間もなく、井上内親王の養子になったという説があるそうでこの説のことは初めて知りました。
私は、多戸親王はやはり、井上内親王自身が産んだと思うのですが、1300年近く前のことですから、真相は謎ですよね。
酒人内親王に関しては、獄につながれてしまった母や弟のことを気にかけながら、伊勢に下っていったという経験が、その後の彼女の人生に大きな影響を与えたようです。でも、酒人内親王は生涯、母の井上内親王に守られ、幸福な一生だったのではないかと書かれていました。井上内親王に守られていたという点では、朝原内親王も同様です。酒人内親王も朝原内親王も、斎王として天皇の妃として、更に一人の女性として、たくましく生きたという印象を受けました。
そして、私がこの本で最も楽しみにしていた恬子内親王の項も、とても読み応えがありました。
恬子内親王は、斎王として伊勢に赴いている間に、母の紀静子、兄の惟條親王、それに、頼もしい後ろ盾になってくれるはずだった伯父の紀有常まで失っていたのですね…。親族との縁の薄い女性だと感じました。
そうそう、伊勢物語69段は史実なのか虚構なのかについても少し、触れられていました。著者の山中さんのご意見は、業平が、惟喬親王の消息などを携えて伊勢に来たことがあり、恬子内親王とも会っていたかもしれないが、恬子内親王が業平との間に子を産んだのは疑問だとされています。
そして、もしかすると、高階茂範の養子となった師尚は、実際に業平の子だったかもしれないが、業平が別の女性との間にもうけた子だったかもしれないとも書かれていました。
更に言えば、天武天皇の後裔である高階氏が、業平と恬子内親王の恋の噂によって、平城天皇の後裔とされたのだから、それだけ皇統と近くなったということだ。高階氏にとっては、この噂は歓迎すべき話だったのでは…と述べられていました。これはなるほどと思いました。
それにしても、もし、業平との逢瀬が真実だったとしたら、恬子内親王にとっては、この一夜の思い出が一生の宝物となっていたのでしょうね。
このように、「斎宮志」は、斎王たちについて、色々な興味深いことが書かれた本でした。斎王に興味のある方、斎王についてもっともっと知りたいと思っている方にはお薦めの1冊です。
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