本日は、先日読み終わった古典エッセイの紹介です。
☆平安人の心で「源氏物語」を読む
著者=山本淳子 発行=朝日新聞出版・朝日選書919 価格=1620円
商品の内容
平安貴族の意識と記憶をひもとき、リアルな宮廷社会へと読者を誘う。そこに生きた平安人と同じ心で読めば、『源氏物語』の本当の面白さが、その奥深さが見えてくる。なぜ、宮廷の女君たちは、かくも熱中したのか?平安をひもとく全六十五編!
[目次]
第1章 光源氏の前半生(一帖「桐壷」―後宮における天皇、きさきたちの愛し方
二帖「帚木」―十七歳の光源氏、人妻を盗む ほか)
第2章 光源氏の晩年(三十四帖「若菜上」前半―紫の上は正妻だったのか
三十四帖「若菜上」後半―千年前のペット愛好家たち ほか)
第3章 光源氏の没後(四十二帖「匂兵部卿」―血と汗と涙の『源氏物語』
四十三帖「紅梅」―左近の“梅”と右近の橘 ほか)
第4章 宇治十帖(四十五帖「橋姫」―乳を奪われた子、乳母子の人生
四十六帖「椎本」―親王という生き方 ほか)
第5章 番外編 深く味はふ『源氏物語』(平安人の占いスタイル
平安貴族の勤怠管理システム ほか)
著者の山本淳子先生が、2011年から2013年にかけて朝日新聞出版から週刊で刊行された「絵巻で楽しむ源氏物語54帖」に連載されたエッセイを1冊にまとめたのがこの本です。
内容は、「源氏物語」のそれぞれの帖のあらすじを簡単に紹介したあと、その帖に関連した平安時代の歴史、人物、生活習慣、「源氏物語」に関連した様々な情報などが合計4ページでまとめられています。なので興味の赴くまま、さくさくと読むことが出来る1冊です。
感想を一言で言うなら、この本とても面白かったです。「源氏物語」を読んだことのある人なら誰でも知っていそうな基礎的な事柄から、かなりマニアックな話までバラエティーに富んでいて、新しい発見の連続でした。
以下、内容の一部を紹介します。
・平安時代の寝殿造りは大きな体育館のような所にすだれや障子戸などで仕切りがしてあるだけの建物。なので話し声は筒抜け、秘密は絶対に作れない。
・光源氏と源頼朝の血筋の違いは、光源氏が一世の源氏であるのに対し、頼朝は十世の源氏。しかも源氏の父、桐壷帝が英明な帝であったのに対し、頼朝の祖、清和天皇は藤原氏に実権を握られた影の薄い帝だった。
・光源氏と朧月夜が始めて男女の契りを結んだのは2月20日過ぎ。この日は下弦の月で、2人の逢瀬の舞台、弘徽殿西殿には月の光は差し込まず真っ暗。紫式部はこんな所まで計算していたのかとびっくり。
・平安時代、猫は貴族のペットであったのに対し、犬は庶民のペットだった。
・一般の親王は次期天皇(皇太子)の補欠のようなもの。帝位につくことはまれだった。光源氏の2人の弟、兵部卿の宮(名誉官職を歴任して風流に生きた親王)と八の宮(政争に敗れ、世の中から忘れられた親王)は親王の生き方の典型だった。
・受領階級でありながら、紫式部は受領に厳しい。常陸介や、伊予介の娘の軒端の荻の描き方は上から目線。なぜなのかというと、桐壷帝のモデルとされる醍醐天皇は紫式部の曾祖父定方の縁者、そしてもう一人の曾祖父兼輔は醍醐天皇に娘を入内させている。舞台を醍醐天皇の時代と設定したことから、紫式部は受領階級を上から目線で描くことが出来たのではないか。
など。まだまだ興味深いことがたくさん書かれていました。
上で挙げた兵部卿の宮や八の宮もそうですが、自立したしっかり者の女房たち(歴史上にも一条天皇の乳母藤三位などがいた)や玉鬘や近江の君などのご落胤(歴史上にも、和泉式部が敦道親王との間にもうけた永覚などがいた)、「源氏物語」の登場人物には、歴史上に実際に生きていた人物の境遇や生き方がしっかり反映されているのだなと感心させられました。
そして何よりも印象に残ったのは桐壷更衣のモデルは藤原定子であるという説。
没落してしまった仲関白家の娘ながら一条天皇に愛され、一度出家して還俗して、一条天皇との間に皇子や皇女を生んだことから世間から非難され、権力者道長のいじめを受けて若くして薄幸な生涯を閉じた定子の面影が、桐壷更衣に映し出されているのではないかというのが、著者の山本先生のお説です。私はこのようなことは考えたことがなかったのですが、うん、納得という感じです。
この本を読んで私は、「源氏物語」をもう一度通読してみたくなりました。平安時代に興味のある方、「源氏物語」の好きな方はもちろん、これから「源氏物語」を読んでみたいと思っている方にもお薦めの1冊です。
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著者=山本淳子 発行=朝日新聞出版・朝日選書919 価格=1620円
商品の内容
平安貴族の意識と記憶をひもとき、リアルな宮廷社会へと読者を誘う。そこに生きた平安人と同じ心で読めば、『源氏物語』の本当の面白さが、その奥深さが見えてくる。なぜ、宮廷の女君たちは、かくも熱中したのか?平安をひもとく全六十五編!
[目次]
第1章 光源氏の前半生(一帖「桐壷」―後宮における天皇、きさきたちの愛し方
二帖「帚木」―十七歳の光源氏、人妻を盗む ほか)
第2章 光源氏の晩年(三十四帖「若菜上」前半―紫の上は正妻だったのか
三十四帖「若菜上」後半―千年前のペット愛好家たち ほか)
第3章 光源氏の没後(四十二帖「匂兵部卿」―血と汗と涙の『源氏物語』
四十三帖「紅梅」―左近の“梅”と右近の橘 ほか)
第4章 宇治十帖(四十五帖「橋姫」―乳を奪われた子、乳母子の人生
四十六帖「椎本」―親王という生き方 ほか)
第5章 番外編 深く味はふ『源氏物語』(平安人の占いスタイル
平安貴族の勤怠管理システム ほか)
著者の山本淳子先生が、2011年から2013年にかけて朝日新聞出版から週刊で刊行された「絵巻で楽しむ源氏物語54帖」に連載されたエッセイを1冊にまとめたのがこの本です。
内容は、「源氏物語」のそれぞれの帖のあらすじを簡単に紹介したあと、その帖に関連した平安時代の歴史、人物、生活習慣、「源氏物語」に関連した様々な情報などが合計4ページでまとめられています。なので興味の赴くまま、さくさくと読むことが出来る1冊です。
感想を一言で言うなら、この本とても面白かったです。「源氏物語」を読んだことのある人なら誰でも知っていそうな基礎的な事柄から、かなりマニアックな話までバラエティーに富んでいて、新しい発見の連続でした。
以下、内容の一部を紹介します。
・平安時代の寝殿造りは大きな体育館のような所にすだれや障子戸などで仕切りがしてあるだけの建物。なので話し声は筒抜け、秘密は絶対に作れない。
・光源氏と源頼朝の血筋の違いは、光源氏が一世の源氏であるのに対し、頼朝は十世の源氏。しかも源氏の父、桐壷帝が英明な帝であったのに対し、頼朝の祖、清和天皇は藤原氏に実権を握られた影の薄い帝だった。
・光源氏と朧月夜が始めて男女の契りを結んだのは2月20日過ぎ。この日は下弦の月で、2人の逢瀬の舞台、弘徽殿西殿には月の光は差し込まず真っ暗。紫式部はこんな所まで計算していたのかとびっくり。
・平安時代、猫は貴族のペットであったのに対し、犬は庶民のペットだった。
・一般の親王は次期天皇(皇太子)の補欠のようなもの。帝位につくことはまれだった。光源氏の2人の弟、兵部卿の宮(名誉官職を歴任して風流に生きた親王)と八の宮(政争に敗れ、世の中から忘れられた親王)は親王の生き方の典型だった。
・受領階級でありながら、紫式部は受領に厳しい。常陸介や、伊予介の娘の軒端の荻の描き方は上から目線。なぜなのかというと、桐壷帝のモデルとされる醍醐天皇は紫式部の曾祖父定方の縁者、そしてもう一人の曾祖父兼輔は醍醐天皇に娘を入内させている。舞台を醍醐天皇の時代と設定したことから、紫式部は受領階級を上から目線で描くことが出来たのではないか。
など。まだまだ興味深いことがたくさん書かれていました。
上で挙げた兵部卿の宮や八の宮もそうですが、自立したしっかり者の女房たち(歴史上にも一条天皇の乳母藤三位などがいた)や玉鬘や近江の君などのご落胤(歴史上にも、和泉式部が敦道親王との間にもうけた永覚などがいた)、「源氏物語」の登場人物には、歴史上に実際に生きていた人物の境遇や生き方がしっかり反映されているのだなと感心させられました。
そして何よりも印象に残ったのは桐壷更衣のモデルは藤原定子であるという説。
没落してしまった仲関白家の娘ながら一条天皇に愛され、一度出家して還俗して、一条天皇との間に皇子や皇女を生んだことから世間から非難され、権力者道長のいじめを受けて若くして薄幸な生涯を閉じた定子の面影が、桐壷更衣に映し出されているのではないかというのが、著者の山本先生のお説です。私はこのようなことは考えたことがなかったのですが、うん、納得という感じです。
この本を読んで私は、「源氏物語」をもう一度通読してみたくなりました。平安時代に興味のある方、「源氏物語」の好きな方はもちろん、これから「源氏物語」を読んでみたいと思っている方にもお薦めの1冊です。
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