平安夢柔話

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姫の戦国

2007-11-11 10:49:13 | 図書室3
 今回は、珍しく戦国時代を舞台にした小説の紹介です。

☆姫の戦国 上・下 (文庫版) 永井 路子 著
1997 \各520 文藝春秋

内容
 京の公家の娘悠姫は、駿河の今川氏親のもとに嫁ぐ。武家と公家の違い、激動する戦国の世にとまどいながらも、今川義元の母として時代を生き抜く女を描く、歴史長篇。

☆永井路子歴史小説全集 12 永井 路子 著
1995 \3,873 中央公論新社

内容
 史上ただ一人という女戦国大名は公家の姫君で今川義元の母―歴史の中に埋もれた人物に光をあて、今川氏のイメージを一新した作品。

 なお、上の写真は私が所持している日本経済新聞社発行の単行本ですが、こちらは絶版となっています。文庫版と全集に関しましては、「books」のサイトでは検索に引っかかるので絶版にはなっていないと思いますが、書店によっては品切れの所もあるようですので古書店か図書館を当たってみた方がよいかもしれません。

 この小説は、京都の公家、中御門宣胤の娘で、駿河の戦国大名、今川氏親に嫁いだ女性、つまり今川義元の母である寿桂尼(1490年頃~1568年)を主人公にした小説です。

 ところで、小説では触れられていないのですが、中御門家は藤原氏勧修寺流、つまり紫式部のだんなさん、藤原宣孝の子孫に当たります。詳しくは当ブログ内の「今川義元の祖先」をご覧下さいませ。寿桂尼や今川義元が藤原宣孝とつながっていると思うと、いっそう親しみがわいてくるのではないかと思います。

 さて、本の内容と私の感想に移りますね。

 この小説の最初の方では、寿桂尼は「悠姫」という名前で登場します。時は応仁の乱から約30年…、都はまだ混乱していました。中御門家にも盗賊が進入し、悠姫も危うく命をねらわれそうになるという始末。そんなとき持ち上がったのが、駿河の大名、今川氏親との縁談でした。

 「都は混乱しているから、姫は駿河に嫁がせた方が安全かもしれない。それに今川家は足利将軍家の一族で、莫大な財産を持っているらしい」と両親もこの縁談に賛成し、悠姫も、「今川家に嫁ぐことで運を開くのだ」と前向きな気持ちで縁談を承諾、駿河に下ることとなります。そんなわけで悠姫からは、政略結婚とか、田舎に下る悲哀とかは全く感じられません。

 こうして今川家に嫁いだ悠姫ですが、幸い夫となった氏親は優しい男で、悠姫もそれなりに幸せな毎日を送ることとなるのですが、武家と公家のしきたりの違いに戸惑ったり、度重なる戦乱に恐れをなしたりします。
 そのうち、夫がよその女との間に子供をもうけていた事実が発覚したり、姑との確執…、様々なことで悠姫は悩むようになります。そんな折り、氏親は病気になり、政務を見ることが困難になってしまいます。そこで悠姫は、まだ幼い息子、氏輝を助け、夫に変わって政務を見ることになったのでした。有名な「今川仮名目録」の作成にも、悠姫が関わっていたと言われています。

 氏親の死後、髪を下ろして寿桂尼となった悠姫ですが、相変わらず氏輝を助けて領国経営に当たります。この頃から彼女は、立派な女戦国大名になっていったのです。しかし、そんな彼女を大きな不幸が襲います。氏輝と、その弟の彦五郎を続いて亡くしてしまうのです。しかし彼女には泣いている暇はなく、出家をしていたもう一人の息子承芳を還俗させて今川義元と名乗らせ、家督を相続させます。そして、その義元のよき相談役で軍師だった人が太原雪斎です。このように寿桂尼・義元・雪斎の3人は一致団結して、駿河の領国経営や隣国の相模・甲斐との外交を行うこととなるのでした。しかしその後、今川家を待ち受けていたものは…。

 この小説を読んでの感想はまず、今川家に対するイメージが変わったということでしょうか。

 今川家は私の地元の戦国大名ですが、はっきり言って地元でも人気がありません。それはやはり、桶狭間での義元の敗戦に原因があるのでしょうけれど、どうしてどうして、義元はなかなか優れた人物だったようなのです。この小説でも強調されていますが、領国の近代化を進めるために善政を行っていました。頭も良く武術にも優れています。そしてその義元をしっかりと補佐していたのが、先にも書いたように寿桂尼と雪斎だったのです。このように義元は側近にも家臣にも恵まれていました。

 義元だけでなく、氏親や氏輝も立派な人物だと思いました。特に、永井さんの描いた氏親は魅力的です。悠姫を悩ませるところもありますけれど、当時は一夫多妻が当たり前ですから、それは大目に見てあげなくては…と思います。エンディング近くで、氏親が寿桂尼の心に語りかける場面がありますが、彼の優しさがあふれていて感動的です。

 しかし、この小説で一番強烈なのはやはり、寿桂尼という女性の生き様です。今川家の女あるじとして見事に生きた彼女のことは、もっと注目してあげてもいいと思いました。何しろ彼女が生きている間はあの武田家も、駿河を攻めることはできなかったのですから…。小説のエンディングで寿桂尼に使えていた侍女が、「尼御台様は、そこにおいでになるだけでご当家の支えになっていらっしゃいました。」とつぶやくのですが、この言葉が彼女の生き方を象徴しているように思えました。

 そして、様々な困難に遭いながらいつも前向きで、明るい寿桂尼からは、私もたくさん学ぶことがありそうです。この小説はかなり波瀾万丈で、描き方によってはかなり暗く惨めな小説になってしまうところなのですが、寿桂尼の明るさがそれを救っているように思えます。そのようなわけでさらっと気楽に読めますのでお薦めです。

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